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本田のFK弾に歓喜したミラン。全選手が作った輪。3年半の集大成で残した爪痕

5/22(月) 12:41配信

フットボールチャンネル

 21日、セリエA第37節が行われ、ACミランがボローニャに3-0で勝利した。今シーズンなかなか出場機会に恵まれなかった本田圭佑は、この試合に途中出場。直接フリーキックから今季初ゴールを奪い、チームをEL予備予選出場圏内に導いた。日本代表MFの得点後にはミランの全選手が集まって輪を作り、仲間のゴールを祝福。チームを盛り立ててきた選手の活躍に歓喜していた。(取材・文:神尾光臣【ミラノ】)

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●「ケイスケがゴールを決めてくれて、本当に嬉しかった」

 ミランがヨーロッパリーグ予備予選出場を決めたボローニャ戦の後半28分、本田圭佑はチーム2点目となるゴールを直接FKで決めた。壁を超えたあとで急激に落ち、右隅を捉えた軌道は確かに美しいものだった。ただ見ていてそれ以上に印象的だったのは、その直後にミランの選手たちが本田を取り囲んで喜んでいた様子だった。

 ピッチにいた全選手は輪を作り、ベンチから飛び出してくるものもいた。その後本田はベンチへ掛けて行き、クリスティアン・サパタと抱擁を交わす。その周りも、他のベンチ入りメンバーやスタッフが寄ってきた。出場機会には恵まれないながらも、日々の練習でチームを盛り立ててきた仲間の活躍という意味で、彼らは本田のゴールを喜んでいた。

「すごく大変な試合だったけど、途中から入ったケイスケやマティ・フェルナンデスのおかげで勝てた。僕たちは素晴らしいグループだ。ケイスケのように、これまであまり試合に出られなかった人が活躍することがそれを示している。彼がゴールを決めてくれて、本当に嬉しかった」。アレッシオ・ロマニョーリは、地元メディアに向けてこう語っていた。

 実際、前半のミランは苦しい試合をしていた。この日、ヴィンチェンツォ・モンテッラ監督が敷いたのは、守備時には最終ラインが4枚となる3-5-2。ジェラール・デウロフェウを右アウトサイドに配置し、カルロス・バッカとジャンルカ・ラパドゥーラで2トップを組ませたのだが、全く繋がりがなかった。中盤は分断、前線ではキープができず、右でデウロフェウも孤立。しかもボールを奪われては3バックの裏を突かれて次々とカウンターを喰らう始末だった。

●戦術的合理性があった本田投入

 当然、モンテッラ監督は修正に入る。まず第一段階は、中盤で攻守の切り替えが素早くできるマティアス・フェルナンデスの投入。そしてその次は、デウロフェウを前線に上げた上で本田を投入することだった。「彼はプロだ。(EL出場権を得るという意味で)シーズンの中でも重要な瞬間を迎えていたが、彼ならやってくれると思っていた」モンテッラ監督は試合後、誇らしげに閃きの良さを強調していた。

 もっとも今まで長いこと本田を起用してこなかった人間が、シーズンの大事な瞬間に突然起用を思い立つものだろうか? ただそれはヤマ勘などではなく、戦術的な合理性を踏まえての決断だったのだろう。本田でなければならなかった理由は見て取れた。

 まずはスソが出場停止で、前線のつながりがなかったことが一つ。もう一つは、分断気味だった中盤の守備を安定させるために4-4-1-1へとシステムを変更する必要上、本田が必要となったということ。サイドハーフとしてスペースを埋めながら、攻撃にも絡むというタスクの両立ができる選手は、ベンチ入りメンバーの中では本田以外にはいなかった。

 シニシャ・ミハイロビッチ監督下では重宝されたが、4-3-3を基本システムとするモンテッラ監督下の戦術では居場所がなかったサイドハーフとしての役割。それがこの土壇場で、システム変更とともに必要とされたということだ。

 そして本田は、ミハイロビッチ時代のプレーさながら、サイドで実直なプレーを展開した。投入されて直後のプレーでは、折り返しを阻止されてサン・シーロのファンに悲鳴ともブーイングともつかない微妙な声を上げられている。しかしその後は、中にも外にも絞ってルーズボールを拾い、パスを堅実につないだ。相手から厳しくプレスを掛けられる中、タフに耐えていた様子からはコンディションの良さも伺えた。

●「ミラン本田」の縮図のようなパフォーマンス

 途中から入ってくる選手に求められるのは、チームのために体を張って闘うプレーとその姿勢である。27分、ゴッドフレッド・ドンサーに体を当ててボールを奪い、それを素早く味方につないでカウンターを誘発させる。これが相手ゴール前でのファウルを呼び、本田自身のFKにつながった。

 それにしてもこの日のパフォーマンスは、ある種本田がミランに所属した3年間の縮図であるような印象も受けた。移籍当初はトップ下という期待もありながら、評価をされたのがサイドハーフとして攻守両面を実直にこなすというプレーだったこと。FKからゴールは決めた一方、アシストのチャンスはありながら他にゴールを演出できなかったこと。厳しい言い方になるが、10番を背負いながらベンチに甘んじているという立場も3年半の評価そのものとも言える。

 ビッグクラブの選手は結果を出すのが当たり前で、さもなくば人間とみなされない。ただそれもまた、厳粛な現実である。チームを勝たせられなかった自分自身を誰より歯がゆく思っていたのは、他ならぬ本田自身だったことだろう。いろいろと批判の対象となって叩かれたが、彼がどういう姿勢で現実に向き合い、影でどんな努力を重ねていたかは、チームメイトたちの喜び方が示していたようにも思われた。

 EL予備予選出場がかかった1試合でやっと貢献できた、というのは小さい結果かもしれない。しかしミランにとって、3年ぶりのヨーロッパ進出は文字通りの再出発を意味する重要なもの。何もできずにシーズンを終えるよりははるかに良かったではないか。「ありがとうというふうに、ミランのファンに伝えておいてください」という言葉には、単に別れを告げるということ以上に、いろいろな思いが詰まっているような気がした。

(取材・文:神尾光臣【ミラノ】)

フットボールチャンネル編集部

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