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事業承継のキモが「教育」である理由

5/11(木) 13:00配信

Forbes JAPAN

事業承継がいま、深刻な状況になっている。企業オーナーが引退を考える年齢に差しかかりながら、肝心の子どもは会社の経営を引き継ぐ気がなく、事業承継が進まないまま廃業に追い込まれる企業も少なくない。なぜ、事業承継がうまく進まないのか。それに対する解決の糸口は何なのか。大手銀行で支店長を経験し、100社以上の事業承継案件に直接関わった、日本ファミリービジネスアドバイザー協会のフェロー、袖川章治氏に話を伺った。



徳川家康に学ぶ事業承継

私はこれまで100社以上の事業承継案件に関わってきました。その際、企業オーナーの方に申し上げるのが、徳川家康の話です。

織田信長が目指して志半ばで斃れ、豊臣秀吉が実現したものの短命に終わった天下統一を、徳川家康を始祖とする徳川幕府は、250年という長きにわたって維持しました。

なぜ、徳川幕府だけが長期政権を維持できたのでしょうか。それは徳川家康が、幕府という事業の承継に成功したからです。

織田信長は強烈に部下を抑え付けてしまったことで、明智光秀という部下の裏切りに遭いました。豊臣秀吉は、後継者である秀頼を授かったものの、そのときの年齢は57歳。秀吉が亡くなったのが62歳のときなので、まさに晩年で授かった子でした。しかし、この時点で事業承継には失敗したといってもよいでしょう。何もかもが遅すぎたのです。後継者である秀頼がある程度の経験を積む前に、秀吉はこの世を去りました。

その点、徳川家康は、自分自身が元気なうちに家督を秀忠に譲り、自分は長生きを心がけ、隠居してからは秀忠のサポート役に徹しました。

つまり、自分の体力があるうちに後継者を見定め、これに権限を委譲し、かつ自分が元気なうちは、後継者がうまく事業を行っているかどうかに目を光らせ、必要に応じてサポートするという体制を敷く。これこそが、事業承継に成功するコツともいえるでしょう。

とはいえ、実際の現場では、ことはそう簡単に進められないのも事実です。

企業オーナーとしては、早いうちから子どもに事業を譲り、自分は大所高所からサポートをするのがよいと考えていても、それを行うためには、子どもが継ぎたいと思えるような会社にしておく必要があります。業績が堅調で、財務内容も盤石。かつ社員からとりあえずは歓迎されるという条件が揃わないと、子どももなかなか事業を引き継ぐことに対して、首を縦に振ってくれません。だから、多くの企業オーナーは、自分の経営している会社がその状況になるまで、頑張ろうとします。

でも、それでは遅いのです。徳川家康方式ではありませんが、企業オーナーは自分の体力があるうちに、事業を子どもに譲り、任せることが大事です。

オーナー企業は属人的なところで経営が回っているケースが大半を占めます。企業オーナー自身の商才、情熱、知恵などが、会社を動かす原動力になっているだけに、後継者には早めに実績をつくらせる必要があります。そのためには、オーナーが一歩引き、後継者の裁量で物事を進めさせ、必要に応じてサポートしながら、社員や顧客、その他のステークホルダーに対して、後継者が誰であるかを認知させるのです。

後継者難の本当の理由とは

事業承継に絡んだ問題は、後継者にバトンを渡すタイミングだけではありません。極めて現実的な問題ですが、引き継げるだけの資金的な余裕が後継者にあるのかも、きちんと考慮する必要があります。

未上場の中小企業とはいえ、経営が優良であれば株式の評価額はかなりのものになります。ましてや、企業オーナーが子どもに会社の経営を引き継いでもらいたいあまり、業績を伸ばし、財務体質をピカピカの状態にすればするほど、株式の評価額は上がっていきます。

