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フランス大統領選、ごく普通の人々が「極右」を志向する理由

5/7(日) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 世界が注目するフランス大統領選挙は、いよいよ5月7日、中道系の前経済相マクロン氏と極右の「国民戦線」党首ルペン氏の間で決選投票が行われる。

 オランダでは3月16日に下院選が行われ、ルッテ首相率いる与党自由民主党と、連立を組む労働党がともに議席を大きく減らした。自由民主党は第一党を維持するものの、極右政党の自由党が政権奪取に向けて勢いを増してきている。ドイツでも2013年2月に結成された極右政党である新党AfD(ドイツのためのもう一つの選択)が、まだ議席を取るまでには至っていないが急激に支持を広げてきている。

◆20世紀に勝利したのは「民主主義」ではなく「資本主義」だった

 彼ら極右に共通した主張は、「反ユーロ」「反難民」「反イスラム」である。

 このような極右勢力が、ナチス・ドイツで学習したはずのヨーロッパでまたしても台頭してきたのはどうしてだろうか。

 それは、20世紀の終わりに向けて顕在化し、21世紀に入って顕著になってきた諸問題(すなわち、戦後体制の転換、経済のグローバル化、ヨーロッパ統合、格差そして移民・難民問題)によるものだろう。

 20世紀には3つのイデオロギー、「ファシズム」「共産主義」「民主主義」が競った。そして「民主主義は勝利した」とブレジンスキーは書いている。しかし、真に勝利したのは民主主義ではなく資本主義だった。

 露骨な不平等をつくりだす市場資本主義、グローバリゼーション、そして過度の金融依存。 経済学者ジョセフ・E・スティグリッツは、“世界に分断と対立(The Great Divide)をばら撒く経済の罠”すなわち“エセ資本主義”によって民主主義は重大な危機に瀕しているという。

 資本と労働のグローバル化によって、国家は一定の政策領域の排他的支配を放棄せざるを得なくなり、国民国家の自立性の偉大な時代は過去のものになってしまった。EUもグローバル化という時代の要請に適応していき、資本主義に歩み寄ったわけである。

◆自信を喪失したヨーロッパ人が、新しいアイデンティティを求めている

 しかし、国民国家が姿を消してEUに統合されても、文化や伝統の多様性は今日でもヨーロッパの理解のための基本であることに変わりはないし、国民国家がヨーロッパで終焉したことにはならない。国民国家意識はヨーロッパ意識よりもはるかに強くあり続けるであろう。しかし、いまヨーロッパ人は自信を喪失し、新しいアイデンティティを求めているのではなかろうか。

 トランプ米大統領の出現によって「ポピュリズム」という言葉が最近よく使われるようになった。「ポピュリズム」を日本語でいうと「大衆社会の全体主義」だろう。かつてナチスがこれを利用して大成功した。

 ユダヤ人の哲学者でジャーナリストのハンナ・アーレントは「悪の凡庸さ」という言葉を発明して世界的に有名になった。これは、虐殺などの恐ろしい行為がごく普通の人々によって生まれることを意味し、ナチスの全体主義を批判するのに用いられた。いまの極右勢力の台頭も、ごく普通の人々がそちらに流れているという現象だ。

 大衆社会は、生活の安定性と持続性を破壊する市場原理主義への疑問を呈し、アフリカや中東から押し寄せる難民が生活の安定を脅かすのではないかと不安を訴える。彼らの権利、願望、不満、恐れをすくい上げて、ポピュリズムが伸張するのは当然の成り行きだろう。

◆極右に向かうフランス、ドイツ、オランダ、極左に向かうギリシャ、スペイン

 ちなみに、フランス、ドイツ、オランダの1960年以降の外国人人口割合(%)は、下記のように急上昇している。

フランス:1960年【4.7】1976年【6.6】1990年【6.4】2014年【12.4】

ドイツ:1960年【1.2】1976年【6.4】1990年【8.2】2014年【13.2】

オランダ:1960年【1.0】1976年【2.6】1990年【4.6】2013年【11.6】

出所:Y.soysal, Limits of Citizenship (Chicago,1994年) およびOECD International Migration Outlook (2016年)

これら難民は、出口の見えないシリアの内戦、アフリカ各地の支配層の腐敗による地域紛争そしてISISの出現等によるもので、ヨーロッパ社会と社会システムに大きな影響を与えている。

 ヨーロッパ諸国の2016年における失業率を見てみよう。極右政党が台頭してきたフランス、ドイツそしてオランダは下記の通り。

 フランス:10.04%

ドイツ:4.16%

オランダ:5.0%

 この3か国ではフランスの失業率が特に高い。4月末、大統領選挙絡みで放送されたテレビ番組のインタヴューで、フランスの有名校を卒業しても就職できないある若者が、父親をナチスの強制労働で殺された母親の反対を押し切って「国民戦線」に加わったという内容のものがあった。また同番組では、ブルターニュ地方の伝統的な農家がEUの規制から行き詰まり「国民戦線に鞍替えする」と語ってもいた。

 一方、スペインでは、若者や学者など知性派の市民運動から始まった極左政党ポデモス(最近は中道左派よりに変化している)が2016年末の総選挙では第三党に躍進し、一時支持率が与党を抜いてトップに立った。ギリシャでは、2015年に最大野党の急進左派連合が政権を握った。両国の失業率は、ギリシャが23.55%、スペインが19.64%(ともに2016年)だった。ギリシャとスペインは経済危機と失業問題から、右翼より左翼のほうに引っ張られているのだ。

 最近になって気がついたことがある。世界には何の理想も何の偉大さも持ち合わせない政治家ばかり。“知の巨人”といわれるような偉大な哲学者や歴史家や科学者がいなくなった。偉大な芸術家が出なくなった。グローバル化によって世界の単一化が進み、文化の多様性が消滅、国民国家の偉大な指導者も哲学者も芸術家も、必要がなくなったのだろう。

 いま世界は“経済の危機”、“社会の危機”そして“環境の危機”という出口の見えない三重苦に直面している。これは、約300年続いたヨーロッパ発の西洋合理主義文明の終焉を感じさせる。

<文/谷口正次 photo by Global Panorama via flickr(CC BY-SA 2.0)>

資源・環境ジャーナリスト。NPO法人「ものづくり生命文明機構」副理事長、サステナビリティ日本フォーラム理事。著書に『経済学が世界を殺す~「成長の限界」を忘れた倫理なき資本主義』(扶桑社新書)など。

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