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「持ち家絶望世代」の希薄すぎる地域とのつながり - コリン・ジョイス Edge of Europe

5/12(金) 15:40配信

ニューズウィーク日本版

<住宅価格の高騰でイギリスの若者は住宅購入を諦めてしまい、地域活動にも関心を持たなくなっている>

僕はつい最近、人生で初めて地方選挙で投票した。これまで総選挙には投票してきたが、それは「重要」な選挙だったからであり、ほかには国民投票に1回、欧州議会関連の選挙に数回(投票率は極めて低かったが)、投票してきた。

僕は外国暮らしがとても長かったから、これまで地方選挙に投票する機会があまりなかった、という言い訳はちゃんとある。それにしても、明らかに僕は地方選挙をぞんざいに扱っていて、何度かあった投票の機会を無駄にしてきた。

今回の選挙がこれまでと違うところは、僕がこの2年ほど何人もの地元政治家と会って話し合いを重ねてきたことだ。長い話になるが、僕が住む通りの住民たちは、実現すれば町中の通行車両がこの静かな住宅街を通過することになる道路計画を阻止するため、反対運動を組織しなければならなくなった。

それは明らかな欠点だらけのばかげた計画だったので、最終的には見送られた。だが中止が決定されるまでにはしばらく時間がかかり、そのあいだ地元のあらゆる政治関係者がこの問題に関わった。州議会(別の町に設置されている)に計画を取り下げさせるために、彼らの協力は重要だった。

【参考記事】思惑入り乱れる「即決」イギリス総選挙

この運動の最中に気づいたのは、僕たちの通りに住む「持ち家所有者」は皆、積極的に関わっていたということだ。僕たちは自治会を結成し、当初の目的が達成された今となっても会合を続け、さまざまな問題を話し合っている。運動の間は、別の地区の自治会も、この道路計画に直接影響を受けないにも関わらず僕たちを支援してくれた。

僕たちにとってこの計画は、僕たちの狭い通りに車が押し寄せるという、不愉快で危険を伴う問題だったが、他の地区の自治会にとっては、とにかく単純にひどい計画と見えたようだった。彼らが支援してくれたおかげで、僕らの活動が単なる「地域エゴ族」(「うちの裏庭だけはダメ」、つまり、必要だが好ましくない計画を自分が迷惑を被るというだけの理由で反対する人々)ではないことを示すことができた。

近所の住民たちは、通りの全ての家に集会を知らせるチラシを配ったけれど、僕が知る限りでは、参加したのは「持ち家」に住む人々だけだった。僕は特に、それ以外の人々も運動に引き込もうとがんばった。一軒家をシェアして借りている若いイギリス人であろうと、外国籍の人であろうと(一戸建てを借りている東欧出身の家族も何組かいた)、僕は文字通り道端で呼び止めては話しかけた。

だが彼らはイマイチ関心を示さず、運動に参加した人は誰もいなかった。ごく少数の例外を除いて、窓に僕らのポスターさえ貼ってくれなかった。だから、ポスターを貼っていないか見れば、どの家が賃貸物件なのかだいたい判断できた。



簡単にいえば、「賃貸居住者」は、この問題にあまり利害関係を持っていなかった。彼らはこの道路計画の影響で価値が下がる恐れがある資産を所有していなかったし、もしそんな事態になったら引っ越せばいいのだと分かっていた。

これはあまりにひどい計画だから、町中の住人は、なんなら請願書に署名するだけでもいいから全員で反対するべきだと、僕はがんばって説明したけれど、関心をもってはもらえなかったようだ。彼らは、他の地区に住む持ち家住人よりもまだ関心が低かった。

政治家からも相手にされず

僕がこれまでよく挙げてきたテーマの一つが、この20年ほどでイギリスの住宅が、若い人々にとってあり得ないくらい高い買い物になっているという問題だ。膨大な数の若者が賃貸住宅に住み、家を所有する望みすらほとんどない状態に陥っていることに、僕は憤りを感じている。

家を持つということには明らかな経済的利点があるが、それだけではない。安定した住居を持たない人々は家族を持つ時期が遅れ、子供の数が少ない。社会と敵対する可能性もある。いわば「締め出された」世代なのだ。こうした若者たちは一般的に社会との関わりが少なく、選挙に投票する人も格段に少ない。僕がこの小さな通りで目にしたことは、まさにこの現象を裏付けているようだ。

僕たちの地元政治家たちが、ただ自らの利益で動いていたとは思わない。彼らは正真正銘、道路計画に欠陥があると考えた。でも彼らは一票を投じてくれるかもしれない有権者に好印象を与えるために、僕たちの集会にやってきた。彼らは僕たちと関わることで票を獲得できると考えた(今回の場合、実際そうだった)。

そんな彼ら政治家が会わなかったのが、僕たちとは関心の方向性が全く違い、疎外され、怒りを抱えた(でも行動は起こさない)、この通りに住む大勢の若者たちだ。つまり、持ち家の住人は、彼ら「締め出された世代」よりもこうした問題に関わり、選挙で投票する可能性が高いというだけでなく、政治家と話をして関心事を取り上げてもらえる可能性も彼らより高いのだ。

市民参加は民主主義が機能する上で不可欠の要素だ。多くの人々が当事者になれないような状況は、脅威になる。

【参考記事】抜き打ち解散を宣言したメイ英首相の打算(付表:欧州詳細日程)

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ちなみに、イギリスで地方選挙(5月4日)と総選挙(6月8日)がこんなに近い日程で実施されるのは珍しいことだ。一説によれば、以前から日程が決まっていた地方選挙で労働党が惨敗し、その結果ジェレミー・コービン党首が辞任を強いられるかも、という事態をテリーザ・メイ首相が恐れたからだとも言われている。

だからこそ彼女は、総選挙を地方選直後の6月に設定することで、新生労働党の、コービンよりは選挙に有利であろう新党首と対決する可能性をつぶしておいたのだろう。

コリン・ジョイス

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