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同棲が決まり、見えてきた“安定した未来”。だがそれはただの“平凡な未来”だった

5/22(月) 5:20配信

東京カレンダー

それもまた1つのLOVE。

愛してるとは違うけど、愛していないとも言えない。

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あなたの身にも、覚えはないだろうか…?

女性誌でライターをしている奈々は、高校時代に淡い恋心を抱いていた翔平と渋谷で再会する。

しかし彼の隣には、同年代の女性から羨望と嫉妬を集めている美女・美玲の姿が。ふたりを目撃した奈々は、ステディな彼・優一がいるにも関わらず心乱される。

思いがけず、翔平からデートの誘いを受ける奈々。しかしディナーの帰り、衝動的に翔平の手を掴むがやんわり拒否されてしまう。

「うまくやるために、必要なのよ」

「どうして優一さんのこと、言ったの?」

仕事の合間にランチで入った『雲林坊』。

迷いなく注文した汁なし担々麺をすする手を止め、同僚のさゆみが奈々に、咎めるような目を向けた。

翔平からデートに誘われた夜、彼氏の有無を問われた時に、奈々が優一の存在を隠さなかったことが、さゆみには理解できないらしい。

しかも、優一のことを言わなければ、翔平の手を掴んだ奈々を、彼が拒否することはなかった、とまで断言するのだった。

「どうして、って…隠す必要がないわ。翔平のことは確かに気になるけど、私は優一と同棲するって決めたから。優一の存在を否定するのは、違うって思ったのよ」

―5人の男をシーン別に使い分けるさゆみと、私は違う。

心の中でそう主張したが、声には出さないでおいた。

しかし奈々の言葉を聞いたさゆみは「わかってない」とでも言いたげに、大げさにため息をつくのだった。

「私は、奈々が優一さんと今後末永くうまくやっていくためにこそ、翔平くんが必要だって言っているの。それも、1つの愛だと思うんだけどな」

さゆみの論理はいつも常人とかけ離れていて、到底理解できない。だから奈々は今回も、彼女の忠告を聞き流した。

「欲望を1人の男で満たそうとするから、破綻するのよ」

見せつけられた、力量の差

「桜井さん、例の企画だけど…良さそうな子、集まった?」

ランチを終え、さゆみと共にデスクに戻ると、副編集長に声をかけられた。40歳手前で副編集長になった彼女は常に早足、早口で、釣られて奈々も早口でこたえる。

「えーっと…ほぼ、決まりました」

奈々が担当している女性誌は、まさに奈々と同年代の20代後半がターゲットだ。毎号のように「モテ」や「婚活」に関する特集が組まれるのだが、次の号で奈々は「憧れ読者のシンデレラ・ストーリー」というページを担当することになっている。

結婚が決まった読者の、リアルなウェディング事情を取材するのだ。どんなプロポーズをされた?婚約指輪は?式場は?ウェディングドレスは?…etc

結婚に憧れるアラサーたちにとって目の毒、しかし覗かずにはいられぬ企画である。

緊張に包まれながら評価を待つ奈々は、顔色一つ変えず資料に目を通す副編集長から、まさかあの女の名前が挙がるとは思ってもみなかった。

「まぁ悪くないけど、扉はもう少し見栄えのする子が欲しいわね…ああそう、衣笠美玲は?あの子、婚約したって聞いたわ」

―衣笠美玲が、婚約?

寝耳に水の情報だった。向かいに座るさゆみも、副編集長に驚きの視線を向けているから知らなかったのだろう。

「そ、そうだったんですか。知らなくて…コンタクトとってみます」

婚約?誰と?

バクバクと高鳴る心臓を押さえるようにして、奈々は声を絞り出す。副編集長は抑揚のない声で「よろしく」とだけ言い、去って行った。

「…そういうことだったのか」

副編集長と入れ替わるようにして、さゆみが訳知り顔で近づいてくる。

「大丈夫よ、奈々。相手はおそらく、翔平くんじゃないから」

さゆみは小声でそう言うと、奈々の手を引っ張って廊下に連れ出した。

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最終更新:5/22(月) 5:20
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