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脳の「ワーキングメモリー」は電気刺激で向上する

5/16(火) 8:20配信

WIRED.jp

情報を一時的に保ち、それらを処理する機能「ワーキングメモリー」。加齢とともに低下してしまうこの機能を、電気刺激により向上させることに成功したという研究結果が発表された。本文中に掲載された、ワーキングメモリーをテストする課題にもぜひトライしてみてほしい。

人間の脳はほんとうに「パンク」するのか

情報を一定期間保持し、並行して情報処理を行う構造をもつ「ワーキングメモリー」。年齢を重ねるごとに低下してしまうこの機能は、外部から電気刺激を与えることで改善できるという驚きの研究が発表された。

ワーキングメモリーとは?

作業記憶(ワーキングメモリー)とは、情報を一時的に保ち、それらを同時に処理する機能のことだ。短期記憶とは、ここで一時的に維持される記憶のことであり、たいていの場合は課題遂行後に数秒から数分で失われてしまう。

一般的に、われわれ人間の脳は、数字や単語を記憶する場合、7±2個のブロックで覚えると記憶しやすいといわれている。ではひとつ、7つの単純な数字を使って簡単なワーキングメモリーの実験をしてみよう。

「8 5 3 2 1 1 0」

この数字を、口のなかで何度か反復してみてほしい。次に目を瞑り、瞼の下に7つの数字を思い浮かべてみよう。これらの数字のうち、あなたは後ろから5番目の並びにある数字をぱっと言うことができるだろうか?

このように、課題遂行のために入力された情報を、短期間だけ脳内に留めておく“メモ帳”のような脳の機能がワーキングメモリーだ。上記のたとえを使うと、「8 5 3 2 1 1 0」の後ろから5番目の数字は「3」だと突き止めるまでに、7つの数字を覚えていられれば、あなたのワーキングメモリーはきちんと機能しているといえる。

しかし、この作業に手間取ってしまった方でも、心配には及ばない。ワーキングメモリーは、一定間隔の電気刺激によって改善できるらしいのだ。

脳波をハックする

われわれの脳内では、各領域で異なる周波数をもつ脳波が、それぞれ一定のビートを保って活動している。しかし、電話番号や人の顔や名前などを記憶するときなどは、異なる脳領域同士が規則的なビートを維持することで互いに連絡を取り合いながら、この作業を可能としている。なかでも、ワーキングメモリーに大きく関与すると思われている2つの領域(中前頭回と下頭頂小葉)は、離れて存在するため、与えられたタスクを効率的に実行できるかどうかは、領域同士の円滑なコミュニケーションによるところが大きいという。

これまでの研究では、異なる機能を担う各脳領域の「脳波のビート」が同期するとき、記憶テストなどのパーフォーマンスが向上することがわかっている。頭に弱い電流を流して刺激することで、異なる領域からの脳波のリズムを操作して同期させ、同じビートを維持できるようにすると、ワーキングメモリーのパフォーマンスが向上するのだ。

ではこの電気刺激のタイミングは、領域ごとに少々ズレていてもワーキングメモリーは改善するのだろうか? それともある程度、同期していなくては、向上は見込めないのだろうか? 

これを確かめるため、インペリアル・カレッジ・ロンドンの神経学者であるイネス・ヴィオランテ率いる研究チームは、経頭蓋交流電気刺激法(tACS)を使用して、ワーキングメモリーに関与することが知られている2つの脳領域(中前頭回と下頭頂小葉)を、シータ波の電流で刺激した。

電気刺激による、ワーキングメモリーへの影響を確認するためのヴァリエーションは以下の3通りだ。中前頭回と下頭頂小葉の2つの脳領域を同時に刺激(同期)、わずかにズレたタイミングで刺激(非同期)、または、治療を受けていると印象を与えるためだけのちょっとした刺激(コントロール)の3つである。

また研究者らは、tACSで脳の情報ネットワークを操作する間、機能的磁気共鳴映像法(fMRI)を用いて作業中の脳を監視することで、電気刺激中に起こる脳活動の変化を確認した。

実験では、10人の被験者に難易度が徐々に上がる記憶のタスクを行ってもらい、その作業中に2つの脳領域へのシータ波刺激を受けてもらった。被験者らは画面に一瞬だけ(500ミリ秒)現れる数字を認識し、それが前に現れた数字と一致しているかどうかを答えなくてはならない。難易度が高いヴァージョンでは、画面に現れた数字が、2つ前に画面に現れた数字と一致しているかを答えるというものだ。

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最終更新:5/16(火) 8:20
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