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柏・細貝萌がもたらす「勝利の方程式」。7季ぶりのJ復帰、レイソルでの新しい挑戦

5/8(月) 15:56配信

フットボールチャンネル

 3試合連続の無失点を含めて4連勝中の柏レイソルに、サッカー版「勝利の方程式」が生まれつつある。3月下旬にシュトゥットガルトから電撃移籍し、7シーズンぶりにJリーグへ復帰したMF細貝萌が、リードしている展開でのクローザー役として機能しはじめている。現時点で起用された5試合の勝率は100パーセントを誇るが、元日本代表の31歳は濃密な経験を若いチームに伝え、自らもレベルアップを果たすことで、少年時代にファンだったレイソルをさらに高いステージへ導こうとしている。(取材・文・藤江直人)

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●「いまはクローザーのような役割」

 ほとんどのメディアが引き揚げた日立柏サッカー場の取材エリアに、MF細貝萌は黄色いユニフォーム姿のままで現れた。セレッソ大阪との熱戦に沸きあがっていた、今シーズンで最多となる1万4015人の観衆で埋まったスタンドが、静寂さを取り戻してからかなりの時間が経過している。

 キャプテンのMF大谷秀和とともに、試合後のドーピング・コントロールの対象として選ばれた6日のJ1第10節。おそらくはチームスタッフから、数人のメディアが待っていると告げられていたのだろう。検査を終えてからロッカールームへは戻らずに、そのまま取材エリアへ足を運んでくれた。

「コンディション自体はそれほど悪くないんですけど、やはり試合の途中から出場することはすごく難しいので。いまはクローザーのような役割と言われていますけど、相手が毎回同じサッカーをしてくるわけでもないし、同じ選手がいるわけでもないので」

 試合を振り返る表情には疲労感と、ちょっぴりの達成感も同居させている。ブンデスリーガ2部のシュトゥットガルトから柏レイソルへの完全移籍が電撃的に発表され、浦和レッズに在籍していた2010年以来、実に7シーズンぶりとなるJリーグへの復帰が決まったのは3月下旬だった。

 以来、J1の舞台では、後半31分からピッチに立ったセレッソ戦を含めて、5試合すべてで途中出場を果たしている。しかも、1‐1の同点だった4月16日のヴィッセル神戸戦を除けば、すべてレイソルがリードしている試合終盤での起用が続いている。

 果たして、リードしている4試合はそのままシャットアウトで勝利。ヴィッセルにも勝ち越し点を許さずに、後半アディショナルタームに飛び出した、FW大津祐樹の劇的な決勝ゴールを導いた。現時点で、細貝がピッチ上にいるトータル75分間は、相手にまだ1点も与えていない。

●レイソルのファンだったサッカー少年時代

 中盤の底でハードワークを繰り返して相手の攻撃の芽を摘み、ボールホルダーに激しくプレッシャーをかけ続ける。レイソルの5位浮上に、少なからず貢献している実感があるのだろう。一方でYBCルヴァンカップでは大宮アルディージャ戦、ジュビロ磐田戦と2試合続けて先発フル出場を果たしている。

「ルヴァンカップの大宮戦が、練習試合を含めて本当に6ヶ月ぶりくらいの90分間出場だったので。自分としては試合数を少しずつこなしていくことが重要なので、いまの状況に対して焦りとかはないですね」

 ブンデスリーガの強豪レバークーゼンへ完全移籍し、武者修行として当時2部のアウグスブルクへ期限付き移籍したのが2010年12月。主力を担ってチームの1部昇格に貢献し、2012‐13シーズンからは満を持してレバークーゼンへ復帰したが、確固たる居場所を築きあげるには至らなかった。

 翌2013‐14シーズンからはヘルタ・ベルリンへ新天地を求め、2015年8月にはトルコのブルサスポルへ期限付き移籍。昨夏にシュトゥットガルトへ完全移籍し、浅野拓磨とチームメイトになったが、右太ももの肉離れや右足小指の骨折などもあって出場機会を得られない状況が続いていた。

 何よりもアウグスブルクで出会い、ヘルタ・ベルリンでも師事し、シュトゥットガルトでも再び巡り合ったヨス・ルフカイ監督が、シーズン開幕直後の昨年9月に電撃辞任。若返りが進められたその後のチーム内に居場所はないと、6月に31歳になる細貝は感じるようになったのかもしれない。

 ヨーロッパのシーズンが終盤戦にさしかかったころに、レイソルからオファーを受けた。細貝の地元・群馬県の先輩で、現在は千葉県内で指導者を務める大野敏隆氏が「10番」を背負って活躍していたこともあって、サッカー少年時代はレイソルのファンだった。

