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高齢者支援問題を解決する地域コミュニティを創るには

5/18(木) 11:01配信

Meiji.net

高齢者支援問題を解決する地域コミュニティを創るには
長畑 誠(明治大学 専門職大学院 教授)

 いま、日本は超高齢化社会(65歳以上が人口の26.7%、80歳以上の高齢者が1千万人超)を迎えています。さらに、団塊の世代が後期高齢者となり、介護サービスが圧倒的に不足する「2025年問題」が大きな問題となっています。
 そこで注目されるのが、地域の住人たちが互いに支え合う、昔ながらの地域コミュニティです。しかし、近所づきあいも希薄な現代、どうすればこうしたコミュニティを取戻すことができるのでしょう。

◇発展への疑問が目を向けさせた、日本に昔からあった自治のスタイル

 私がNPOの活動を始めたのは、大学院生の頃にバングラデシュで活動するNGOに参加したことがきっかけです。現地に駐在したのは1990年代のことで、当時、バングラデシュは世界最貧国のひとつといわれていました。

 特に農村部に行くと、1日3回の食事もまともに摂れないような人たちがたくさんいました。それでも、自分たちの子どもには良い教育を受けさせ、良い暮らしをさせたいと、人々は将来に目標と希望をもって助け合いながら頑張っていました。

 そこには、日本人が失ってきた昔ながらのアジア的な人のあり方とか、人と人のつながり、それをベースにした社会があり、私はそれに惹かれて住民の皆さんのお手伝いをする活動をしていました。そうして、子どもたちを都会の高校や大学に送り出していったのですが、すると農村には若い人がいなくなってきました。
 人々が頑張れば頑張るほど、農村から若い人が居なくなり、都会は過密になり多くの問題が起きてきたのです。皆さん、日本は素晴らしく発展した良い国だ、日本のようになりたいと言っていましたが、突き詰めて考えると、発展とは一体何なんだろう。
 いま「発展途上国」といわれる国は、日本のような社会を目指せばよいのだろうか。そんな思いを抱きながら、バングラデシュでの駐在を終え、私は日本に帰国しました。

 帰国してしばらくそのNGOで働いた後、「いりあい・よりあい・まなびあいネットワーク」という団体を立ち上げました。
 現在の「あいあいネット」という一般社団法人の前身となる団体です。名称にある「いりあい」と「よりあい」は、村落の共有地である山林や原野などの入会地を持続的に使うために、住民みんなで寄り合って話し合いながら管理し守ってきた、日本に昔からある制度のことです。

 地域の資源をみんなで共同管理する「いりあい」と「よりあい」によって地域の自治とコミュニティが生まれ、それは、自分たちで自分たちの地域を良くしていく様々な取組みにつながっていきました。
 そんな仕組みが日本には昔からあったのです。現代でも、こうした思いをもって活動している人たちをつなぎ、互いにまなびあう場を創っていこうというのが、私たち「あいあいネット」が行っている活動です。

◇現代にも生きる「いりあい」「よりあい」の精神

 いま、私たちの活動のひとつにインドネシアのバリ島があります。日本人には観光地として有名な島ですが、この島の西側に「西部バリ国立公園」があります。
 この地域の森にはバリ島内でも貴重な手つかずの自然が残っていて、生物多様性保全の観点から、インドネシア政府は1984年、この地域を国立公園として保護することを決めました。

 ところが、この公園の周辺には国立公園ができる以前から村落があり、人々は薪にするために森の木を採ったり、家畜のエサにするために草を刈って暮らしてきました。村の人々にとって周辺の自然は、生活のための森だったのです。

 しかし、国立公園を管理する公園職員はそれを阻止しようとするため、住民と敵対関係になってしまいました。
 2008年、私たち「あいあいネット」は、国立公園と周辺の村との「共存・協働関係構築」を目指して活動を開始し、「村人と対等なパートナーシップ関係を創ること」や「“村にあるもの”を活用して課題解決の方法を考える」といったことを、ワークショップや現場での研修を通じて公園職員のチームに学んでもらいました。

 すると、2010年の夏、当時の公園所長が「カンムリシロムクの人工繁殖に村人も参加してもらえないか」という思いを抱いたのです。カンムリシロムクとはバリ島固有種の鳥で、絶滅の危機に瀕していたため、公園では飼育下繁殖に取組んでいました。
 公園側の思いは村人にも伝わり、飼育下繁殖のグループが結成されました。それまではカンムリシロムクを密猟する村のようにみなされていたのが、「自然環境保全に取り組む村」として多くの人に注目され、村人はプライドをもつことができ、さらに観光客にアピールするために、村内のゴミの撤去やリサイクル、エコツアーの観光資源の掘り起こしなど、その活動は広がっていきました。

 同じような取組みは日本にもあり、兵庫県豊岡市ではコウノトリ、新潟県の佐渡ではトキの飼育と繁殖に取組んでいます。

 いずれの地でも、ただ繁殖させて放鳥するだけではなく、一時は絶滅してしまった鳥たちが野で暮らしていけるように、農地はできるだけ無農薬にする、里山を整備し守る、ビオトーブを造るなどの活動を通して、自然環境の改善に市民の皆さんが自主的に関わっています。
 バリ島の例と同じように、こうした活動が人々の注目を集め、それが観光資源となり経済的な利益に結び付くという側面はありますが、それ以上に、苦労をともなう活動なのに、実は“楽しい”ということが関わる大きな理由だと思います。
 無い物ねだりをするのではなく、自分たちの地域にある資源を、みんなで管理し守ることによって多くの人たちとのつながりが生まれ、また、そこに自治の意識が芽生えます。

 こうした活動に取組むことは楽しいし、やっていると誇りをもてるのです。「いりあい」「よりあい」にも通じるこうした活動が、地域コミュニティの基盤となるのです。

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最終更新:5/18(木) 11:01
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