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トップ公式戦初出場の久保建英に見る、 メッシのデビュー戦との共通点

5/5(金) 17:28配信

webスポルティーバ

 2017年5月3日、味の素スタジアム。ハーフタイム、少年はピッチに入ろうとすると、チームメイトから呼び止められた。納得した顔で、彼はタッチラインの外に出る。そこで何基ものスプリンクラーが飛び出し、一斉に放水が始まった。少年はその飛沫を眺めながら、2リットルのペットボトルを両手で持ち、水を飲み下した。渇きを癒してから、足もとのボールを愛おしそうに転がし、放水が終わるのを待った。

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 彼が試合のピッチに立つのは、後半66分のことだ。

 久保建英(FC東京)はルヴァンカップ、コンサドーレ札幌戦でJ1トップチームデビューを飾っている。

 15歳の少年がトッププロのピッチに立つ。そこに沸き立つのは底知れぬ期待感だが、わずかながら意地悪な勘ぐりも混ざる。

 少年はホンモノなのか?

 それを見極めたくて、たとえ見極めきれなくても姿を目にしたくて、2万人近い観客が集まった。同日に開催されたルヴァンカップの試合では最多だ。

「久保建英」

 交代出場でその名前がコールされると、ひと際、歓声が大きくなった。

「応援に聞き入ってしまって、集中できなかったらどうしよう、と不安でしたが、そうはならなかったですね。スタジアムに入ってきたときは観客が多くて緊張しました。でも、ピッチに入ってからは緊張している場合じゃないので」

 久保はデビュー直前の心境を語っている。15歳らしいあどけなさも残る。しかし、プレーヤーとしては大人と比較して遜色なかった。

 トップ下、もしくはセカンドストライカーとして登場。交代直後に平然とシュートを放つ(DFがブロック)。堂々とパスを弾き、味方にパスを要求し、相手ボールのときのプレス強度も高かった。

「落ち着いていて、15歳とは思えませんでした。ゲーム慣れしているというんですか。短い時間で、何をすべきか感じ取って、我々にとって嫌なことをしてきました」

 札幌の四方田修平監督は賞賛を送っている。
 
 そして久保は後半83分、才能の片鱗を見せた。ギャップに入ってフリーでボールを受けると、淀みなくターンした後、躊躇(ためら)うことなくボールを前に運び、左足シュートまで持ち込んでいる。直前に後ろからチャージを受け、これはFKになったが、前に行く果断さ、高いボールスキル、シュートに持ち込む強引さ、どれも15歳のそれではなかった。

 ルーキーで「ドリブルで仕掛けるのが得意」という選手がいる。しかしデビュー戦では、90分間戦っても一度も見せられない、というケースのほうが多い。1回と0回、そこには大きな溝がある。久保は前者だった。

「あそこで仕掛けなかったら、ストライカーではないので。後ろから来ているのは分かったので、倒されるくらいならシュート打っておこうと思いました。ファウルになってよかったです」

 久保は平然と言ってのける。そして自ら得たFKを左足で蹴っている。ニア上を狙ったキックは落ちきらなかった。目を見張るべきは、彼が蹴ったという事実だろう。本来は右利きのキッカーの位置。キャリアのある年長選手は大勢いた。

「周りから蹴るように勧められた」と本人は言うが、自分が決める、という覇気が漲(みなぎ)っていた。それを周りが感じ取った、という方が正しい。少年は、誰かに蹴らせてもらったのではなく、自ら蹴ったのだ。

 結局、これが久保のハイライトになっている。

 実際の話、チームの戦いに貢献できたか、というと微妙なところではある。久保が入ってからFC東京のペースは落ちた。攻勢に出た札幌に押されることになった。久保自身、決定的な仕事はひとつもしていない。

 もっともFC東京にはチーム構造上、組織的な動きに鈍さがある。選手同士の距離が悪く、ラインが下がりすぎ、ビルドアップでノッキングを起こすこともしばしば。集団戦術が成熟していない。ルーキーがこの環境でいきなり入ってプレーするのは至難の業だろう。サポートに行ってもボールは出てこず、ボールを出そうとするとサポートがない。個人戦になりやすく、フィジカルの差が出てしまうのだ。

 久保は周りの選手と比べて、体格的な劣勢は明白だった。

 ただ、少年は極力、自分の欠点を隠そうとしていた。長所だけを出す、見せる。それも一流選手になる条件である。この日、彼はその”資格”を証明した。

 筆者は2004年10月、後に世界最高の選手となるリオネル・メッシのリーガエスパニョーラ、デビュー戦に遭遇したことがある。17歳だったメッシは、淡々としている印象だった。出発点に過ぎないとわきまえていたのか。忘れられないのが、当時の指揮官フランク・ライカールトの言葉だ。

「(デビューは)ギフトではない。レオ(メッシ)は単純にいい選手だから、今日はプレーした。ギフトを贈るなら、友人をプレーさせるさ。レオはこれから練習で、またいい選手であることを見せる。それだけの話だ」

 プロの世界、デビューには相応の意味がある。そしてそれはスタートであってゴールではない。

「今日は自分のプレーが出し切れなかった。(ゴールを)決めなくちゃいけなかったと思います。今の時点で、同年代の選手よりも半歩前にいると思いますが、スタートだけでなく、失速せずこのまま上へ……」

 喧噪の中で語る久保が、悔しさや歯がゆさを募らせていたのが、とても印象的だった。

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

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