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【現地発】 救世主・武藤の咆哮! 5.13――マインツがひとつになった日

5/15(月) 17:16配信

SOCCER DIGEST Web

スタジアムDJは得点者の名を唱え、ファンは救世主の名を叫んだ

「インタビューはもういいだろ!? みんな、早く来いよ!」
 
 控室から顔を出したダニエル・ブロジンスキが、ミックゾーンで取材に対応するマインツの選手たちに声をかけた。ビールはもう運ばれている。まるで優勝したかのような騒ぎだ。
 
 今シーズン、ヨーロッパリーグ(EL)に参戦したマインツだったが、過密日程により調子を落とした時期があった。攻めても攻めても、ゴールが決まらない時期があった。どれだけやっても勝てず、降格の二文字に苦しんだ時期があった。
 
 だが、それもすでに過去のものだ。
 
 フランクフルトに4-2で勝利したマインツ。ライバルクラブの結果を受け、得失点差の関係で最終節、ケルン戦で10失点しなければ大丈夫という、実質的に1部リーグ残留を決めたのだ。
 
 この日は、試合前から喜ばしいニュースがあった。4月に脳梗塞で倒れたベテランスタジアムDJのクラウス・ハフナーが復帰。マインツの試合には、いつでも彼の声があった。代役が力不足だったというわけではない。クラウスの叫びはスタジアムの一部で、なくてはならない存在だった。
 
 監督のマルティン・シュミットも、「ファンは彼を愛しているし、クラウスの声がスタジアムには必要なんだ」とカムバックを喜んでいた。
 
 彼だけではない。ゴール裏では「1部リーグへ100パーセント!」と書かれ、赤とゴールドであしらわれた大きなコレオグラフィーが現われた。サポート体制は万全だ。
 
 選手がピッチに登場。空気がヒリヒリする。
 
 だが、思い通りになかなか事は運ばないものだ。ファンの声援をバックにキレのある動きを見せるマインツだったが、カウンターを中心にチャンスを作るフランクフルトの前に、先に2失点を喫してしまう。
 
 ファンは意気消沈し、しばらく歌声が止んでしまった。悪い考えが脳裏によぎる。ダメなのか……。選手にも焦燥感が見られた。
 
 しかし、マインツはここで踏ん張りを見せる。
 
 60分、ジョン・コルドバが反撃の狼煙となる1点を挙げると、スタジアムにまた、大きな大きな希望の灯がともった。選手はさらにギアを上げ、スタジアムのボルテージは上昇し続けていく。
 
 62分にブロジンスキのCKからCBシュテファン・ベルが同点ゴールを決めると、試合の流れは完全にマインツへと傾いていった。
 
 そして迎えた76分、スタジアムがひとつになった。
 
 ボージャン・クルキッチがドリブルで持ち上がる。ゴール前でコルドバと武藤嘉紀が動き出す。センタリングが入る。飛び上がった武藤がボールを頭で捉えると、GKフラデキーが懸命に伸ばす手の先を通り抜け、静かにゴールへと吸い込まれていった。
 
 声にならない叫びがスタジアムのあちこちから聞こえてきた。その中心に、武藤がいた。ユニホームを脱ぎ捨てると、感情そのままに駆け出し、飛び上がり、抱き合い、もみくちゃにされ、壊れるくらいの笑顔の武藤がいた。
 
 ベンチ前ではシュミット監督が、ルーベン・シュレーダーSDに羽交い絞めにされて笑っていた。スタジアムDJは得点者の名を唱え、ファンは救世主の名を叫んだ。

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最終更新:5/15(月) 17:32
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