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【対談】加藤千恵×村田沙耶香〈加藤千恵『点をつなぐ』文庫化記念〉

5/17(水) 17:00配信

Book Bang

コンビニのスイーツ開発部門で働く女性を主人公に描き、共感を集めた『点をつなぐ』が文庫になりました。著者の加藤千恵さんと、『コンビニ人間』で芥川賞を受賞し、自身もコンビニでのアルバイトを続けている村田沙耶香さん──プライベートでも親交の深い二人による特別対談。

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「コンビニ小説」な二人

加藤千恵(以下、加藤) 今日は「コンビニ対談」ですね。

村田沙耶香(以下、村田) はい、きちんと作家と作家として作品と向き合ってお話できたらうれしいです。よろしくお願いします。

──加藤さんにとっては、初の仕事小説でもありますね。

加藤 こんなに取材をして書いたのは、たぶん初めてです。当時の編集担当さんから「コンビニスイーツを題材に仕事小説を」って提案をもらって、おもしろそうだなと思って。それでコンビニのスイーツ開発担当の方に取材させていただいて。そこから、ほんとうに何も、ラストも全然決めずに書き始めました。「点つなぎ」のイメージはあって、タイトルが先に浮かんで。

村田 それなのに、タイトルが作品とすごくリンクしていますね。きめ細やかで、不思議な小説だと思った。

加藤 嬉しいな。

村田 仕事小説としての細部が本当にちゃんとしていて、そして、──言い方は悪いけど、底の浅い希望みたいなものが全然なくて、安易ではないところがいいなと思いました。

加藤 本当に悪い言い方だ(笑)……。

村田 でも底の浅い希望は、本当に絶望している人からすると、すごく浅はかで、かえって気が滅入ると思います。そういう安易な話では全くないことは、誠実だし、作品の中の人物を尊重していると思います。
ふだん友達と話していると、たとえばすごく恵まれて見える人でも絶望していることってあると思うんです。結婚して、子供がいたりとか、会社でばりばり働いて、好きな人ともうまくいっていて……という人でも、何かに絶望しているときがある。そういう言葉にできない絶望が、この作品にはすごく可視化されてあるような気がした。

加藤 よかった、コンビニのバイトをしている人に「あり得ない」って言われなくて……。

村田 いや、すごい取材したんだろうなと思ったよ。私、十時? 十時とかでバイトしていた時期があって。

加藤 えっ、十二時間てこと? 

村田 うん。大学時代に……。

加藤 もう、バイトの域を超えてない、それ? 

村田 『点をつなぐ』を読んで、そのときの感覚を思い出しました。往復している感じ。ひたすら働いて、家に帰って、むさぼるように寝て、体を回復して。主人公のみのりちゃんが店長だったときって、きっとそういう状態かなと。

加藤 そうだね、別れ話も面倒くさいくらい。

村田 あの別れ話の場面は印象的でした。極端過ぎないし、でも、底の浅い希望とかきらきらしたものでごまかされてもいなくて、本当にシンプルに疲れていて。だから、別れ話ならさっさと別れて、帰って寝たいと思ってる。
そういう体も心も削られていく感じがすごくしっかり書かれていて、仕事小説として甘くないところが個人的には好きです。甘くないけど、ちゃんと仕事も好きで、やりがいもあって、でも、ファンタジーみたいにうまくいくわけでもなくてっていう、絶妙なところに静かに佇んでいる小説。その静かさが信頼できると思った。

加藤 すごく嬉しい、ありがとう。

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最終更新:5/17(水) 17:00
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