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アトレティコが信じ続けた奇跡の逆転。レアルを襲う獣に喪失感もたらした「あの1点」

5/11(木) 12:50配信

フットボールチャンネル

 たとえ絶望的な状況でも最後の一瞬まで勝利を信じて疑わない。アトレティコ・マドリーはディエゴ・シメオネ監督の下、一致団結してレアル・マドリーを迎え撃った。現地時間10日のチャンピオンズリーグ準決勝2ndレグは観る者の胸を熱くする激闘だった。(文:舩木渉)

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●「信じて立ち止まるな!」

 まるで獲物に襲いかかる獣のようだった。

 現地時間10日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)準決勝2ndレグ、アトレティコ・マドリーの選手たちは試合開始とともにピッチに放たれ、レアル・マドリーのゴールに突進していった。

 アウェイでの1stレグを0-3で終え、決勝進出は絶望的な状況。それでも諦めないのがアトレティコだった。ディエゴ・シメオネ監督は試合前日の記者会見で「この試合のため選手たちにモチベーションを与えなければならないのなら、私はここを去るべきだ」と語っていた。

 つまり監督が何も指示しなくとも、選手たち自身が自然と高い士気でマドリーとの2ndレグに臨まなければならないということだ。選手たちもその思いに答えた。

 アトレティコの選手たちの諦めない姿勢は、試合前のSNS上の投稿からもうかがえた。

「信じて立ち止まるな!」(サウール・ニゲス)

「チームとファンへ、夢のために全員が一緒になって戦おう。さあ、信じよう」(フェルナンド・トーレス)

 彼らはシメオネ監督の自伝のタイトルにもなった象徴的な単語“creer“を投稿の中に含めていた。意味は「信じる」。2年連続での決勝進出を誰1人信じて疑わないのは、試合が始まってすぐにわかった。

 序盤、アトレティコはある程度自陣で構えつつ、前線からマドリーの選手たちに猛然とプレッシャーをかけてカウンターを狙う。そのカウンターの切れ味も普段以上で、手数をかけずに猛スピードでゴールに迫る様は圧巻だった。

 そして12分、待望の瞬間が訪れる。コケのコーナーキックにサウールが頭で合わせてアトレティコが先制する。下部組織出身の2人による気持ちのこもった一撃だった。得点後の彼らの眼からは異常なまでにこの試合に集中している様子が伝わってくる。
 
●アトレティコ2点先行も…絶対に許してはいけないゴールが

 ビセンテ・カルデロンがゴールの余韻から冷めないうちに、次の1点が決まる。15分、相手最終ラインの裏に抜け出そうとしたフェルナンド・トーレスがペナルティエリア内でラファエル・ヴァランに倒され、アトレティコにPKが与えられる。

 それをアントワン・グリーズマンが蹴り、GKケイラー・ナバスに触られながら何とかゴールにねじ込んだ。これで2戦合計スコアは2-3となり、一気に試合の行方はわからなくなる。

 CL決勝進出を信じて疑わないスタジアム全体に、「いける」というムードが漂い始めた。キックオフ直後は獣のような眼をしていた選手たちも、落ち着きを取り戻し始め、試合のペースが徐々に落ちていく。

 すると前半終了間際の42分、アトレティコの一瞬の気の緩みを見逃さなかったマドリーが牙をむいた。クリスティアーノ・ロナウドが投げたスローインに、カリム・ベンゼマが反応して抜け出す。

 左サイドの深い位置でボールを持ったベンゼマは遅れて対応に入った3人のディフェンスを、巧みなドリブルでいとも簡単に振り切りゴール前へ。そして走り込んできたトニ・クロースへ丁寧なパスを送る。

 マイナス方向のラストパスを受けたクロースが右足を振り抜いて低い弾道のシュートを放つと、一度はGKヤン・オブラクが弾いた。しかし、ボールがこぼれた先にはマドリーの選手がいた。イスコが冷静に詰めてゴールネットを揺らした。

 1stレグで3失点していたアトレティコは、ホームで最低でも4ゴール奪わなければ勝利できない計算だった。そのうえマドリーにアウェイゴールを1つでも許すと、勝利には5ゴールが必要になる。まさに悪夢だ。

 サンティアゴ・ベルナベウでの1stレグに続いて4-3-1-2フォーメーションのトップ下(1)に入っていたイスコは、序盤からピッチを広く動き回ってボールに積極的に絡み、何度も決定的な場面を作り出していた。そしてついにアトレティコの希望を打ち砕いた。

●「信じる」力及ばず。巨大な喪失感は残ったが…

 さらに3ゴールが必要でも「信じる」ことをやめないアトレティコは、57分に2枚替えで流れを変えようとする。F・トーレスとヒメネスを下げてケビン・ガメイロとトーマス・パーテイを投入。それぞれ元のポジションに新たな血を入れた。

 66分にはガメイロが絶好機を迎える。自陣からのカウンターでヤニック・カラスコが抜け出してシュートまで持ち込む。GKが弾いたボールをガメイロが頭で押し込もうとするが、ヘディングシュートをナバスの正面に飛ばしてしまい、大チャンスを逃した。

 71分、ガビのロングボールを受けたグリーズマンが強引にシュートまで持ち込むが、これもGKナバスにセーブされてしまう。77分に再びガメイロに押し込むだけの決定機が訪れるも、一歩手前で相手DFに触られてしまった。

 苦しい展開ながらいくつもチャンスを作り、守備もGKオブラクを中心に奮闘したアトレティコだったが、「信じる」力が及ばなかったか。マドリーの前に2戦合計スコア2-4で屈した。

 今季で見納めとなる本拠地ビセンテ・カルデロンで最後のCLの試合、そしてマドリード・ダービーという最高の舞台だった。1試合の結果だけ見れば2-1で勝利だが、試合に勝って勝負に負けた、アトレティコにとってこれほど悔しい“勝利”はないだろう。

 序盤の2ゴールで希望が見えたことによって、あの獣のような異様な勢いがなくなってしまった。選手たちの頭の中に“creer”という言葉はクリアに写っていたのだろうが、1失点して歯車が完全に狂ってしまったようだった。

 アトレティコにとって、マドリーとは今季4度目の対戦で、この2ヶ月で3度激突している。これまでは0-3、1-1、0-3と全く勝てていなかった。それだけに”信念”の力で2-1という結果をもぎとったと考えればポジティブになれるかもしれない。ただそれ以上に”信念”を打ち砕かれたあの1点が、ビセンテ・カルデロンに計り知れない落胆と想像を絶する喪失感をもたらした。

 ただ、ここで折れて立ち止まってしまわないのがアトレティコであり、今こそ「信じる」力が試される時。何度でも立ち上がり、這い上がり、食らいつく。それがシメオネの掲げる“creer”の精神だ。

(文:舩木渉)

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