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自律走行車が突きつける倫理的難題

5/9(火) 17:12配信

WIRED.jp

自律走行車が街を走る未来が訪れるのは、疑いようがない。その日が来る前に議論されるべき論点をまとめた。トロッコ問題とは? アカデミアは、開発をリードするメーカーや規制を担う国家はどこを見ているのか? 『WIRED』日本版が2017年6月より開講する「WIREDの哲学講座」に向けたテクストとしても読んでいただきたい。

メルセデス・ベンツが3年で「自律走行タクシー」を実現へ

近い未来、自分が自律走行車に乗って、とある都市の道路を走っていると想像してみてほしい。

安全性には定評のあるクルマだが、突然、5人の子どもたちが赤信号を無視して飛び出してきた。しかし、自律走行車のブレーキは故障していて、唯一できることといえば、そのまま直進するかハンドルを切るかのどちらかだ。このまま直進すると複数の子どもたちが轢かれてしまう、だからといってハンドルを切れば、クルマは壁に衝突し、あなたの命の保証はないだろう──。

1.「自分の命」v.s.「ほか複数の命」

世界では、年間約125万人が自動車事故により命を落としている(WHO調べ、日本ではおおよそ4,100人)。この死亡者数は、たとえば500人乗りのジャンボジェット機が、1日に7機ほど墜落している計算になる。「怖くて飛行機に乗れない」とはよく聞くが、人は航空機よりもさらに危険なクルマの利用を止めることはないのだ。

「現在、あまりに多くの人々が交通事故により命を落としています。去年、アメリカだけで3万5,200人が交通事故死し、そのなかの94パーセントはヒューマンエラーによるものでした」と、バラク・オバマ米大統領(当時)は、『Pittsburgh Post-Gazette』への寄稿にて述べている。オバマは、次のように続けている。

「自律走行車には、年間数万人もの命を救うポテンシャルがあります。そればかりか、多くの高齢者や、障がいのある人々のなかには、移動手段がない場合もあります。自律走行車はこういった人々の生活を改善してくれることでしょう」

より“スマート”になりつつあるクルマは、もっとも安全性に欠ける“バグ”、つまり人間の運転手を、自らのアルゴリズムから排除しようとしている。2020年前後にはグーグルをはじめとし、日産、メルセデス・ベンツ、中国・百度(バイドゥ)、フォードなど、多くの自動車メーカーが完全自律走行車の導入を計画しているが、それに伴いひとつの倫理的な問題が議論の的となっている。

冒頭の例は、いわゆる「トロッコ問題」[日本語版記事:人間の倫理は非理性的か:「トロッコ問題」が示すパラドックス)と呼ばれる哲学的思考実験の、完全自律走行車ヴァージョンである。この問題の難しさは、緊急時における「最善の判断」と思われるものでも、誰かの命を犠牲にしなくてはならないところにある。

ひとつの命か、複数の命か。そのどちらかの損失を選ばなくてはならない場合、自律走行車には、より多くの命を救うためにハンドルを切り、搭乗者を犠牲にする「功利主義的」なアルゴリズムが組まれるべきだろうか? それとも子どもたちを犠牲にしてでも、クルマは率先して搭乗者を救う、「自己防衛的」であるべきなのだろうか?

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最終更新:5/9(火) 17:12
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