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チェルシー、プレミア制覇の核心はコンテの二大采配に。新機軸3-4-3と一体感の醸成

5/19(金) 11:56配信

フットボールチャンネル

 16/17シーズンのイングランド・プレミアリーグを制したのはチェルシー。今季からアントニオ・コンテ監督が就任し、3バックシステムを導入してからは圧倒的ともいえる勢いで欧州屈指のリーグで優勝を果たした。この快進撃の秘訣はなんなのだろうか。その核心は、指揮官の二大采配に見出せそうだ。(取材・文:山中忍【ロンドン】)

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●王座奪回の決め手を一言で言えば…

 昨夏に「カンテを得たチームが優勝する」と占っていたのは、レスターのファンでもあるガリー・リネカー。実際、昨季王者のレスターからエンゴロ・カンテを獲得したチェルシーが今季プレミアリーグを制した。しかし、昨季10位による王座奪回の決め手を一言で言えば「カンテ」ではなく「コンテ」。新監督のアントニオ・コンテが大低迷後のチームを蘇えらせたのだ。

 もちろん、カンテは期待に違わぬ新戦力だった。働きぶりはプロの同僚たちにも認められ、PFA(選手協会)の年間最優秀選手賞に輝いた。同じく今季最優秀と評価されたFWA(記者協会)の投票では、筆者もチェルシーの新ボランチに投票した1人だ。

 だがコンテは、そのカンテしか意中の獲得候補を手にできなかった。自身には早期解任の噂も流れた。にもかかわらず、「10位だったのだから問題は多い」と認識していたチームを復活させた。昨年10月からの13連勝中には、メディアで「死角なし」と言われるまでに仕立て上げた。

 優勝に至る過程で、コンテは2度の危機を二大采配で切り抜けてみせた。1度目は9月後半、リバプール戦(1-2)とアーセナル戦(0-3)で連敗した後の基本システム変更だ。

 3-4-3採用を境に不可欠な戦力となったのは、いずれも昨夏の第1ターゲットではなかったダビド・ルイスとマルコス・アロンソ、そして戦力視さえ怪しかったビクター・モーゼスとペドロ・ロドリゲス。D・ルイスは3バック中央でリベロ的な素養が生かされ、ウィングバックのアロンソとモーゼス、同ポジションでも起用されたMFのペドロは、揃って攻守両面で持ち前のエネルギーをフル活用した。

 更には、ウィングバックの存在でアウトサイドでの守備から解放されたエデン・アザールが、左サイドから好みの前線中央へと流れやすくなった。「自由をもらった」と表現していた10番と近い位置で絡めるようになり、CFのジエゴ・スタが孤立して苛立つ危険も激減した。両者は優勝決定の36節終了時点で合わせて35得点11アシスト。昨季の不振が全く嘘のようだ。

●3バック導入に見る「緻密さ」。特性の見極めに狂いなし

 システム変更の決断が、母国イタリアでの実績もあり「いけると思っていた」と言うコンテの「感覚」によるものであれば、チェルシーの3バック習得はコンテの「緻密」な一面による。

 選手との対話を欠かさず、練習映像にも目を通して持ち駒の特性を見極めた監督は、ウィンガーのモーゼスに守備と学習の意欲を見て取った。右SBセサル・アスピリクエタの堅実なパスにも着目し、ウィングバックではなく3バックの一端を任せた。

 中央のD・ルイスが示した安定感は、アスピリクエタとガリー・ケイヒルという「守備の人」に挟まれていること以上に、当人が「しょっちゅう話をして勉強させてもらった」と言っている通り、密な戦術指導の成果だと言える。

 攻め込む時には前線に5名、引く時には後方に5名となる組織的な機能の体得は徹底的な反復練習の賜物だ。ポジションを示すコーンや相手選手代わりのダミーは、往々にしてコンテ自身が配置していたという。

 欧州戦がない日程にも助けられて新システムのマスターに取り組んだチェルシーは、基本化1ヶ月後の11節にして、即席3バックでマッチアップを試みたエバートンを蹴散らしている(5-0)。

 二大采配のもう1つは今年4月、マンチェスター・ユナイテッドに零封された(0-2)後のFAカップ準決勝(4-2)でのこと。相手は2位で4ポイント差に詰め寄っていたトッテナム。負ければリーグ優勝争いでの形勢逆転が見込まれた大一番で、コンテはアザールとジエゴをベンチに置いた。

 賭けは大成功。先発の機会を得たウィリアンと後半にベンチを出たアザールが計4得点に絡み、ライバルを凌ぐ選手層をもアピールした。3日後のサウサンプトン戦(4-2)では、温存明けのジエゴが2ゴール1アシストと活躍してもいる。

●過去最高の連帯意識。出場機会少ない選手もチーム支える

 ベンチが増えても腐らなかった昨季までの主力はウィリアンに限られない。セスク・ファブレガスも出番が来れば秀逸のチャンスメイクを繰り返した。敵地でマンチェスター・シティに逆転勝ちし(3-1)、優勝候補筆頭として名乗りを上げた14節での同点アシストが好例だ。

 主将のジョン・テリーも、「チームが勝ち続けていることを意味するのだから、最後まで自分に出番が来ない方がいい」とまで言い、ロッカールームでのリーダーシップ発揮に努めてきた。

 こうしたチーム優先の一体感を取り戻すことができた裏にもコンテがいる。プレシーズン開始を告げたクラブハウスでのバーベキューは、選手が喜ぶ家族同伴。チームを率いて西ロンドンのレストランに繰り出した指揮官は他にもいるが、コンテの場合は隔月ペースの定例。会食の場には、イタリア系だがオープンして間もない日本食レストランも含まれる。

 地元紙にコメントしていたイタリア料理屋のシェフによれば、選手たちがプライベートで訪れた際に何を飲食したかを報告させている点も入念なコンテらしい。

 スタッフが「連帯意識は過去最高」と評する指揮官は、「仲間」がチームの域を超えてもいる。クラブ一般職員のクリスマスパーティーに2時間近く出席したことは昨年末に報じられたが、500人規模の出席者に手書きのサイン入りカードを添えたワインとシャンパンを贈っていたことも明らかになった。

 そのコンテには、祖国のインテルが年俸倍増を約束するラブコールを送っている。チェルシー経営陣は、他のプレミア大物監督よりも安い10億円弱の年俸アップと補強に関する発言権強化をオファーすることで、戦力的に満足してはいなかったチームで新システムを機能させ、地に落ちていた自信と低下していたムードを回復させた監督を引き留めるべきだ。「コンテを得た」からこそ、プレミア王者としての今季があるのだから。

(取材・文:山中忍【ロンドン】)

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