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トランプ弾劾への道のりはまだ遠い

5/19(金) 16:00配信

ニューズウィーク日本版

<ロシア疑惑のFBI捜査を妨害した疑いでトランプ弾劾を求める声は高まっているが、司法妨害を立件することは難しく、米議会が動かなければ弾劾は成立しない>

民主党サイドはドナルド・トランプ大統領の弾劾を求めている。しかし、トランプが元大統領補佐官マイケル・フリンへの捜査を止めるようFBI(米連邦捜査局)のジェームズ・コミー長官(当時)に要請したとされる一件が直ちに司法妨害にあたるかどうか、法律の専門家は懐疑的だ。

FBI犯罪捜査局の元副局長ロン・ホスコは、「個人的には検察官が立件することはないと思う」と話している。「大統領は願望を口にしただけで、証人を殺害しても、証拠を隠滅してもいない。弁護側はそう抗弁できる」

今年2月に、トランプから「この件は、これ以上追及しないで欲しい......(フリンは)良い奴だ」と言われたことを示すコミーのメモがある、という報道はまずニューヨーク・タイムズが掲載した。

トランプは就任6週間後にフリンを解任したが、「問題は今月9日のコミー長官解任に、FBIの捜査を止めようという意図があったかどうかだ」と、ホスコは言う。「大統領はどんな理由でも、または理由がなくてもFBI長官を解雇できるが、もしフリンやロシア疑惑の捜査を止めさせるためにコミーを解任したという証拠が明らかになれば、弁護は難しくなる」

【参考記事】共和党はなぜトランプを見限らないのか

米司法省は今週17日、コミーの前任者の元FBI長官ロバート・マラーを、ロシアが昨年の米大統領選に介入した疑惑を捜査する特別検察官として任命した。またFBIは、フリンとロシアの関係についても捜査を継続している。

民主党議員は、コミーが主張するトランプの発言メモをもとに、大統領の弾劾を要求している。しかし米議会の上下両院で共和党が多数派を占める現状を考えれば、弾劾はまず起こり得ないシナリオだ。

例え、下院の過半数が賛成して弾劾手続きの訴追が進められても、上院で出席議員の3分の2以上の同意がなければ大統領の罷免は成立しない。



これはなかなか越えるのが難しいハードルだ。歴史上、これまでに下院で弾劾訴追された大統領はアンドリュー・ジャクソンとビル・クリントンの2人だけだが、2人とも上院で罷免はされず、任期を全うした。

トランプに関する著書もある歴史学者のラリー・シュワイカートは、共和党の下院議員20人が民主党に加わってトランプ弾劾に傾く可能性はあるものの、実際にそこまでの政治的リスクを冒すことは考えにくいと言う。

またアメリカ経済が好調な現状では、例え民主党が議会で多数派になっても弾劾は政治的に難しいと指摘する。

「トランプ経済の真価はまだ見えないが、好景気の中で大統領を弾劾するのは非常に困難だ。ウォーターゲート事件でも景気が悪化するまで世論はニクソンに寛大だった。もしニクソンがクリントンのような好景気を維持できれば、辞任に追い込まれることはなかっただろう」

【参考記事】私がFBI長官...じゃなく大統領報道官の後任候補です

今週、コネチカット州の沿岸警備隊学校の卒業式で祝辞を述べたトランプは、司法妨害については直接語らなかったが、メディアへの敵意をむき出しにした。「私に対する、特にメディアの最近の扱いを見てくれ。これほどひどい、不公平な扱いを受けた政治家は過去にいない。こんなことを許してはいけない」と話して、拍手喝采を浴びていた。

共和党の元下院議員で法律家でもあるデービッド・マッキントッシュは、今週開催された会合で、トランプはコミーに捜査中の事件について話し、またコミーを解任する権限を持つと語っている。「憲法上、大統領は法執行の権限を持っている......FBI長官に対してどのような捜査を行うか指示する立場にある」

また「アメリカ法律正義センター」のジョーダン・セクローは、民主党議員も今回のケースが実際には司法妨害にならないことを理解しているだろうと言う。コミーが主張するトランプ発言のメモが存在しても、「コミーの証言だけでは、検察官は立件できない」。

またセクローは、共和党が議会で多数派を占める現状で、司法妨害によって弾劾への道筋が開けたように語るのは政治闘争でしかない、と指摘する。「オバマ政権時代にも弾劾は取り沙汰されたが、そのたびに実現しない話だと説明してきている」

フレッド・ルーカス

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