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永瀬正敏「“私は見るのではなく映画の世界に入り込んでいるんです”という視覚障害の方の言葉に、俳優として考えさせられました」

5/6(土) 18:00配信

ダ・ヴィンチニュース

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、永瀬正敏さん。深い感動を呼んだ映画『あん』に続き、河瀨直美監督と再びタッグを組んだ映画『光』では、次第に視力を奪われていくカメラマン・中森雅哉を演じた。出演作が100本に迫る全身映画俳優は、今、何を思うのか。

「僕ね、あらためてちゃんと写真をやろうって思ったのって『ダ・ヴィンチ』さんの取材がきっかけだったんですよ」
 インタビューした際に、写真にまつわる意外なエピソードを明かしてくれた永瀬さん。
「もう時効だと思うので、正直に言うと、昔、カバーモデルをやらせていただいた時(1994年11月号)に、撮影で使うつもりでいた写真集を忘れて、当時つきあっていた彼女に貸してもらったんです。もちろん、その写真集は僕も好きだったんですけど、本当は別のを持っていこうと思っていたので、撮ってもらっている最中に、ふっと、『これ本当は彼女の物なんだよな』って頭によぎったんです。その時カメラマンの荒木経惟さんに“そうそう、彼女の物を優しく抱くように”って言われて、うわ、全部バレてると思って。
 この話をすると、“俺も”って……。荒木さんに見抜かれたって人はいっぱいいるんですよ、心の中で勝手につくっていたストーリーを、そのまんま言われて、バーッと涙が流れたところを撮られた、とかね。やっぱり、天才というか、それが写真って凄いな、深いなって思ったきっかけだったんです」
 映画『光』では、孤高のカメラマン・中森雅哉を演じている。
「映画に雅哉の写真集が出てくるんですけど、河瀨監督が書かれた彼のプロフィールには“まるでハンターのような目をして、シャッターを切っていく”というくだりがあって。カメラを向けると、人間ちょっと構えるじゃないですか。たぶん雅哉は、そういうのが嫌いで、つくろってるものをひっぱがして素の心を撮りたいんだと思う」
 次第に視力を奪われていく雅哉は、視覚障碍者のための音声ガイドの仕事をする美佐子と出会い、互いに惹かれあうようになる。
「撮影場所の奈良に入る1カ月くらい前に、視覚障害の方たちにお会いして、話を聞き、自宅を見せてもらったりしたのですが、その時に気づいたことがいろいろあって……皆さんにはすごく感謝しています。映画にもマサコさんという視力を失っている方が出てくださっているんですが、音声ガイド用の試写をしている場面で、“私は見るのではなく映画の世界に入り込んでいるんです。自分の周りには無限の世界が広がっている。だから映画全体に横たわっているものが大切なんです。”というあの言葉って、せりふじゃないんですよ。あの時出たマサコさんの素直な気持ちなんです。それに僕はやられまして。自分は今までそういうふうに演じてきただろうかって思って」
 視力を失った人が見ているのは、決して闇ではない。大切なものを奪われても、なお見える光がある。もっと言うなら、映画こそが、闇を照らす光そのもの。自らの故郷奈良を舞台にしたこの作品には、河瀨監督の映画愛が詰まっている。
「この映画は、河瀨さんそのものだと思います。河瀨さんはイコール映画だと思うので。監督は、今回自分と向き合われたのかなと」
 永瀬さんにとっても、自らの原点を再訪する瞬間があった。
「河瀨組って、(準備期間も含めて撮影中は)雅哉と美佐子として話してるぶんには全然オーケーなんですけど、永瀬が彼女に話しかけるのはご法度なんですね。でも、今回、監督が藤竜也さんの隣に椅子を置いて、話しなよって言ってくださって。藤さんとは、デビュー作の『ションベン・ライダー』で共演していて、僕の役者人生の原点でもある。そういうことをちゃんとわかってくれてるんだって、ちょっとぐっときました。白川和子さんとも、僕は初めて出たドラマで共演していて、現場で感じたそういう気持ちが全部、映画にプラスされてるんですよ。本当に不思議。監督って不思議な人なんです。自然を取り込む力も含めて。
 映画が終わっても、雅哉の人生は、観てくださった方の心の中でずっと続いていくと願っています。そこもふくめてすべて観ていただけたら」
(取材・文=瀧 晴巳 写真=冨永智子)

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