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連載 第8回|わが人生のなかのクルマ「いすゞ ベレット 1600GT」

5/22(月) 21:03配信

GQ JAPAN

服や住まいとおなじように、クルマもまた人をあらわす。人それぞれにクルマとの出合いがあり、物語がある。有名無名のクルマ愛好家たちが、それぞれの人生のなかにおけるクルマについて語る連載の第8回は、いすゞ ベレット 1600GTの時田英紀さん。

【いすゞ ベレット 1600GTのその他のフォトギャラリーはこちら】

第8回|わが人生のなかのクルマ
いすゞ ベレット 1600GT
時田英紀さん

■どうせ壊れるんだったら……

かつて自動車趣味を謳歌した先達たちのジュニア世代がいま元気だ。彼らが今日の日本におけるクラシックカー界をけん引する原動力の中心となっていることは間違いない。

今回、愛車いすゞ ベレット1600GTとともに登場して頂いた時田英紀さんも、かつてエンスージアストとして自動車趣味を楽しみつくしたご尊父の影響を全身に受けて、少年時代からクラシックカー趣味の世界に親しんできたひとりだ。

時田さんのご尊父は、いまは大型トラック/バス専業メーカーとなったいすゞ自動車が生産していた小型車のベレットを駆って、若かりし頃はジムカーナなどのモータースポーツにも参戦した。家庭を持った後も、伝説のランチア・テーマ8・32やシトロエンBX、さらにはランチア・フルヴィア・スポルトにアルファロメオ・ジュニアZなど、数々のイタリアン・クラシックスポーツを所有する生粋のエンスージアストであったそうだ。

その薫陶を受けて育った時田さんも、大学生になって運転免許を取得すると、早々にシトロエンのコンパクトカー、AXを入手。ほどなくランチア・デドラ・ターボに乗り換えるという、誰もが羨むようなカーライフを学生時代から送ってきた。

ところが、そのランチア・デドラがなかなかの強敵だった。1990年代初頭のイタリア車でもなかなか遭遇しない重篤なトラブルが次から次へと発生、さすがに業を煮やした時田さんだったが、その後の彼の決断もまた驚くべきものだった。

「もう、どうせ壊れるんだったら、いっそのこと憧れのクラシックカーを買ってしまおう」

その発想、もう並のクルマ好きではございません。そうして今から19年前となる1998年、尊父のかつての愛車でもあり、自身も少年時代からの憧れだったベレット1600GTを手に入れたのだった。

■父の思い出を再現したベレット

現在44歳の時田さんだが、物心がついて最初の記憶として残るご尊父の愛車は、おなじいすゞでも117クーペだった。しかしそれ以前の独身・新婚時代には、現在の彼の愛車とそっくりの赤いベレット 1600GTに乗っていたという。

ご尊父から、のちの妻(時田さんの母堂)となる恋人と伊豆や熱海などをドライブしたこと、レース用のサスペンションを組み込んで、ジムカーナなどにも参加していたというエピソードや武勇伝を聞かされ育った時田さんは、ベレット1600GTに対して、いつも特別な感情を抱いていた。

しかし大人になった時田さんが手に入れたベレットは、改良型SOHCエンジンを搭載した、もっと高年式の1600GTで、外観も尊父のクルマとは大きく異なるものだった。しかも、一般的にはベレットGTの象徴とも言うべき1.6リッターDOHCエンジンを搭載した「1600GT-R」仕様へと大手術を施したシロモノだった。

たしかに、かつての国産旧車マーケットには、そんな「1600GT-R仕様」のベレットが多かった。でも時田さんの憧れるベレットGTは、あくまでご尊父の愛車とおなじOHVの初期型、正確には第2世代の1600GTである。

そこで彼は、もともと大量に集めていたベレットの部品取り車や中古パーツを利用して、先ずは“ボディだけでも”第2世代の1600GTへと改造しようと考え、ラジエター・グリルを1600GT-Rの丸型4灯から現在の丸目2灯に変更。さらにテールも、よりランプの小さい初期型1600GTスタイルに大改装を施した。

筆者が初めて時田さんと知り合ったのは、実はその暫定的モディファイが仕上がった2004年頃のことだった。外観は1600GTスタイル、でもエンジンはDOHCのGT-R仕様。そんな一風変わったベレットGTを、個人的には好ましくも思っていたのだが、時田さんの考えは違っていた。

■ほぼ完ぺきな第2世代仕様が完成

そんな折のこと、東北地方で行われたクラシックカーイベントからの帰途、当時彼のベレットに積んでいたDOHCエンジンに致命的な故障が発生した。これを好機と捉えた時田さんは、ついに決意する。エクステリアとおなじ第2世代の1600GTが搭載するOHVエンジンを愛車に“心臓移植”すると。

実はこの段階で、エンジンを換装するためのパーツは既に揃っていたという。しかし、これだけの大作業。当然時間が掛かる上に、初期のOHVモデルと後期のSOHCモデルとで異なるディティールも、すべて忠実に改装してしまおうとしたことから、修復作業に一応のめどが立ったのは、なんと一昨年のことだった。

時田さんの“思い出のベレット1600GT”は、実に5年以上の月日を費やしてレストアを行い、いまや、よほどのベレット通でもなければ判別できないほど、ほぼ完ぺきな第2世代仕様に仕上がった。さらに、ご尊父が残していたというレース用のサスペンションなども組み入れ、おおむね完成となったのである。

そして現在。尊父とおなじく歯科医として開業も果たし、愛車のベレットも順調に仕上がっていく一方で、親元から巣立った時田さんも自らの家庭を持つことになった。

家庭と仕事、その両方で人生の伴侶となった樹里さんは、時田さんが研修医として勤務していた病院で同僚として知り合ったのだが、これがまたなかなかのクルマ好きなひとだった。

「付き合いはじめのころから“デート”と称して、ベレットのパーツを手に入れるためのジャンクヤード巡りとかも手伝ってもらってたんですよ。今となってはよく付き合ってくれたなと。本当にいい思い出です(笑)」

樹里さんの夢のクルマは? と尋ねたところ「現実的に考えると、新しいモデルなら現行のザ・ビートル。クラシックカーならVWのタイプ1かポルシェ 356が可愛らしくてイイですね」との答え。

もし幾らでも予算をかけられるなら? という問い直すと「メルセデスAMG GT、もしくはアストンマーティンDB5あたりですかね」との返答。それを横で聞いていた時田さんは「そりゃあ、よっぽど仕事頑張らないとね」と、楽し気な様子で応えていた。

いつも家族とその思い出を大切にしてきた時田さん。そんな彼がこれから築く家庭でもまた新たなクルマ趣味が着実に育まれているようだ。それもまた、ひとつの家族の歴史なのだろう。

文・武田公実 写真・阿部昌也

最終更新:5/22(月) 21:03
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