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『あなそれ』が描く、“幸せ”に翻弄される現代人の闇 波瑠と東出昌大が信じる“運命”の愚かさ

5/16(火) 10:00配信

リアルサウンド

 登場人物のほとんどに全く共感できないW不倫ドラマ『あなたのことはそれほど』が、俄然面白くなってきた。近頃ワイドショーを騒がせる「不倫」を題材にしたドラマは、『奪い愛、冬』、『不機嫌な果実』など数多いが、どれも「ゲス」を通り越したコミカルさを売りにすることで、視聴者は演者たちの突き抜けた演技を楽しんで観ることができた。だが、このドラマはそうはいかない。一時は主人公・美都を演じる波瑠に批判の声が高まるほど、悪びれもせずW不倫に浮かれる美都と有島(鈴木伸之)への拒否反応は大きかった。『逃げ恥』、『カルテット』に続くTBS火曜10時枠、そして演出も『逃げ恥』と同じ金子文紀ということで、余計に「なぜ?」と思いながらドラマを見続けていたが、このドラマは、『逃げ恥』とは違った意味で、現代の恋愛・結婚観を問いかけているのだと感じた。
 
 主人公・美都は、中学校の同級生である初恋の人・有島を想い続けながらも東出昌大演じる涼太と結婚するが、結婚後有島と再会し、交際を始める。一方有島も仲里依紗演じる麗華と結婚していて、妻の出産のための里帰り中に美都と出会っていた。時折妻のスマホを覗き見ている涼太は、その裏切りを知りながらも何も言わずに微笑んでいる。そんな涼太が結婚記念日に、自分の知っていることを全て告げ、それでも「ずっと君を愛することができる」と誓う凄絶な場面で先週放送の4話は終わった。

 興味深いのは、美都の有島への恋愛感情の変化だ。最初は初恋の延長線上で、中学以来の再会を勝手に運命だと思いこみ、少女のようにのぼせ上がっていた。それが3話から4話にかけて、子供が生まれ妻も実家から帰ってきた有島との間に温度差を感じるようになり、美都の感覚も徐々に変わり始める。それでも彼女が、有島に夢中であり続けるのは、「他人の子供なんてちっともかわいくない」と言い放った美都を有島が抱きしめたためである。この時、キラキラした中学生の恋の延長線上の恋愛が、夫にないものを求める恋愛へと変わる。きれいごとばかりの夫はきっと理解してくれないだろう自分の黒い部分を彼が認めて抱きしめてくれたというただそれだけのことは、これからの彼女が有島に執着していく大きな理由となるだろう。

 一方では満たされない部分をもう一方で補完しようとする恋愛は、ずるく、たちが悪い。最初は「いっそ涼ちゃんが私のことを嫌いになってくれたら」と言っていた彼女は、優しい夫の愛と、最愛の恋人の愛の両方を得ようとし始めるのである。嘘をつくことにも慣れた彼女は、「いろんな味をちょっとずつ楽しめる」特選幕の内弁当さながら、優しい夫も秘密を共有する彼も好き、高級レストランや夫の手の込んだ手料理も好きだけど有島と食べるタコ焼きが大好き、とでも言うように都合よく、ずさんに大胆に「満ち足りた生活」を送る。

 美都と涼太の夫婦関係は、破綻しつつある。それは、最初から綻んでいたとも言える。結婚して間もない時期から夫ではなく有島のことを思い続けていた美都のおかしさももちろんだが、それだけではない。そしてこれは極端ではあるが、現代の夫婦にありうる事例なのかもしれないと感じた。

 彼らは上辺だけ取り繕った「理想の夫婦」なのである。意表をつかれたのは、1話で、料理を作った涼太が、部屋から出てきた美都に対して料理の匂いに誘われて出てきたと思い、「お、もう嗅ぎつけてきた!」と微笑むと、美都が「ちがうよ、これ見たから」と涼太がアップしたインスタグラムの画像を指し示す場面だ。同じ家にいるのに、彼らはネットを介して互いの行動を認識する。涼太がインスタグラムにアップし続ける「幸せアピール」画像、涼太が美都に送り続け、美都が首を傾げる「幸せ」写真、形だけ豪華なデパ地下のお惣菜のホームパーティー。上辺だけしか見ず、上辺だけ整える美都は、「普通のいい人」としか夫を理解しようとせず、きれいごとしか言わない忠犬はきっとなにもわからないと思いあがる。そして上辺だけを整えつつも、美都の全てを理解し、怒りと悲しみを握り締め机の下で拳を震わせていた涼太は、柴犬から巨大化し、忠犬ではなく猟犬として美都に噛み付くのである。

 彼らの運命とは、幸せとは、どこにあるのだろうか。二人は運命を信じていた。涼太は、美都と出会ったことを運命だと思った。一方、運命の恋に誰よりも憧れていた夢見る美都が、運命ではない相手・涼太との結婚を選んだのは、「2番目に好きな人と結婚したほうが幸せになれる」という占い師の言葉を「運命」と信じたからだ。冒頭で新郎を捨てて駆け落ちした花嫁は、その「運命の恋」を信じて走ったが、結局は周囲を傷つけただけでその関係は破綻した。結局、運命とは思い込みに過ぎないのかもしれない。

 涼太と美味しいご飯を食べて幸せそうな表情を浮かべながら、目は有島との思い出でもある四葉のクローバーを探している美都は、涼太が言うとおり本当に欲深い。一緒に探そうと「幸せコレクター」になった涼太が見つける幸せは、どうにも物足りなく一方的な押し付けに近い。

 幸せの形も結婚の形も多様性を極め、SNSにアップすることができる「目に見える幸せ」のみ幸せとして認識しがちな現代、また、ステータスとして見せびらかされる他人の幸せに翻弄される現代の姿を、このドラマは生々しく描いている。幸せと運命を求めて彷徨う彼らを私たちは簡単に笑えるだろうか。怖いもの見たさだが、彼らの行く末を、興味深く見つめていきたい。

藤原奈緒

最終更新:5/16(火) 10:00
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