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【月刊『WiLL』(6月号)より】移民のせいでドイツが亡(な)くなる

2017/5/8(月) 9:00配信

WiLL

「ドイツ廃絶」

 そのことは近年の世論調査でも浮き上がる。昨年公表されたミュンスター大学の調査によれば、「自分の宗教の戒律は今住んでいる国の法律よりも重要」と答えた在独トルコ系移民は47%に上った(ただし、世代別で見ると、その割合は移民1世の方が2世、3世よりも高く、2世、3世がイスラム色を強めているという一般的言説を必ずしも裏付けていない)。
 また、「社会秩序は預言者ムハンマドの時代に回帰すべきだ」と答えた割合も32%に上った。
 トルコ系移民の疎外感は強く、半数がドイツ社会から認知されない「二等市民」と感じているという結果も出た。
 既に五年前の2012年、ドイツ内務省の委託で行われた大規模調査「ドイツに住む若年層ムスリムの生活世界」でも衝撃的な結果が出ていた。これはトルコ系とは限らないが、14歳から32歳のムスリムの4分の1が「ドイツ社会に自らを統合させる意思はない」と答えた。

PC大国

 これら若者の大半の家庭は厳格なイスラム信仰を持ち、西欧社会に反感を抱き、暴力を許容する傾向もあることも浮き彫りにされた。
 ナチスの罪を背負い、その過去の清算、ナチズムの全否定を国是とするドイツは、「ポリティカル・コレクトネス(PC)大国」である。移民や異文化、人種などについて差別的発言をした政治家は失脚を余儀なくされる。
 政治エリートは「移民との融和」という理想の掛け声をしきりに口にする。メルケル内閣の実力者ショイブレは内相時代の2006年、「イスラムはドイツの一部である」と宣言し、「ムスリムを歓迎する」とまで述べた。2010年、当時の大統領ヴルフや内相のデメジエールも「ドイツはイスラムの母国の一つになった」などと発言した。
 しかし、エリートによるそのような修辞に大衆は違和感を覚えていた。であればこそ、移民をめぐるポリティカル・コレクトネスの文化に真っ向から挑戦した経済学者ティロ・ザラツィンは巨大な反響を巻き起こしたのだった。
 10年、当時ドイツ連銀理事だったザラツィンが出版した『ドイツ廃絶』は大ベストセラーになった。
 その内容は、ムスリム移民がいかに同化せず、ドイツに経済的・社会的な負荷をかけているかを扇情的な文体でつづったものだが、最も刺激的なのは出生率の高いムスリム移民と深刻な少子高齢化が進行するドイツ人とが迎える近未来の緊張を、歯に衣着せぬ筆法で描いたことにあった。
「手遅れにならないうちに、知能の高い親は子供たちを多く生め」「トルコ系、旧ユーゴ系、アフリカ系の三大移民グループは最も教育が欠落し、社会保障のコストも最大だが、その人口増加は最も急激である」──など、その語り口はナチスのゲルマン民族絶対優越のドグマを思わせた。ザラツィンは保守政党ではなく、移民に寛容な政策を唱える中道左派の社会民主党(SPD)の政治家として活動していたが、党から除名されたほか、連銀理事のポストも失った。
 しかし、この本は今なお書店で平積みにされ、息の長いベストセラーになっている。
 刊行後、与党の有力閣僚が「ドイツがイスラムの母国だなどという言説は歴史的に証明されていない」と述べるなど、「ザラツィン現象」に迎合する言動もあった。ザラツィンを取り上げた新聞・雑誌の記事は今もよく読まれるという調査もあるが、そこにはドイツの移民問題が、綺麗ごとではすまない深刻な段階に入った現実がある。ザラツィンのような誰かがタブーを打破しなければならなかった。
 反移民政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が勢力を伸ばし、今年9月の総選挙で連邦議会に議席を獲得する見通しになっているが、それも時代の空気である。

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最終更新:2017/5/8(月) 9:00
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