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店員の愛想笑いは客単価を下げる!その時、何が起きているのか

5/14(日) 16:20配信

HARBOR BUSINESS Online

 こんにちは、微表情研究者の清水建二です。

 接客業に欠かせない表情は、何と言っても笑顔ですよね。店舗に入った瞬間、店員さんの笑顔で迎え入れてもらうことは心地よいですし、接客を受けている間に垣間見せてくれる店員さんの笑顔に心だけでなく、財布の紐も緩みます。

 しかし、ときに「その笑顔、何か違くないですか?」あるいは「その笑顔、何か変。」ということを感じることはないでしょうか?もしくは店員さんやサービスに対して具体的な欠点が思い浮かばないにも関わらず「何となくあの店にはもう行きたくないな。」と感じた経験はないでしょうか?

 本日は、そんな接客業にまつわる表情についてご紹介したいと思います。

◆なぜマニュアル一辺倒の笑顔はマイナスなのか?

 様々な研究から、店員さんの笑顔が商品の売り上げに貢献し、顧客満足度を高め、チップの額を増加させることが知られています。

 もちろんこうした研究など参照しなくても、経験的に笑顔を見せてくれる店員さんに心地よさを覚え、それがサービスの消費にも影響を与えるのは当然だと思えます。したがって、サービス業を営む経営者が、笑顔での接客を従業員に求めることになるのは自然の成り行きです。

 しかし、笑顔の質と量との関係を調査した研究から、顧客満足度は笑顔の量より質に影響を受けることがわかっています。つまり、私たちは多くの「愛想笑い」より、回数は少なくても「真の笑顔」をしてくれる店員さんのサービスに高い満足を感じるのです。お客さんである私たちは、店員さんの笑顔を観て、本物の笑顔か作り笑いかを区別し、マニュアル一辺倒の作り笑い対して「何か変。」と感じ取っているのかも知れません。

 それでは、作り笑いをする店員さんにはどのようなマイナスの影響があるのでしょうか?いくつかの研究によれば、感情を偽って作り笑いをする店員さんの方が真の笑顔をする店員さんより、感情的に消耗し、心理的負担が大きくなることがわかっています。これに関することとして、必要に駆られて意図的に生み出す感情と自分の自然の感情とが一致しないことが頻繁にある職種の方々は、公私問わず自分の自然な感情を持とうとすることを止めてしまうという報告が多々あり、本当の感情を抱けなくなってしまう危険性が指摘されています。

 礼儀や挨拶のための作り笑いはコミュニケーションの潤滑油として必要だということは言うまでもありませんが、その「作り」の度が過ぎてしまうとお客さん・店員さん双方にとってマイナスに作用してしまうのです。

◆笑顔の微表情を見るとドリンクを飲みたくなる!?

 笑顔の微表情に関して次のような興味深い研究があります。

 実験のために集められた参加者にコンピュータの前に座ってもらいます。そしてコンピュータのモニターに0.4秒間だけ映し出される男性もしくは女性の顔写真を見て、それが男性か女性かを判断してもらう課題に取り組んでもらいます。

 この0.4秒の間には、男性もしくは女性の真顔の写真が提示されるのですが、研究者がここに作為を施します。この中に0.016秒の間、笑顔か怒りの写真を挿入しておいたのです。つまり、真顔の中に笑顔もしくは怒りの微表情がコンピュータモニターに提示される仕組みなのです。0.016秒というのは私たち人間が意識的に捉えることの出来ない速さです。

 課題終了後、参加者に今の気分を答えてもらいます。一瞬の笑顔が挿入されたモニターを見ていた参加者も、一瞬の怒り顔が挿入されたモニターを見た参加者も、両者において機嫌の良さ悪さの程度に違いはありませんでした。その後、参加者には無料でドリンクがふるまわれます。

 ここで非常に興味深いことが起こります。0.016秒の笑顔写真を「見た」参加者は、怒り写真を「見た」参加者と比べ、ドリンクをより多く飲み、そのドリンクをより美味しいと感じる傾向にあることがわかったのです。

 この研究が示唆してくれるのは、私たちは直感的に微表情を感じとり、自らの行動を無意識に変えているかも知れないということです。

◆当たり前の感情接客のススメ

 自分の感情を偽って愛想笑いばかりしていても、お客さんの満足度には寄与せず、自分の心も疲弊する。怒りの気持ちが生じ、表情に出ないようにしていても微表情として一瞬だけ出てしまい、それがお客さんの消費行動に悪影響を与えてしまう……ということなのですが、それではこの愛想笑いと笑顔の微表情の研究から接客業における表情についてどんな処方箋があり得るのでしょうか?

 具体的には色々とありますが、その根底に通じるものは至極当たり前のことです。来店されるお客さんに対して、心からポジティブな感情を抱けるようにするための店舗・職場環境を作る、ポジティブなモチベーションになるように自分の心を変えていく・維持していけるように努力する、というものです。

 接客業が好きなのか、接客業を好きになるのか、その順番は人それぞれだと思いますが、「働く」とは「傍楽」と書くように、自分の身の回りの人々が楽になる、楽しくなる、そんな行為です。

 労働は自分の生活のためではありますが、そこを一歩超えて、お客さんを楽にしたい、共に働く仲間が心地よく感じるような職場環境を実現したい、そんなふうに心を向けていくことで自分を取り巻く感情世界の彩が変わるのだと思います。

参考文献

Winkielman P, Berridge KC, Wilbarger JL. Unconscious affective reactions to masked happy versus angry faces influence consumption behavior and judgments of value. Personality and Social Psychology Bulletin. 2005 Jan;31(1):121-35.

<文・清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社がある。

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最終更新:5/14(日) 16:20
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