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世界が認めたショコラティエ、エスコヤマの小山進氏が語る、「超一流」を目指すために必要なこと

5/9(火) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

「今年のコンクールに出すチョコレートを、いま50種類の創作を終えました。パリのコンクールに出品するのは4種類だから、多すぎるけれど」

 開口一番、そう語るのは、フランスで最も権威のあるチョコレート愛好会「C.C.C.」(Club des Croqueurs de Chocolat)のコンクールで2011年から6年連続となる最高位の「ゴールドタブレット」を獲得、また、2011年、2013年、2014年に外国人部門最優秀ショコラティエ賞を獲得するなど世界的なショコラティエ・パティシエとして知られるパティシエ エス コヤマの小山進氏。

「これは、すべて今年のコンクールに出品するための作品です。翌年に同じものを出品することはありません。常に毎年毎年、僕はその時の自分ができる精一杯を諦めないで創る。去年よりもっとスゴイものを創りたい。だから自分ができる全力を尽くすんです。僕は『これくらいでええやん』と思ったことは生まれてこの方、一度もありません」

 例えば――。小山氏は続ける。

「エスコヤマの小山ロール。これは2001年の『TVチャンピオン』という番組がきっかけでできたものです。他の参加者が華やかなデコレーションのケーキを創り、それがエスカレートしていく中、『いっそ審査員なら誰もが食べてきたであろう、その人その人の記憶の中にあるロールケーキと勝負しよう』と思って創ったものです。

 それ以来、レシピは変わっていません。でも、ずっと進化しています。それはなぜか?

 一年間を通じて作り続けると、夏場の湿度が高い時期にはふわふわが弱く、冬場はふわふわだが巻いたときにヒビ割れが起こりやすい。気候の変化から学びを得た小山ロールという特殊なレシピは、そんな思いも寄らないようなことを教えてくれました。そして、せっかく日本の四季が教えてくれたことを活かせるような設備が必要だという考えに行き着き、実に8年間、小山ロールを焼くためのオーブンを製造する会社と交渉して、改善を繰り返し、やっと理想のオーブンに近づけることができました。でも、その改良されたオーブンを使ってバージョンアップをした小山ロールを見ると、より良くしたいという欲求が湧いてきます。

 創り手である私自身が小山ロールの一番のファンです。人がどう思うかではなく、自分がどう思っているかが重要であり、その思いが創作の源泉となります。その思いを持ち続けることができれば、ものづくりは自ずと進化していくと思うのです。

 これは小山ロールに限らない。子どものころからずっと一緒ですね。追求するのがやめられない、自分のクオリティを追求し続ける、ある種のオタクですよね」

◆チョコレートは「芸術作品」

 そんな彼がいま、魅力に感じているチョコレートの世界とはなんなのか?

「チョコレートは芸術作品。さまざまな産地のカカオとそのポテンシャルを引き出す素材を合わせると個々の持ち味とはまったく違う、立体的な味わいや余韻を生み出せます。抹茶やゆずなど日本の素材を使うこともありますが、その素材からは想像もつかないような味わいをチョコレートで表現することを追求しています。

 パリのコンクールに出品するためには、この50種類の中から4つに絞ります。その4つを審査員に召し上がっていただくのですが、単に、一番気に入った作品を4つ選んで並べればいいわけではありません。パリのコンクールはあくまでもチーム戦です。4つで一つの作品、という考え方。だからこのコンクールに関しては、ずっとテーマを決めてものづくりをしています。そのテーマが伝わるように、1~4と順番を付けて、よい流れをつくらなければならないと考えています。ただ、このコンクールにそういう規定があるわけではありませんし、せっかく順番を決めていても審査員がその順番どおりに召し上がられるとは限らない。だから、1~4の順番でどう組み合わせれば一番綺麗に、僕の描くテーマがきちんと伝わるだろうと模索し続けています」

◆「超一流」に必要なこと

 自分のベストを常に厳しく追求する小山氏だが、だからこそエスコヤマに入社する新入社員の指導にも定評がある。

「研修はあえて先輩社員が担当することにしています。僕が前に出て喋るのは簡単。でもそれだけでは駄目。後輩に教えることは、先輩の勉強にもなります。新人研修であり、先輩の研修の場でもあるのです。そうした先輩にしても僕にしても、若い社員に対してときには厳しいことをいうこともあるでしょう。本当は誰だって嫌なことなんか言いたくない。言うには責任が生じますから。でもね、言いにくいことまでいってくれる、いい大人が周りにいるかは大事なことでしょう」

 その思いは、単に新入社員に向けられているだけではない。兵庫県三田市のエスコヤマ敷地内にある「未来製作所」は、エスコヤマに訪れる人の子どものために、小山氏が創った施設だ。

「小学校6年生以下のお子さましか入ることができない洋菓子店です。オープン以来、多くの若い人材とともに働いてきましたが、『若い人たちの多くは、表現する力・伝える力が弱い』と思いました。だから僕は、『子どもたちが表現し、伝えることの楽しさを体感できる場』を作りたかった。子供しか入れない、大人立ち入り禁止の場所を創れば、中の様子を子どもたちから聞く他はない。大人が話を聞く姿勢を持つようになれば、子どもはもっと伝えることが楽しくなる。『中でどんなお菓子がつくられ、販売されているのか?』と大人がつい聞きたくなるような仕掛けを作り、子どもたちが表現する楽しさを自然と学べるようにしたのが未来製作所です」

「超一流」と言われるようになった小山氏。次世代の「超一流」を目指す若者にはどのような思いを抱いているのか?

「僕は、新入社員には、『隣の人の役に立つような人間になれ』と常に言っています。まずは周りの人に『この人と一緒に仕事していたら楽しい』と言われるようになれと。大切なのは、それを繰り返すことです。でもそれができないまま、大きな夢、遠すぎる夢だけあって、いきなり『超一流』を目指したがる。

 まずは、自分ができないことを認めること。その上で、一つ一つ、遠すぎる夢ではなく、身近なところに立てた目標をクリアしていくこと。若い人には、自分がどうなりたいか、自分のことにもっと真剣に向き合ってほしい。そうすれば、必然的に取り組みの精度は上がっていきます。そうすることで一つ一つの仕事の質も上がってくる。やはり、最後にものを言うのはすべてにおいて『クオリティの高さ』です」

<取材・文/HBO取材班 撮影/井上周邦>

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