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もはや別物!? チャラくない峠仕様のフェラーリ──カリフォルニアT HSを試す

5/17(水) 21:01配信

GQ JAPAN

フェラーリ カリフォルニアTを、軟派なオープンカーだと思うのは早合点だ。「HS:ハンドリング・スペチアーレ」のオプションを装着し、峠仕様へと生まれ変わった跳ね馬に大谷達也が試乗した。

【フェラーリ カリフォルニアT HSのフォトギャラリーはこちら】

■モデル名の末尾につけられた“HS”の正体

箱根の朝は、まだ冬の色が濃かった。ピンと張り詰めた空気を大きく吸い込むと、鼻の奥がツンと痛む。普段であれば車内に飛び込んで窓を閉め切り、背中を丸めてヒーターを全開にしたくなるところだが、この日はセンターコンソール上のスイッチを操作して金属製のリトタクタブルルーフを開け放った。そうすることが、このクルマには相応しいと思ったからだ。私のかたわらに佇む美しいスポーツカー、フェラーリ・カリフォルニアT HSは、そんな不思議な力を宿していた。

カリフォルニアTは、現フェラーリのラインナップではエントリーモデルに位置する。フロントに搭載された最高出力560ps/7500rpm、最大トルク755Nm/4750rpmのV8 3.9リッター・ターボエンジンは7段デュアルクラッチ式ギアボックスを介して後輪を駆動するが、フロントエンジンにもかかわらず重量配分はF:R=47:53とややリアヘビーで、スポーツカーとして理想に近いバランスを得ている。

モデル名の末尾につけられた“HS”は、オプションの「ハンドリング・スペチアーレ」を装着していることを意味する。端的にいえばクルージングよりもワインディングロードを得意とする足回りが与えられている“証”だ。

標準仕様のカリフォルニアTは、その名のとおりアメリカ西海岸の陽光を楽しみながらドライブするのに最適なオープンカーで、もちろん誇り高き“跳ね馬”の紋章が与えられているからには、優れたコーナリング性能を備えているものの、フェラーリとしてはハンドリングよりも快適性に重きを置いたモデルだった。それがハンドリング・スペチアーレとなってどう生まれ変わったのか。心のなかで不安と期待が交錯した。

■引き締まった乗り心地

右手でイグニッションキーをひねり、ステアリング上の赤いボタンを押し込んでV8エンジンを目覚めさせる。次の瞬間、森の木々がかすかにさざめいたような気がした。ハンドリング・スペチアーレはエグゾースト系も“スペシャル”で、フェラーリ・ミュージックの音量はスタンダードモデルよりもやや大きめなのだ。

全体的な音色は中低音を中心とした分厚いものだが、そのなかに澄んだ高音が混じっていて、このエンジンがマラネロ生まれであることを思い起こさせてくれる。重低音を響かせるフルオーケストラと、きらびやかなソロを奏でるバイオリニストの華麗な競演、といった趣だ。

例によってスムーズな変速を見せるフェラーリ製DCTを操りながら加速し、徐々にコーナリングスピードを上げていく。足回りは確かに硬めだが、ゴツゴツとした印象を強く与えることもなければ、波打つ路面に共振してボディが際限なく上下動を繰り返すこともない。スポーツカー好きであれば「引き締まった乗り心地」として歓迎するはずのセッティングだ。

しかし、このサスペンションがハンドリングに与える効果は絶大。ステアリングをわずかに切ればノーズが正確にそれに呼応してコーナーのイン側を向く。操舵に対する反応は正確で素早いが、決してドライバーを驚かせるほど過敏ではなく、あくまでも意のままに操れるステアリング・レスポンスだ。おかげでドライバーはクルマとの強い一体感を得ることができる。

カリフォルニアT HSと深い信頼関係で結ばれた私は、スロットルペダルをさらに深く踏み込んだ。すると登り勾配にもかかわらず3速でコーナリング中にスタビリティ・コントロールの作動を示す警告灯が点滅した。

3.9リッター・ツインターボのパワーが、最新のハイグリップ・スポーツタイヤを打ち負かそうとしているのだ。しかし、フェラーリのエレクトロニクスはここでも抜群の制御能力を発揮。ピクリともボディを揺らさないうちに、タイヤとエンジンを支配下に置くと、それまでと変わらぬ安定したスタンスでコーナーをクリアしていったのである。

■歓迎すべき変化

それにしても、カリフォルニアTのコンバーチブルボディはミシリともいわない。固められたサスペンションからの入力は決して小さくないはずが、そうした衝撃を力強く受け止めて的確に押し返すだけの逞しさをこの流麗なボディは備えている。

この頑丈さがあればこそ、これだけ俊敏で正確なハンドリングが実現できたのだろう。ハンドリング・スペチアーレはクルマのバランスを崩す強引なチューニングではない。スポーツカーの、そしてフェラーリの魅力をさらに輝かせるため、クルマのトータルバランスを考慮して設定されたスペシャル・セッティングなのである。

フロントエンジンらしい穏やかなコーナリング特性も、ドライバーを勇気づけるのに大きく役立っている。先日、試乗した488スパイダーもそうだったが、最近のフェラーリは過激なステアリング反応をもってスポーティさを演出するよりも、人間の感性に寄り添った設定で、むしろドライバーを鼓舞する方向に様変わりしたように思える。無論、これは歓迎すべき変化だ。

だから、どれほど走っても走り疲れるということがない。キャビンに進入してくる空気は相変わらず冷ややかだったが、それでもルーフを開け放ったまま、私はカリフォルニアT HSとともに箱根の山々を走り続けた。

文・大谷達也 写真・河野マルオ

最終更新:5/17(水) 21:05
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