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美人であればそれだけでいいのか? 他人の美しさを奪いながら大成していく女優、得るのは永遠の栄華かそれとも破滅か――。

5/21(日) 18:00配信

ダ・ヴィンチニュース

 大切なのは外見よりも中身。そんなきれいごとを言えるのは、けっきょく美しい者だけだ。見た目だけで侮蔑され、迫害された経験のない、恵まれた人間だけが言える世迷い言だ――そんな一つの真理をつきつけてくるマンガ『累-かさね-』(松浦だるま/講談社)。己さえも目をそむけたくなるほどの圧倒的な醜さで生まれついた少女・累(かさね)が、美しい他人の“顔”を奪って女優として大成していく、現代の怪談劇だ。

 伝説の大女優・淵透世(ふち・すけよ)の娘でありながら、似ても似つかぬ醜さゆえに、幼い頃からいじめられ、辛酸を舐めてきた累。だが小学生時代のある日、彼女は、母の遺した赤い口紅の存在を思い出す。それを塗って他者と唇を重ねると、相手と“顔”が交換できるのだ。その力によってクラスの美少女・イチカに成り代わった累は、学芸会の舞台に立つ。天賦の卓越した演技力とその美貌で学校中を魅了した累は、生まれて初めて羨望と称賛に満ちた光の世界に立つ。そして知るのだ。見た目が変わっただけで、世界はこんなにも簡単に反転してしまう。いくら才能があっても、醜いままでは誰にも認めてもらえない。累が人生の幸せを手に入れるためには、“自分”でいてはいけないのだ――。

 誰だって、一度は「あんな顔に生まれていたら」と他人を羨んだことはあるだろう。累ほどの醜さでなくとも、よほどの美女でない限り、瞼が二重だったら、もっと鼻が高かったらと、容姿への不満は尽きることがない。いや、よほどの美女であったとしても、他者と比べられるほどに欠陥が見えてくることがあるかもしれない。だからこそ世の中には、整形、というものが存在する。整形のハードルを一度踏み越えれば依存になりやすく、くりかえした先で歯止めが利かなくなる人も多いというが、累の入れ替わりもそれに近いものがあるかもしれない。ほんのわずか、小学校の学芸会で味わった一瞬の幸福を、累は二度と手放せなくなってしまった。――人を殺してまでも。

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