ここから本文です

日本だけではなかった。女性が“職人”に向いていない理由

5/10(水) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 家業の工場を手伝いながら、日本の技術の尊さ、工場職人やドライバーの日々の苦労を身近に感じてきた筆者。これまで二回に渡って工場職人の実情を述べてきたが、最後になぜ職人には女性が少ないのかを考えてみたい。

⇒【画像】筆者の曲がったままの左中指

 筆者の通っていた中学校は女子校だった。

 周りにいる男性は、先生か守衛のおじいちゃんくらいで、休み時間になると、前日撮ったプリクラの交換や、音楽番組に出ていたアイドルグループの話で「かわいい」「かっこいい」が飛び交う世界だった。

 それが何を血迷ったか、進学したのは共学1年目の元男子高校で、45人いたクラスメイトのうち、女子は筆者含めて2人のみ。ゆえに当初は面白いほど勉強がはかどらなかったが、卒業するころには見事に”オス化”し、女子校で培った「しとやかさ」は見る影もなくなった。

 おかげで大学時代の親友も男性。毎日一緒にいる女友達も、竹を割ったような性格の子ばかりで、幼少から続けてきたテニスの試合では、小さいものならば無理言って男子でエントリーさせてもらうほど、強情で負けん気が強く、巷で言う“理想の女像”に逆行する全く可愛くない性格ができあがり、今に至る。

 しかし、この流れと性格がなければ、おそらくあの工場の経営は困難だっただろう。

 前回までに述べた通り、工場にいた職人34人は全員「オレの道」なるものをもつ堅物の男性だった。元々人の言うことをなかなか聞き入れてくれない彼らだったが、ましてや相手が女性となると、「女のあなたに何が分かるんですか」と、意思疎通の難しさはさらに増す。

 さらに、赴いた取引先の工場に至っては、筆者よりも経験の浅い担当者に「女性には難しい話なので、男性の営業さんに来てもらってもいいですか」と言われることもあった。

 そんな彼らとともに仕事をするには、体力以上に、誰に何を言われても動じない精神力と、女性でもできると証明する説得力が必要だったため、仕事上で性別を武器にしたことは今まで一度たりともない。筆者が大型免許を取り、現場で職人の作業をしたのは、人手が足りないからというよりもまず、彼らとの垣根を少しでも低くしたかったという思いからだった。

◆世界的に女性の職人が少ない理由

 繰り返しになるが、職人には男性が多い。これは日本に限ったことではないようで、筆者の周りにいる約15か国の外国人に聞いてみたところ、女性職人はやはり世界的にも圧倒的に数が少ない。

 さらに業種も様々で、父の工場のような製造の世界だけではなく、寿司職人、パティシエ、左官、伝統工芸品などの職人も、その多くが男性である。女性が比較的得意とする料理の分野ならば、女性がもっといてもおかしくないと思うところ、どうしてこうも女性職人が少ないのか。

 各分野の職人を調べて分かった、その最大の理由は、「今までずっと男社会だったから」という、身も蓋もない答えだったりするのだが、そこには

1.今から女性を受け入れようとしても、女性向けの道具や設備が整っていないため、入る隙がない

2.今その世界を支えているのがプライドの高い男性職人であるゆえ、女人禁制という固定観念から抜け出せない

 といった、付随的要因が広がっている。

 そもそも職人の仕事は、重労働であることが多い。立ちっぱなし、座りっぱなしで黙々と作業することの多い仕事だが、同じ作業を同じ体勢で続けるのは、想像以上にハードだ。筆者の利き手の左中指は、外を向くように曲がっている。全体重をこの指に乗せ、ペーパーやすりで1日中金型を磨いていた結果なのだが、男性より指が細いため、伝わる力も大きかったのだろう。30年磨いてきた父親の指よりも大きく、かつ早く曲がった。

 また、作業の工程でどうしても必要となる回転工具においては、一人前の男性職人であっても、気を抜けばその分、危険に身を晒すことになるところ、力の弱い女性が扱えばその大きな動力に負け、怪我をするリスクもより高くなる。

 さらに職人という仕事は、業種に限らず一人前になるまでにかなりの時間が必要になってくる。負けん気の強い筆者にとって、これを認めるのは大変悔しいが、この長い期間に安定した時間と体調を保てるのは、やはり男性の方が圧倒的に有利なのだ。

 妊娠・出産など、体に負担が掛けられないライフイベントの多い女性には、技術習得までに年単位かかる職人の仕事は、やはり「仕事と家庭のどちらかを取るか」という選択が避けられないのかもしれない。

◆女性特有の体調の周期も、職人仕事には不利

 それに加え、女性には月ベースで体調や精神のバランスも変わるため、仕事にムラが出やすいのも事実である。

 前出の「料理の世界でも女性職人が少ない理由」の1つに、女性はホルモンバランスによって味覚が変わるため、安定した味を提供できないといった話も聞かれる。ゆえに、「男性料理人の作る安定的な味は、同じ店で同じものを食べていると飽きてくるが、奥さんや母親の作る手料理は飽きずに毎日食べられる」という、知り合いの料理人の立てる仮説も、あながち間違いではないのかもしれない。

 余談ではあるが、筆者の場合、この女性の周期的な体調の変化で一番大変だった仕事は、長距離を運転するトラックでの技術営業だった。

 以前、トラックドライバーは、時間厳守が最も重要だと述べたが、延着(遅刻して到着すること)しないようにとトイレ休憩なしで走ってきても、到着した工場に男性職人しかいないと、女性トイレがないこともしばしば。工場を出て探しはするが、田舎だと駐車できる広いスペースがあってもトイレのあるコンビニがなく、都会だとコンビニがあってもトラックを止められるスペースがない、というジレンマに踊らされた。それゆえ、毎月やってくる生理に対しては、長距離運転の仕事があると予め分かっている時にはピルを飲んで周期をずらしたり、男性ドライバーよりも早めに出発したりと、様々な策を講じていた。

 このように、女性が職人になることは、決して容易なことではない。

 選んだ分野によって、諦めなければならないこと、覚悟を決めなければならないことも多いだろう。しかし、女性のもつ感性の高さや、きめ細かさ、芯の強さは、男性職人に全く劣ることのない強みであり、年々数を減らす彼らにとっては、女性が今後、大きな役割を担う時が来るのかもしれない。

 今まで作り上げてきた歴史や伝統と同じくらい、世相に合わせ柔軟に変化することも必要とされる職人の仕事。彼らの技術が今後も世界を唸らし続けていくことを切に願う。<文・橋本愛喜>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:5/10(水) 13:12
HARBOR BUSINESS Online

Yahoo!ニュースからのお知らせ