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【インタビュー】日本人はリーダーに向かないなんて誰が言った? ドイツ人が酒井高徳の言葉に耳を傾ける理由

5/18(木) 20:50配信

footballista

ブンデス史上初の日本人主将が語る“不変”の新米キャプテン道

INTERVIEW with
GOTOKU SAKAI
酒井高徳(ハンブルク/日本代表)

オリバー・カーンに象徴される“ゲルマン魂”の国だったドイツのブンデスリーガで、規律を重んじ指示に従順であることが美徳とされる日本人として史上初めてキャプテンに就任した酒井高徳。
低迷する難しいチーム状況で重責を背負った男がキャプテン任命以降、メディアで強調してきたのは「自分は自分のままであり続けている」という言葉だった。
なぜ、彼はあえて変わらなかったのか?
和やかに、そして時に熱く主将としての胸中を明かしてくれたインタビューからは、強烈にチームを引っ張る、という典型的なイメージとは違った“リーダー像”が見えてくる。

インタビュー・文 山口裕平


任命は突然に、しかし自然と
最初は“はぁ!?”って。ただ、自分が
どんな役割を担うべきかはわかっていた


──昨年11月中旬、ハンブルクの新キャプテンに任命されました。まず、その経緯から教えてもらえますか?
 「経緯というか唐突だったんですよ(笑)。監督が代わって(注1)、最初のヘルタ(・ベルリン)戦に出場して負けた。続くグラッドバッハ(ボルシアMG)戦とフランクフルト戦は先発から外され、次のケルン戦ではボランチとして初めて起用されると、ドルトムント戦もボランチで先発して、(11月上旬の)代表ウィークに入った。そんな感じで、監督交代後はスタメンで出るか出ないかという状況だったんです。そしたら、代表から戻って来た時に監督から呼ばれた。何か怒られるのか、『もう要らない』って言われるのかと不安で……そわそわした気分で監督室に入りましたね」

(注1)2016年9月25日、開幕からリーグ戦1分4敗の不振でクラブはブルーノ・ラッバディアを解任。47歳のドイツ人監督マルクス・ギズドルを招へいした。


──本当に唐突だったのですね。
 「『疲れてるか?』といったやり取りの後、監督が話し始めたんです。『ここまで5、6試合やってきて、チームがどういう(選手の)組み合わせになっているかや、誰がどんなタイプなのかもわかってきた。そこでお前にプレッシャーをかけたい』と。“やっぱりそういう系かぁ”と身構えたら、『でも安心してくれ。凄くポジティブなプレッシャーだから』って。その時は“ポジティブなプレッシャーってなんやろ?”という感じでした。すると続けて『お前がいない間、いろんなところにお前のことを聞きに行った。シュツットガルトもそうだし、ここ(ハンブルク)で働いている人もそうだが、誰にどう聞いても悪い面が何も出てこなかった。常に100%でトレーニングしているし、チームにしっかりモノを言えるし、先頭に立つ役割ではないけれどお前らしくチームを鼓舞している姿を見ると、凄く人柄が伝わってくる』と言われて。そして、切り出されたんです。『お前をキャプテンにしようと考えている』と。最初は“はぁ!?”って思いましたが」

──(笑)。
 「ただ、そこでまず『率直にどう思う?お前の意見を教えてくれ』と聞かれて。僕はなぜだかわからないんですが、凄く自然に『はい』と答えた。『やりたい』って。その上で昨季から心の中で思っていたことを伝えたんです。『このチームに欠けているものは、苦しい時に周りを鼓舞する選手がまったくいないし、互いが刺激し合って試合中にモチベーションを高めるシーンも少ない。キャプテンに加えて副キャプテンも5人(当時)いるけれど、チームに好影響をもたらしているかと言えばそれも感じられない。何か変えられることはあるんじゃないか』と。監督も『そうか』と理解してくれて……それがキャプテンの始まりでした」

──その時、「なぜ自分なのか?」という理由は監督からどう説明されたのですか?
 「『いつも100%でトレーニングに打ち込んでいるし、お前が何かを言う時は他の選手がみんなちゃんと耳を傾けている。アスレティックトレーナーから聞いたアップ中や途中交代で入る時の姿勢、前のコーチたちから聞いた人柄……今のチームにこういう選手が必要なんだ、というものを誰よりも持っていると思う』と。『今のお前が一番ふさわしいと俺は思う』と。ただ、それと同時に『お前は今のようにいればいい』とも言ってもらえました。『先頭に立って“俺がキャプテンだ”と気張り過ぎなくていいし、無理に何かを伝えようとしなくていい。お前のままでいて、お前がいつもやっているようにやって、ここだ!という時に普段通り声をかけてチームを鼓舞して、そのパフォーマンスを発揮してほしい。ハンブルクで一番パフォーマンスが安定していて、崩れない選手だというのをみんなから聞いている』と。『パフォーマンスの安定感というのは凄く大事だから』、『そうした様々な理由からキャプテンにしようと思う』と説明されましたね」

──キャプテンになれば“何かを変えてやろう”と思う選手もいることでしょう。監督から「変わらなくていい」と言われたとはいえ、あえて変えなかった理由とは?
 「シュツットガルトとハンブルクを経験し、チームがどうやったら勢いに乗るかというのを何となくわかっていました。こっちの選手っていい意味でも悪い意味でも力を発揮する仕方が単純。褒めれば褒めるだけ良くなり、叱れば叱るほどダメになる人が多いんです。そんな環境で周りを鼓舞するということを、僕は自然にずっとやってきた。チームがうまく回るために自分はどんな役割を担うべきかがわかっていたんです。だから、何かを変える必要もなかった。キャプテンになれば嫌でも視線が自分に集まるので、その時に初めて“ゴートクってこんなふうにチームに貢献しようとしていたんだ”というのが見えてくるかなと。自分は自分のままでやろうと。チームメイトたちも僕が大口を叩いて何かを要求する選手じゃないというのを知っていました。ドイツ語もまだ完璧じゃないから、伝えられることを伝えられる時にだけ伝える。それ以外の時はみんなにストレスをかけないように、大きなことは言わない。一般的に想像されるようなキャプテンらしさは普段あんまり意識してないですね」

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最終更新:5/18(木) 20:52
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