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本当だった霜田氏招聘案。タイ代表新監督をめぐる混乱と日本人指導者擁立の理由

5/6(土) 10:01配信

フットボールチャンネル

 4月26日、タイサッカー協会はタイ代表の新しい監督として、セルビア人のミロヴァン・ライェヴァツ氏の就任を発表した。途中、幾人もの日本人候補者の名前も挙がった中、タイはガーナ代表監督として南アフリカワールドカップでベスト8に進出するなど、経験豊富な指揮官に代表を託した。前監督の突然の辞任劇の裏で何が起き、新監督選出に至るまでどんな経緯をたどったのか追った。(文:長沢正博【バンコク】)

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●岡田元日本代表監督らも候補に!? 霜田氏はタイで協会幹部と面談

 3月31日に起きたキャティサック・セーナームアン前監督の突然の辞任発表から約1ヶ月。タイ代表の新監督はガーナやカタールで代表監督も務めた経験を持つ63歳のライェヴァツ氏に決まった。特にガーナでは南アフリカW杯でチームを準々決勝に導き、ウルグアイにPK戦の末に敗れている。延長後半終了間際にウルグアイのFWルイス・スアレスが、退場覚悟のハンドで決定的なシュートを拒んだ試合として覚えている人もいるかもしれない。

 ライェヴァツ氏選出に至るまでに、日本代表コーチの手倉森誠氏や元日本代表監督の岡田武史氏といった日本人の名前もメディアには挙がった。これは、タイサッカー協会で技術部門の責任者を務めるヴィタヤ・ラオハクル氏が当初新監督に関して「タイ人でないとしたら、日本人にすべき」等とメディアに発言したことから、日本人指導者にもスポットが当たったと見られる。

 その他、元バルセロナ監督のフランク・ライカールト氏や元日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏、ジーコやドゥンガ氏といったビッグネームまで、計20人以上がリストにあるとタイでは報じられた。

 ただ、中には代理人がプロフィールを送って来ただけのケースもあり、実質的な選考はタイで協会幹部と本人の面談が行われた元タイ代表監督のヴィンフリート・シェーファー氏、元マンチェスターユナイテッドコーチのレネ・メウレンステーン氏、元サウジアラビア代表監督のマルコス・パケタ氏、元イラク代表監督のジョルバン・ビエイラ氏、元中国代表監督のアラン・ペラン氏、前ムアントン・ユナイテッド監督のドラガン・タライッチ氏、ライェヴァツ氏、そして日本サッカー協会前技術委員長の霜田正浩氏らの間で進められたと見るべきだろう。ただ、それも4月24日の時点で “アジア人以外の3人”という表現で絞られ、霜田氏も脱落していた。

 タイ代表は現在、ロシアW杯アジア最終予選で1分け6敗の勝ち点1。予選敗退も決定し、キャティサック前監督は成績不振の責任を取った形の辞任とも取れるが、そもそも前監督と協会は2月28日に契約を1年延長したばかりだった。それがなぜ、わずか1ヶ月後に辞任することになったのか。

●流れが変わったサウジ、日本との連敗 協会会長からは「恥ずかしい」発言も

 実は前監督と協会との不協和音は以前から聞こえていた。昨年末にも、協会が元アルゼンチン代表監督のアレハンドロ・サベーラ氏の招聘を検討していると報じられている。それはAFFスズキカップ(東南アジアサッカー選手権)でタイが2大会連続の優勝を果たした直後のタイミングだった。

 その時は噂の段階で話は立ち消えになったが、協会がキャティサック前監督との契約延長交渉を始めたのは、契約期間が満了した今年2月に入ってからだ。

 交渉の過程では、協会から示された契約内容に関してキャティサック前監督側から何らかの変更が希望されたと見られている。そして2月下旬、協会側から当初の契約内容通りでサインしなければ新しい監督を探す旨が突如発表され、設けられた期限最終日の同28日に、ようやくキャティサック前監督が1年契約にサインするに至った。

 その後迎えた3月のアジア最終予選は、ホームのサウジアラビア戦(23日)は0-3、アウェイの日本戦(28日)でも0-4と連敗に終わる。厳しい見方をすれば想定通りの結果とも見ることができるが、そうは捉えていなかったようなのが、サッカー協会のソムヨット・プンパンムアン会長だった。

 日本戦後の3月30日、前タイ警察長官のソムヨット会長はメディアに「変革の時が来た」と語り、さらに0-3、0-4という結果に対して「私は恥ずかしい」という発言まで飛び出した。後に「(恥ずかしいは)言い過ぎだった」と認めたが、「解任しても違約金はかからない」などの発言は続き、監督更迭が一層現実味を帯びていった。

 そして同31日、まず大手スポーツメディアによって「協会は監督を解任へ」と報じられる。すぐさまソムヨット会長らが解任を否定するニュースが流れていったが、その最中に今度はキャティサック前監督が個人のインスタグラム上で辞任を発表するという、何ともちぐはぐな終わり方だった。

●ライェヴァツ新監督の契約期間は1年 協会は新チームの何を評価していくか

 チームの成績が振るわない状況下で、監督の交代というのは不自然なことではない。経験豊かな指揮官の下で新たな可能性を探ることも十分考えられる選択肢だ。ただ、一連の流れを見ていたものとしては、前監督の辞任劇には後味の悪さが残った。

 ともあれ、ライェヴァツ氏の契約期間は5月からの延長オプションありの1年となっている。初采配は、6月6日に行われるウズベキスタンとのアウェイでの強化試合となる。

 その他、1年以内に予定されている試合としてはUAE、イラク、オーストラリアとの対戦が待つアジア最終予選の残り3試合。また、7月にはタイで代表強化のためにキングスカップが開催される見通しだ。

 タイは既に2019年のAFCアジアカップ本戦出場権も得ている。協会は今後、国際Aマッチデーを中心に強化試合を組む方針というが、その他1年以内に大きな公式戦はない。

 タイサッカー協会のスポークスマンはメディアに「最初の目標はFIFAランキングを上げること」と話している。ただ、選手の入れ替わりも予想される中、協会は限られた時間と機会で新チームに何を求め、ライェヴァツ新監督は何を示すことが出来るのか。仮に短期間の成績を基に前監督辞任時のような一部感情に先走った議論が進んでしまうと、代表の強化に良い影響があるとは思えない。

 既に東南アジア圏内では頭一つ抜け出した感のあったタイも、最終予選でのアジアの強豪国との戦いでは、まだレベルの差を見せつけられた。タイは、この壁を超えることが出来るかの一つの正念場を迎えようとしている。

(文:長沢正博【バンコク】)

フットボールチャンネル編集部

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