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御殿山に桜咲く

5/17(水) 11:20配信

Wedge

 春です。お江戸も桜が満開です。海を隔てた向こうに富士山が見えます。お江戸の楽しげなお花見、ちょいとのぞいてみましょうか。

 葛飾北斎さんの「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二(ごてんやまのふじ)」です(1)。天保2年(1831)頃、北斎さんが70代前半のときに刊行された、冨嶽三十六景シリーズ46枚のうち、唯一「桜と富士山」が描かれている作品。「前北斎為一(いいつ)筆」とあるのは、「前は北斎を名乗った為一」という当時の名前を意味します。ちなみに北斎さんは生涯に30回改号、お名前を改めたそうです。

 ここは桜の名所、御殿山。品川の海が一望できる眺めのいい小高い丘です。絵の左下に見えるのは、東海道・品川宿場の家々の甍(いらか)です。現在でいうと、JR品川駅から程近い品川区北品川3丁目あたりでしょうか。お江戸の御殿山は、幕末に品川沖のお台場を築くために切り崩されたのですが、今の御殿山エリアよりすこし東にありました。

 桜の木がひょろひょろと細長く伸びています。現在おなじみのソメイヨシノではないようです。この御殿山の桜の歴史は古く、あの大和・吉野山から移植されたものに始まり、8代将軍・徳川吉宗さんがさらに植樹してふやし、お江戸で人気の花見処となりました。満開の桜の花を拡大して見ると、ごく淡いピンクのドットで描かれているではありませんか。後世の欧米の「印象派の皆さん」も驚く桜の表現、描き方、うつし方……北斎さんには脱帽です。

 美しい富士山にはまだ雪が残っています。雪が多く残る右側が山梨側、左側が静岡側です。約200年前の当時も、桜の時期の富士山は、今と変わらず北側に雪が多く残っていたというわけです。

 満開の桜を見に、大勢の花見客が集まっています。3人のおじさんは、立派なお弁当箱を持参して、お酒なんか飲んじゃって……そう、ビニールシートではなく、あでやかな緋毛氈(ひもうせん)を広げ、さらにその下にゴザらしきものまで敷くという用意周到ぶり。まだ寒い頃ですから、さすがです。正面を向いているそこな坊主頭のおじさん、剃髪から推察するに、ご職業はお医者さんでしょうか。

 扇子で陽気に囃(はや)しながら歩く2人のお武家さんは刀に柄袋をかけています。ぶら下げているのはお弁当? 後ろにおいでの小僧さんは、版元・西村屋永寿堂さんの「山に三つ巴」マークの風呂敷が目立っていますよ。その右の素敵な縞(しま)の着物に前帯姿の美しいお姉さん、煙草入れを懐からちょいと取り出してキセルを一服とは粋ですね。

 仲のいい家族でしょうか。子供が2人、夫婦に負われてやっと御殿山までたどり着いたというのに、眠ってしまっています……。

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最終更新:5/17(水) 11:20
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