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エマニュエル・トッド理論から読む。フランスで、なぜイスラム系テロが頻発するのか? 

5/8(月) 12:00配信

BEST TIMES

極右政党のルペンか、それとも中道系マクロンかで揺れたフランス大統領選挙。英国のEU離脱、トランプ政権樹立など、世界情勢はいま大きく動いているが、こうした変化を「予言」したのが、フランスの人類学者エマニュエル•トッド氏だ。明治大学で「トッド入門」講義を展開し、新刊『エマニュエル•トッドで紐解く世界史の深層』を上梓する鹿島教授が、世界史の深層を読み解き、混沌とする現代社会の問題を鋭く斬る! 

■「イスラム• スカーフ」事件

  

 フランスでなぜイスラム系のテロが頻発するのかという問題ですが、それは次のように説明できます。

 トッドは、「家族システム」という考え方において、家族をその類似点と相違点から、大きく4つの類型に整理して考えています。フランスは、この分類では「平等主義核家族」に分類されています。家族に見られる特徴としては、「親は早めに子供と関係が切れて、子供が結婚したあとに同居しない。兄弟どうしが「平等」の扱いになり、財産は兄弟どうしで、原則として完全に「平等分割」される」。といったことがあげられます。平等主義核家族はフランス(パリ盆地)のほかに、スペインやポーランド、イタリア(南部)などがあります。

 フランスは、平等主義核家族のうち最も統合原理の強い国です。それは共和国憲法の第一条に「フランスは一にして不可分なライック(脱宗教的)で民主主義的な共和国である」と明記されていることから明らかです。つまり、フランスは宗教や出身国籍による中間団体的なものは認めず、ただフランス人という一点だけで統合を図ろうとするきわめて統合圧力の強い国なのです。もちろん個人としてはどんなことを主張しても民族的一宗教的にふるまっても構いませんが、それを公共の場で主張してはいけないことになっているのです。学校にイスラム・スカーフを着用してきたイスラム系女生徒からスカーフを取り上げたという「イスラム・スカーフ」事件はこうした共和国原理から導きだされています。

■ 遺物扱いされるイスラム系住民の社会問題

 しかし、それくらいならまだいいのですが、問題は統合原理が婚姻にまでおよぶことです。思い出してください。イスラム圏は内婚制だったことを。つまり、イスラムの青年は、もし、イスラムの女性が一人、非イスラム系の男性と結婚してコミュニティを去れば、結婚相手がいなくなることを意味します。こうした「女性を奪われる」という恐怖と恨みは思いのほか強いものなのです。そのため、現在、フランスではイスラム系の住民は遺物扱いされて、社会問題となっていますが、しかし、平等主義核家族は最終的には統合の方向に働きますから、イスラム移民でも第三世代、第四世代となるに従って全員フランス人となっていくことでしょう。というわけで、将来においてフランスでは移民問題は深化しないというのがトッドの予測ですし、私もそう思います。

 移民が深刻な問題となりうるのはむしろドイツ、オーストリア、スェーデン、ノルウェイ、それに日本、韓国といった直系家族の国なのです。

(『エマニュエル•トッドで紐解く世界史の深層』より構成)

文/鹿島 茂

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