ここから本文です

創造性は詰め込みの産物 --- 荘司 雅彦

5/21(日) 16:10配信

アゴラ

先般、星新一氏の講演CDを聴いていたら、とても興味深い話に心を打たれました。概略、次のような内容の話です。

(ちょっとした小話をした後)「どうやったらたくさんの物語が書けるのか?」と訊ねられることが多いが、先ほどの小話くらいがスラスラ出てくるようになる必要がある。アイディアは全く別のモノの組み合わせだ。

私の勝手な引用抜粋ですので不正確な部分があると思います。
しかし、これを聴いた時、スティーブ・ジョブズが「創造性とは既存の知識の組み合わさだ」と語ったこと、そして古典的名著である「アイディアのつくり方」(ジェームズ・W・ヤング著)でも同じことが書かれていたことを思い出しました。

人間が作り上げる独創的な芸術なども、既存の材料の組み合わせだといわれています。モーツアルトが少年時代に父親から(モーツアルト以前や同時期)の音楽を叩き込まれたこと、代表曲「レクイエム」も前の時代の作曲家の曲に似ていることはとても有名な話です。

ビートルズの音楽も、それ以前のエルヴィス・プレスリーの歌に大きく影響されているというのは、故ジョン・レノン自身が認めるところです。

吉田松陰が、少年時代に大変な詰め込み教育を施され、周囲の大人たちが「丸暗記ばかりやらせているとこの子の独創性が失われる」と危惧したそうです。

以上の事実からもわかるように、既存の知識や材料をたくさん頭の中に詰め込んで、それを組み合わせるのが人間の「創造的行為」なのです。

膨大なデータ(既存知識)を正確に取り込むことができるAIに、様々な組み合わせ方をラーニングさせれば、作曲をしたり小説を書いたりできるのは当たり前といえば当たり前でしょう。

このように考えると、「子どもたちの自由な発想を伸ばす」という目的で「学習内容のインプットを減らした「ゆとり教育」は、「自由な発想」の元となる材料を少なくしているので、逆の結果を招いてしまったのは当然のことだったのです。

AIがどこまでの「組み合わせ能力」を発揮するかは、私には想像もつきませんが、とりあえず私たち人間が「創造性」や「イノベーション」を発揮したいのなら、既存の知識を自分の頭に叩き込むしかありません。

昔の大学受験では、「基本英文700選」を全部丸暗記するくらいは、東大受験生の常識でした。司法試験でも重要な定義をスラスラ言えなければ合格できませんでした。

昨今は、技術進歩により、自分の頭の中に入れておかなくても「検索」すればすぐに答えが出てきます。その知識だけであれば、暗記する必要は全くありません。しかし、その知識と別の知識を頭の中で組み合わせるためには、知識を頭の中に叩き込む必要があります。

頭のなかに叩き込む方法は、昔ながらの苦しい丸暗記だけでなく、一瞬で忘れられなくなるような体験をしたり、日々の仕事で自然に身につけるという方法もあるでしょう。音楽を聴いて感動して頭にこびり付くという体験もあるはずです。

もちろん、特定分野のスペシャリストになりたいのであれば、その分野の基礎知識を地道に頭に叩き込む必要があるでしょう。東大主席で有名な山口真由氏が(同じテキストの)7回読みを勧めていますが、7回読みはテキストの内容を頭に叩き込むための極めて効果的な方法です。

年をとっても大丈夫です。先般お亡くなりになった渡部昇一先生が「70歳を過ぎてからラテン語の勉強を始めたところ、単語を暗記すればするほど記憶力がよくなった」と書かれていました。脳のキャパはまだまだあるようです。

今の世の中、常に新しいものを考え出そうとしている人たちがたくさんいます。
あれこれ空想に励むのも結構ですが、既存の知識や仕事を地道にこなして頭の中に入れることも決して忘れないで下さいね。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年5月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログ(http://ameblo.jp/masahiko-shoji/)をご覧ください。

荘司 雅彦

最終更新:5/21(日) 16:10
アゴラ

記事提供社からのご案内(外部サイト)

アゴラ-言論プラットフォーム

アゴラ研究所

毎日更新

無料

経済、ビジネス、情報通信、メディアなどをテーマに、専門家が実名で発言することで政策担当者、ジャーナリスト、一般市民との交流をはかる言論プラットフォーム