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『ブレードランナー』続編抜擢、注目監督のSF映画:『メッセージ』 - 大場正明 映画の境界線

5/18(木) 17:00配信

ニューズウィーク日本版

<『ブレードランナー』の続編の監督に抜擢されて注目されるカナダ・ケベック州出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、ケベックの「多文化主義」という背景が独自の世界観を培って来た>

以前、『ボーダーライン』(15)を取り上げたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の新作『メッセージ』は、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」を原作とするファーストコンタクトもののSFだ。

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ある日突然、世界各地に巨大な宇宙船が出現する。エイリアンと意思の疎通を図るために軍に雇われた言語学者ルイーズは、宇宙船へと足を踏み入れ、彼らが描く文字を解読しようと試みる。だが、時間の経過とともに大国の足並みは乱れ、エイリアンに対する攻撃の準備が進められていく。

この映画は予備知識が少ないほど想像力をかき立てられるので、内容にはあまり踏み込まない。ここでは、ヴィルヌーヴのバックグラウンドと、20年以上のキャリアを持つ彼が、その出発点で開示していた独自の世界観が新作に見事に引き継がれていることを確認しておきたい。それを頭に入れておけば、SFとは異なる観点から作品をとらえることもできるはずだ。

世界の注目を集めるカナダの俊英たち

この数年、ヴィルヌーヴやジャン=マルク・ヴァレ、グザヴィエ・ドランといったカナダの俊英たちが、メジャーな映画祭やアカデミー賞を賑わせ、世界の注目を集めているが、彼らがみなケベック州出身なのは必ずしも偶然ではないだろう。

カナダは世界に先駆けて国の政策として多文化主義を導入した。その政策には二本の柱がある。一本はケベック州と残りのカナダがひとつの国家としてどう存在すべきなのかという課題に答える二言語併用主義であり、もう一本はイギリス系・フランス系以外の文化集団をどう位置づけるかという課題に答える多文化主義だ。そんな背景はケベック人の意識に様々な影響を及ぼしている。たとえば、ケベック州出身で、日本でも映画を作ってきたクロード・ガニオン監督は、沖縄で『カラカラ』(12)を撮った理由を以下のように語っている。

「これが理由のすべてではありませんが、沖縄の歴史に共感をおぼえます。ケベックも沖縄も侵略された過去を持ち、大きな国の一部になってからも独自の文化を守ってきました。その経験が人々の気質を形づくっているように思います。沖縄人と日本人とでは、日本に対する見方が異なります。同じ日本国民でありながら、違う存在なのです。ケベック人の多くがカナダとの違いを感じているように、沖縄の人々は違いを感じています」(『カラカラ』プレスより)

ヴィルヌーヴ、ヴァレ、ドランは、異文化や他者との関係に対して鋭敏な感性を備え、それぞれに独自の世界を切り拓いてきた。そんな彼らの視点は、分断されつつある現代の世界を掘り下げる武器にもなる。なかでも異彩を放っているのがヴィルヌーヴの世界観だ。ヴィルヌーヴの映像作家としての出発点は、多文化主義と深く結びついている。90年にラジオ・カナダが主催する新人映像作家のコンペティションで優勝した彼は、カナダ国立映画庁の企画として短編を手がけることになった。その条件は多文化主義をテーマにすることで、彼は『REW-FFWD』(94)という30分の短編を完成させた。そこにはすでに独自の世界観がはっきりと刻み込まれている。



独自の世界観の出発点

『REW-FFWD』の主人公は、「ペリスコープ」という雑誌のカメラマンだ。仕事でジャマイカを訪れていた彼は、迷い込んだトレンチタウンのスラム街で車が故障してしまう。そこで最初は悪夢のような状況に怯えているが、地元の男に案内されて街を歩き回るうちに、住人や彼らの音楽に魅了されていく。

いきなりジャマイカというのは極端な気もするが、細部を見落とさなければ、カナダがジャマイカからの移民を受け入れてきた歴史を踏まえた設定であることがわかるだろう。主人公の目的は、76年のミス・ワールドを探すことだ。その年のミス・ワールドは、ジャマイカのモデルだったシンディ・ブレイクスピアで、彼女はジャマイカ人の父とカナダ人の母の子としてトロントで生まれ、4歳のときにジャマイカに移住した。そして後にボブ・マーリーと出会い、ダミアン・マーリーの母親になる。

しかし、この短編で最も興味深いのは、その構成だ。映画の冒頭では、ブラックボックスと呼ばれる装置が映し出され、声だけで登場する精神科医が、その装置に主人公のすべての記憶、経験、息遣いまでもが記録されていると説明する。装置には、再生、停止、巻き戻し、早送りのボタンがあり、作品のタイトルも巻き戻し・早送りを意味している。

そこで主人公が装置を操作することで、時間を前後させながら彼の物語が浮かび上がってくる。そんな映像の断片には、旅立つ前の彼が、編集部でジャマイカに対する先入観を植え付けられる場面も含まれている。但し、再現されるのは彼の体験だけではない。一方にはドキュメンタリーの要素があり、挿入されるインタビューがジャマイカの歴史やラスタファリズムのレクチャーになる。さらにもう一方では、主人公の無意識を象徴する映像も盛り込まれ、精神科医が語るところの"サイコドラマ"になっていく。

この短編には、ヴィルヌーヴの世界観や表現が集約されている。彼が紡ぎ出す物語には、ふたつの流れがある。ひとつは、主人公を取り巻く現実であり、彼はそれをドキュメンタリーのように描く。もう一方には、時間に縛られない無意識の領域があり、現実が再構成されることによって、主人公を覚醒や解放、あるいは異なる次元へと導く。

言語や文字の限界を超えようとする

ヴィルヌーヴのこれまでの作品には、そんな世界観が様々なかたちで盛り込まれていたが(特に『渦』や『灼熱の魂』)、新作ではそれが前面に押し出されている。ヒロインの言語学者は異文化の領域へと踏み込む。この映画では、そんな彼女の地道な作業がフィクションというよりはドキュメンタリーのように描き出される。それと同時に、彼女の無意識の領域が重要な位置を占めていく。

そして、『REW-FFWD』の主人公が、言葉を超えた音楽を通してジャマイカ人と共鳴するように、この映画のヒロインも、言語や文字の限界を超えようとすることで、異次元へと導かれる。ヴィルヌーヴが自身の出発点を再確認し、そこから大きく進化を遂げた『メッセージ』を観ると、次回作である『ブレードランナー』の続編がさらに楽しみになる。



『メッセージ』
公開:5月19日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズ他全国ロードショー
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大場正明

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