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量子コンピューターに最適な記憶装置は「DNA」かもしれない

5/17(水) 12:00配信

WIRED.jp

グーグルは、5年以内に量子コンピューターの一般販売開始を目標にしている。だが、適切な記憶装置がないことが問題となっている。膨大な容量を誇る超小型記憶装置として、DNAや原子といった物質が注目されている。

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研究者によると、量子コンピューターの演算能力は、現在の銀行で使われているすべての暗号を解読できるほど高い。量子コンピューターを利用した人工知能に、たとえば元素周期表や量子力学法則を学習させて、史上最高の発電効率を誇る太陽電池を設計することもできるかもしれない。しかもそれは、遠い未来の話ではないのだ。

グーグルの研究チームは3月3日、『Nature』の記事で「5年以内に量子コンピューターの一般販売を開始する」と述べたほか、年内に49キュービット(quantum bit:量子ビット)の量子コンピューターを製造しテストする意向を示した。専門家によれば、50キュービットのコンピューターとは、従来のあらゆるコンピューターの性能を凌駕するものだ(IBMも数年以内に、50キュービットの量子コンピューターをクラウドで提供することを目指している[関連記事])。

量子コンピューターの大きな弱点

だが、ひとつ大問題がある。量子コンピューターはその性質上、内部に情報を保存したり複製したりすることができないのだ。どれだけ演算能力が高くても、バックアップデータをつくれないのでは用途は限られる。量子データを変換して、従来型の記憶装置に残すことはできるが、変換したデータは膨大な容量を食う。このため、物理学者たちは信頼のおける超小型記憶装置をつくるための新素材を探し求めている。候補のひとつが「DNA」だ。

量子コンピューターが強力なのは、まさにデータ密度の高さゆえだ。従来のコンピューターが読み込み、保持し、操作するのはビット、すなわち1か0だ。これに対して量子コンピューターが利用するのはキュービット。極微の量子物体は、観察者がいない限り同時に2つの状態(1であり0でもある)を保つことができるという性質に基づいている。

この「量子の重ね合わせ」により、粒子を同時に2つの状態に保つことで、タスクを並行して実行できるため、ある種の演算における処理速度が指数関数的に上がるのだ。演算が速いからといって、Netflixの視聴がスムーズになったり、Excelにイライラしなくなるというわけではない。だが、検索アルゴリズムの実行や、有機物やヒトの脳といった複雑系のシミュレーション速度は格段にスピードアップするだろう。

しかし、量子力学の不可思議さには欠点もある。重ね合わせが許される一方で、量子の状態を複製することはできないのだ。「これを『量子複製不可能定理』と呼びます」と、カナダのサイモンフレーザー大学の物理学者ステファニー・シモンズは言う。たとえば、量子コンピューターがある原子に特定の量子的状態をプログラムして、ある一群の数を表したとする。このとき、同じコンピューターが、別の原子をプログラムしてまったく同じ量子的状態にすることは物理的に不可能なのだ。

そこでシモンズは、量子データを保存するための、回りくどいやり方を提案する。まず、量子データをバイナリーデータに変換する。量子の重ね合わせによって記述された数を、単純な1と0に翻訳するのだ。次に、変換したデータを従来の保存フォーマット、つまりハードディスクドライヴに保存する。この装置は超小型でなければならない。49キュービットの量子コンピュータの量子データファイルは、ひとつにつき動画4万本分に相当するデータ容量だからだ。

このような膨大なデータを保存するため、量子コンピューター開発者は新たなデータ保存技術を必要としていると、シモンズは言う。現在のところ、市販の記憶装置は十分にコンパクトとはいえない。量子ファイルひとつに対し、SSDなら切手サイズの面積が必要になってしまう。

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最終更新:5/17(水) 12:00
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