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【劇場アニメレビュー】“アーティスト”湯浅政明監督がやりたい放題!?『夜明け告げるルーのうた』

おたぽる 5/19(金) 11:00配信

 4月に湯浅政明監督の快作『夜は短し歩けよ乙女』を紹介させていただいたばかりだが、それからおよそ1カ月後、早くも湯浅監督の新作『夜明け告げるルーのうた』が全国の映画館にお目見えとなる。これを快挙と言わずして何と言おう!

 もっともこの作品、『夜は短し歩けよ乙女』よりも先に作られていたもので、公開時期がたまたま逆になっただけなのだが、いずれにしても湯浅監督作品が立て続けに劇場公開されるという喜びというか奇跡というか、今の日本映画界におけるアニメーション映画の位置づけを改めて思い知らされる。

 さて『夜明け告げるルーのうた』は、舞台となるのは、ある寂れた港町・日無町。両親が離婚したために、都会から両親の故郷に父とともに引っ越し、そのまま周囲と距離を置き、どこか心を閉ざした日々を過ごす中学生のカイ。

 彼の唯一の楽しみは自作の曲をネットにアップすることだったが、そんなある日、彼はクラスメイトの国男と遊歩にバンド「セイレーン」に誘われ、しぶしぶ赴いた練習場所の人魚島で、人魚のルーと出会う。

 音楽を聞くと、尾ひれが足に変わって踊り出してしまう無邪気なルーに、カイはいつしか心を開くようになっていく。しかし、古来より日無町では人魚は災いをもたらす存在として忌み嫌われていた……。

 ストーリーだけ採ると、割かしよくあるファミリー向けファンタジーものではあり、実際本作もそういった趣旨で企画されている節は感じられるが、やはりそこはそれ、湯浅監督だけにそんじょそこらの“良いお話”の域にとどまるはずもない。

 絵柄も従来の湯浅作品に比べるとほんわか親しみやすいものになっており、ポスターワークだけ見ると、ルーのキュートな絵柄に「湯浅作品も萌え?」と勘違いしてしまうほどだが、実はこの作品、作画も演出も一見ファミリー向きでありながら、いや、むしろファミリー向け作品であるようなふりをして、大胆不敵にも湯浅監督がやりたい放題、アバンギャルドに演出しまくっていることが、いざ鑑賞し始めると一目瞭然なのである。

 特に中盤の浜辺のシーンで音楽に乗せてルーが現れ、町の人たちまでいつしか踊り出してしまうシーンは“楽しいミュージカル・シークエンス”と一言でくくるのをどこかためらわせるほどにシュールでポップ、それでいて躍動感に満ちているのだが微妙にゆるい(!? しかし、それこそが湯浅作品の本領か)、それこそ湯浅監督以外の何者にも真似できない唯一無二の秀逸なものになっている。

 後半、ルーをめぐる町の大人たちのやりとりは、やがて異形のもの(ルーのパパがスーツを着たサメみたいな造形なのもいかしている)を排除しようとする人間の悪しき業とでもいった、これまたファンタジー映画にありがちな設定へ突入していくが、語り口の巧さやクライマックスのスペクタクル描出のカタルシス、さらには人魚を憎悪してやまない老婆のキャラクターが悪役と呼ぶにはあまりにも痛快で、とどのつまりこの映画、おそらくは監督が嫌うキャラクターが一人もいないのであろうとでもいった心地よさに最終的には支配されていく。

 主人公の少年とルーとの交流も実に繊細な配慮がなされており、そこに彼のことが気になって仕方ないバンドの仲間たちとの何気ないやりとりなど、少年少女特有のジュヴナイルな感情が映え渡っており、青春映画としても秀逸な仕上がりになっている。

 おそらく映画通やアニメ通の多くは、本作を見ながら宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』を思い出す向きがあるのではないかと思う(実は私がそうだったのだが)。しかし、画を動かすことこそを第一に精魂込める宮崎監督の創作姿勢は、あの作品に関してはいささかノーテンキ過ぎるものを感じ、現に東日本大震災以降はテレビ放送が困難な作品となってしまっている。

 それに対して本作は画のダイナミズムとスペクタクル感覚を大事にした上で、震災後の観客に対する心の配慮みたいなものもきちんとなされており、作家的アーティステイックな意欲とファミリー層に素直に受け入れられる簡明な心地よさを両立させ得た快作となっている。

 こういう作品こそを、本当は“大人の映画”と呼ぶべきなのかもしれない。アーティストとしてやりたい放題のことをやり、それでいて万民に受け入れられる真のエンタテインメント映画。いつのまにか湯浅監督はその域に達していたのかと感嘆せざるを得ない。

 こうなると快作『夜は短し歩けよ乙女』も、本作を通過した上での心のゆとりとさらなる挑戦として発表されたものであることが容易に理解できてくる。これで次なる新作が、あの『DEVILMAN crybaby』となると一体どういうことになるのかまったく見当がつかない。

“安定”なる言葉を知らぬかのように、湯浅監督は終始突っ走り続けている。その疾走に付き合う快感を、こちらもいつまでも持ち合わせていきたいものである。
(文・増當竜也)

最終更新:5/19(金) 11:00

おたぽる