●ドイツと日本で異なるピッチ。ソールはミックスに

 小学校の卒業文集には「将来はレイソルでプレーする」と綴るなど、まさに憧れのチームの一員となったいま、運命に導かれた縁というものを感じずにはいられない。

「自分と同じ世代が多くクラブからもお話をもらいましたけど、やはりレイソルが僕のことを必要としてくれたので。いままでも日本に帰りたくないと思っていたのではなくて、結果としてヨーロッパに7シーズンいたという感じだったですけど。なので、僕自身としては日本に戻ってきたというよりも、次に挑戦した場所が日本のクラブのレイソルだったという感覚のほうが大きいですね」

 レイソルに合流してまず覚えたのが、日本特有の硬いピッチに対する違和感だった。いまは収まっているものの、一時期は内転筋に張りを覚えたのも、スパイクを介して硬いピッチからもたらされる反動と決して無関係ではないだろう。

 ドイツやトルコでは6本のスタッドが固定されたスパイクを使用してきたが、Jリーグへの復帰にあたって、考え方を180度転換した。

「ピッチが硬い分、固定式でプレーするアイデア自体が僕にはなかったので。やはり守備目の選手だし、滑ってしまえば一発でやられてしまうので。細かいところですけど、そういう点も気にしながら、固定と取り換え式の両方のスタッドのある、ミックスというソールにしました。ドイツではピッチが硬いと思ったこともなかったし、日本に帰ってきたからは足にマメもできはじめたので」

●浦和レッズ時代との違い。伝えなければならないもの

 ピッチの上において変えた部分がスパイクならば、ピッチの外では考え方そのものを変えた。アカデミー出身の若手が多い、というチーム事情を理解したうえで、あえてレイソルを選んだ。前橋商業高校から2005シーズンに加入し、6年間プレーした浦和レッズ時代と同じではダメだと細貝は力を込める。

「あのころは若かったし、ヨーロッパに行きたいという気持ちもあったなかで、自分のことばかりを考えていたというか。どちらかと言うと、自分がレベルアップすることが、浦和の助けにもなると思ってプレーしていたんですよね。いまは年齢も重ねて、いろいろな経験もしてきたなかで、たとえばロッカールームでも自分が一番いい居心地で振る舞っていればいい、というわけにはいかないですよね」

 細貝によれば、若い選手たちは「どうしても自分に気を使う」という。ザックジャパンでは常連だったこともあって、小学生時代に応援のために足を運んだ埼玉スタジアムで、細貝のプレーを目の当たりにしたという後輩たちが実は少なくない。

 畏敬の念は、ときとして壁を築きかねない。だからこそ細貝は自らが率先するかたちで、積極的にコミュニケーションを取っている。シュトゥットガルトでも同じ役割を担っていたが、「やっぱり母国で日本語を使えますからね」と屈託なく笑う。

「僕に対して気を使うという部分を、少しずつ減らせていけたら。ピッチのなかだけでなく外でも伝えていかなければいけないものが、当然ですけどたくさんあると思うので。たとえばセレッソ戦も特に前半はかなり厳しい内容だったけど、悪くても白星に結びつける勝ち癖というものを、チームに引き寄せることができればと思って、毎日の練習から大勢の選手と話すようにしているところですけどね」

●「細貝が来てよかったね」と早く言ってもらえるように

 自ら選んだ背番号の「37番」には、実はちょっとした想いが込められている。十の位の「3」はレッズ時代の2年目からヨーロッパへ旅立つまで背負い続けたものであり、一の位の「7」はアウグスブルク、ヘルタ・ベルリン、そしてシュトゥットガルトで託されたものだ。

 つまりは日本とドイツで積み重ねてきた濃密な経験の軌跡を、新天地レイソルに還元したいという決意と覚悟の象徴といっていい。

「チーム全体が若がっているレイソルに、31歳になる自分が入ったことで『なぜだ』と思われたかもしれない。僕自身、先ほども言ったようにレイソルのファンだったし、そのレイソルに必要とされたし、最初は特に周りから気を使われる状況で、それでもレイソルでプレーすることで僕自身、人間としても成長できると思ったんで。自分にはそういう役割もあるんだと言い聞かせながら、毎日をすごしています」

 ここで細貝が言及した「そういう役割」とは、要は経験を伝授することだが、もちろん伝道師だけで終わるつもりもない。ベテランの大谷や栗澤僚一、若手の小林祐介、手塚康平、安西海斗らがひしめくボランチ争いに割り込み、自分の色を加えていくことが、チーム全体を活性化させていくと信じている。

「まだそれほど試合に出ていないので、サポーターの方々からは『細貝って誰』と思われるかもしれない。僕が移籍してきたことでレイソルがよくなって、みんなから『細貝が来てよかったね』と早く言ってもらえるように、これからもっと、もっとやっていかないといけないですね」

 J1の舞台に限れば、出場した5試合の勝率は100パーセント。サッカー版「勝利の方程式」を託されながら、現状に満足することなくさらに高いステージをも目指す。7シーズンぶりとなるJリーグの舞台で、細貝は少しずつ存在感と充実感とを増幅させている。

(取材・文:藤江直人)

フットボールチャンネル編集部

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