もちろん、後継者に資金的な余裕があればよいのですが、それまで一般企業に勤めていた後継者が、多額の相続税など払えるはずもありません。

そこで、相続税を少しでも圧縮するために株式の評価額を下げるための方法を考えるわけですが、最近はこの手の節税方法について、税当局の規制が厳しくなっています。本来、相続税を圧縮するためには、減価償却の効く資産を多くもつのが有効ですが、これまでのように相続対策で様々なスキームを駆使しても、そう簡単に利益を圧縮できなくなりました。また、海外の長持ちする建物に、日本の短い耐用年数を適用して短期間で減価償却を計上し節税を図るという手法に対しても、規制をしようとする動きが出てきています。
--{後継者が大手企業に就職してしまうケースも}--
このように、相続税評価額を圧縮するための方法が徐々に失われる中、有力な対策としては、浸透度は低いですが「事業承継税制」を活用することと、子弟の教育にお金をかけるという選択肢があります。会社の経営を引き継ぐのに必要な知見を得てもらうことを目的に、海外留学などをさせる企業オーナーが増えています。

つまり後継者の質を高めることにお金を使うようになったのです。

しかし、ここでもうひとつ大きな問題が生じます。海外留学などで得た知見を後継者として活かす前に、大手企業に就職してしまうケースが増えているのです。そこで家業よりも大きな規模のビジネスを任され、かつ生活基盤まで築いてしまうと、後継者として実家に戻り、家業を継ぐことが難しくなってしまいます。近年、国内企業同士のM&Aが増えているのは、代々、家族経営を続けてきた会社が、このような理由で後継者難に陥っているからです。海外留学とはいわないまでも、地方の経営者の子どもが東京など大都市圏で学び、そのまま大都市圏で就職し、後継者として戻ってこないというケースが増えているのです。

事業承継のキモは「教育」にある

後継者として、親が経営する会社に入ろうとしても、やはり気になるのは周囲の目です。「自分は古参の社員から歓迎されないのではないか」という懸念を抱いている後継者は少なくありません。

その問題を解決するためには、先代が後継者に、あえて一番厳しい仕事、あるいは誰もが嫌がる仕事をやらせることです。要は、自分の子どもだからといって甘やかしてはいないことを周知させるのです。

後継者が厳しい仕事に黙々と取り組んでいれば、周囲の人たちも手助けするようになります。こうして将来、後継者が正式に社長に就任したとき、彼を支えるスタッフも育っていくのです。

ただし、その際には後継者自身が、なぜ自分がそれをやらなければならないのかを理解する必要があります。ただ、自分の親から命じられるまま、嫌々仕事に取り組んでも、何の効果もありません。同時に、先代がその仕事を命じている理由を、後継者にきちんと理解させる必要があります。

その意味も含めて、事業承継のキモは「教育」にあると考えています。

自分の子どもに、会社の経営を継ぐ後継者であることを自覚させる。加えて、日本はモノ作り大国ですから、やはりモノ作りに興味をもつ経営者を育てていく必要があります。何しろ、いまの日本で製造・加工業を営んでいる中小企業経営者の年齢は、70代から80代が中心です。後継者難のまま、あと数年も経てば、日本の製造業を根底から支えてきたこれらの中小企業が、激減してしまう危険性があります。それは、日本経済にとっても大きなマイナスです。だからこそ本腰を入れて、モノ作り教育に根差した後継者の育成を進めていく必要があるのです。


袖川章治(そでかわ・しょうじ)◎日本ファミリービジネスアドバイザー協会フェロー。三井住友銀行渋谷支店長経験後、同行プライベート・アドバーザリー部担当部長として法人オーナーへの事業承継提案業務に従事。100社以上の事業承継案件に直接関わることにより、具体的な実例に基づいた問題解決能力に定評がある。弁護士、税理士等の専門家と連携しながら、財務戦略、オーナー家相続、資本政策等長期的視点に立ったコンサルティングを得意とする。

Forbes JAPAN 編集部

最終更新:5/11(木) 13:00
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