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【書評】JR東海名誉会長が明かす「改革三人組」の訣別

5/15(月) 16:00配信

NEWS ポストセブン

【書評】 『飛躍への挑戦 東海道新幹線から超電導リニアへ』/葛西敬之・著/ワック/本体1800円+税

【著者プロフィール】葛西敬之(かさい・よしゆき):1940年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒後、国鉄入社。JR東海代表取締役社長、会長を経て代表取締役名誉会長。著書に『未完の「国鉄改革」』(東洋経済新報社)、『国鉄改革の真実 「宮廷革命」と「啓蒙運動」』(中央公論新社)など。

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 著者は分割民営化に尽力した国鉄内改革派の中心人物の一人で、いまなお代表権を持つ名誉会長という異例の立場にあるJR東海の実力者。本書は分割民営化の経緯に始まり、民営化後のJR東海の歩みを振り返った回顧録だが、書名から想像しがちな、綺麗事や建前ばかりの回顧録とは大いに異なり、内幕を生々しく描き、随所で歯に衣着せぬ意見を表明する。

 なかでも興味深いのは、著者とともに国鉄内「改革三人組」と括られた他の二人井手正敬氏(JR西日本の社長、会長を歴任)、松田昌士氏(JR東日本の社長、会長を歴任)との対立に言及し、二人を批判した箇所だ。

 著者によれば、井手氏は当初、国鉄の分割には反対だった。そこで、運輸官僚が新幹線を運輸省の支配下に置くための特殊法人「新幹線保有機構」を構想すると、最強の収益源である首都圏の路線網を引き継ぐ東日本に経営資源を集中させてJRグループの一体性を保ち、自分がその経営にあたることを考えた。だが、首相レベルの人事で西日本行きが決まると、今度は西日本主導のもとで東海との合併を目指した、と見る。

 松田氏に対しても、分割民営化後、東海が自前資金でリニア新幹線を開発することを井手氏と一緒になって阻止しようとし、新幹線品川駅構想にも反対した、と批判する。そして、あることを機に〈私は松田、井手両氏とは袂別〉した、と書く。

 ここまで書くかと驚き、感心する箇所が多く、裏返せばそこに東海を成功に導いた強烈な自負を感じる。書かれていることは全て著者の立場からのものだが、国鉄と民営化後の歴史を知るために読むべき内容と価値を十分に備え、何より読み物として刺激的で面白い。

※SAPIO2017年6月号