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桃山を生きた画の巨人!絵師・海北友松の史上最大規模の回顧展

5/9(火) 19:10配信

サライ.jp

取材・文/藤田麻希

桃山時代に活躍した絵師、海北友松(かいほう・ゆうしょう)。でも、その名を聞いて頭に具体的な作品のイメージを思い浮かべられる人は、少ないかもしれません。

日本美術史の教科書では、必ずといっていいほど言及される人物ですが、同時代の狩野永徳、長谷川等伯という二大巨頭の影に隠れてしまい、その名はあまり浸透していませんが、じつは永徳・等伯に勝るともおとらない実力の持ち主なのです。

そんな海北友松の力量を確かめられる貴重な展覧会が、京都国立博物館で開催されています(~2017年 5月21日まで)。

*  *  *

海北友松について考えるうえで忘れてはならないのが、その出自です。

友松は、近江(現在の滋賀県)の大名・浅井家に仕えた重臣の家、つまり武家に生まれました。しかし友松が3歳のときに父が戦死。やがて京都の東福寺に預けられた友松は、そこの住職の勧めで狩野派に入門したそうです。

友松の肖像画に記された賛に、「誤りて芸家(絵師)に身を落とした」という内容の言葉が記されていることから、武士の身分に生まれながら絵筆を執ったことへの複雑な思いがうかがえます。

その後、60歳代に入って画壇に名乗りを上げるまでの足取りは、今まで謎に包まれていたのですが、今回の展覧会を機に調査が進み、前半生の画業がようやく解明されてきました。

冒頭に掲載した「山水図屏風」は、サインはないものの友松の初期作と考えられている作品です。展覧会図録の解説によると、画面左、橋を渡った先にある大小2つに分かれたテーブル状の地面や波、木の下に生える草の表現は、その後の友松様式に通じるとのこと。その一方で、鋭い岩の形などには狩野派、とくに狩野永徳の影響がうかがえます。

友松が師事した狩野派の絵師が誰だったかに関しては、諸説ありますが、この作品によって、永徳ではないかという説が裏付けられています。

60歳を過ぎて、建仁寺の内部装飾を依頼された友松は、ついにその才能を開花させます。大方丈の5室に52面の障壁画を描き、ほかにも多くの塔頭に障壁画や屏風絵、掛幅などを収め、やがて同寺は「友松寺」と呼ばれるまでになりました。

「雲龍図」をはじめとする龍の画題は、友松がとくに得意とするもので、その名は国内だけでなく朝鮮にもとどろきました。そしてこの時期から、友松は狩野派の画風から脱し、独自の画境を切り開いていきます。

この脱狩野派のきっかけについて、京都国立博物館学芸部長の山本英男さんにお聞きしました。

「友松が狩野派を離脱したのは、おそらく永徳の死がきっかけだったと思われます。ただ、友松が離脱後、あっという間に己の画風を確立したことを考えると、描きたい絵を描きたかったことが第一の要因ではなかったかと想像されます。また、独立後の己を支えてくれる有力者を確保していたことも無視できないでしょう」

「寒山拾得・三酸図屏風」の左隻「三酸図」は、儒教を象徴する蘇東坡、仏教の仏印禅師、道教の黄山谷の三人が壺の中の酢をなめたところ、皆が酸っぱさに眉をひそめたという故事に基づいた作品。人物の表情はじつにユーモラスで精緻に描かれています。一方、衣は筆数も少なく簡略化して描かれています。

このような、衣を膨らませ、袖を大きくあらわす「袋人物」と呼ばれる人物表現も、狩野派とは異なる友松独特のものです。

最後になぜ今、友松の展覧会を企画されたのか、山本さんにお聞きしました。

「あくまで私的なことなのですが、展覧会担当者である私は1984年に雲谷等顔展、2007年に狩野永徳展、2010年に長谷川等伯展を企画・開催したことがあり、残る桃山画壇の巨匠は友松ただ一人となっておりました。また担当者は2018年に定年を迎えるので、今回がラストチャンスであったわけです」

これまで数々の展覧会を企画し、成功をおさめてきた山本さんが主担当で開催する最後の展覧会。桃山画壇の知られざる巨匠に会いに、京都に出かける価値は十分にあります。

『開館120周年記念特別展覧会 海北友松』
■会期/開催中~2017年 5月21日(日)
■会場/京都国立博物館
■住所/京都市東山区茶屋町527
■電話番号/075・525・2473(テレホンサービス)
■開館時間/9時30分から18時まで(入館は閉館30分前まで)
※ただし会期中の毎週金・土曜日は20時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日/月曜日

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

最終更新:5/9(火) 19:10
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