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【ニューエンタメ書評】谷治宇『さなとりょう』、宮西真冬『誰かが見ている』ほか

5/19(金) 17:00配信

Book Bang

暖かい日が続き、ゴールデンウィークもやってきました。
友達、恋人、家族と沢山の思い出を残したいですね。
今回は、時代小説デビュー作をはじめとする9作品をご紹介します。

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 今年の歴史・時代小説界は、新人ラッシュで始まった。とにかく次から次へと、有望なデビュー作が出版されているのだ。たとえば、谷治宇の『さなとりょう』(太田出版)。作者は漫画原作者で、時代小説はこれが初めてとのことである。
 明治六年の秋。桶町の北辰一刀流道場を、りょうという女が訪ねてきた。自分は坂本龍馬の妻であり、夫を暗殺した犯人を捜すために上京してきたと、彼女は話す。これに驚いたのが、道場主の娘の千葉さなである。なぜならさなは、自分が龍馬の許嫁であったと、信じていたからだ。傍若無人なりょうに反発しながらも、いつしかさなは一緒に、龍馬暗殺の真相を調べ始める。だが、ふたりの行く手には、恐るべき闇が待ち構えていた。
 維新回天の立役者である坂本龍馬の妻と許嫁が、コンビを組んで暗殺事件の真相を追う。この設定が抜群だ。しかし本書は、設定だけで終わらない。さなとりょうのキャラクターの魅力と、興味を惹くストーリーで、先へ先へと読ませるのだ。さらに暗殺事件の部分も見事。二段構えの真相で、読者をぶっ飛ばしてくれるではないか! いきなり、とんでもない才能が現れたものである。
 泉ゆたかの『お師匠さま、整いました!』(講談社)は、第十一回小説現代長編新人賞受賞作。茅ケ崎の浄見寺で、寺子屋の師匠をしている桃。歳の離れた夫の後を継いでのことだが、本人はそれほど学問が好きなわけではない。寺子屋一の秀才で算術好きだが、生意気な鈴という少女を、いささか持て余している。そんなとき、酒匂川の氾濫で両親を失った春という女性がやってきた。まだ若いとはいえ大人なのに、寺子屋に入りたいという春。それを受け入れた桃だが、彼女は算術の天才であった……。
 天才と出会ってしまった鈴の苦悩。両親の死に関するトラウマを抱えている春。彼女たちとのあれこれを通じて、自分に何ができるか再確認していく桃。三者三様の女性の成長が、気持ちのいい読みどころになっている。また、南町奉行の大岡越前守が登場するのだが、このような使い方をした作品を見たのは初めてだ。ここも評価すべきポイントとなっている。
 さとみ桜の『明治あやかし新聞 怠惰な記者の裏稼業』(メディアワークス文庫)は、第二十三回電撃小説大賞銀賞受賞作だ。新旧の文化が入り混じる、明治九年の東京。元奥祐筆の父を持つ井上香澄は、日陽新聞社に乗り込んだ。新聞の記事が原因で、友人が奉公先を変えざるを得なくなったことを怒ってのことである。だが記事には裏があった。これが縁になり、記事を書いた内藤久馬と、小屋掛け芝居の人気役者・芝浦艶煙と知り合った香澄は、困った人を助ける彼らの裏仕事を手伝うことになる。
 本書は短篇四作で構成されている。好色な商家の主人が掛け軸の怪に怯える「女の掛け軸の怪」、傲慢な貴族の若君が黒髪の怪に襲われる「髪鬼の怪」、歩く死体の謎に久馬たちが挑む「さまよう死体の怪」など、妖怪や幽霊絡みの騒動をユニークな手法で扱っているのが、ひとつの読みどころだろう。また、ラストの「神隠しの怪」は、百物語を告白の場として、数年前に起きた神隠し事件が明らかになっていく。この展開は巧い。もう少し、各ストーリーに捻りが欲しい気もするが、これはこれでいいのだろう。ライト文芸ならぬ、ライト時代小説というべきか。今後、このような作品が増えていくと思われる。

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最終更新:5/19(金) 17:00
Book Bang

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