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大前研一氏 景気浮揚には「貯蓄は美徳」文化を「人生は楽しんでナンボ」へ

5/23(火) 7:02配信

マネーポストWEB

 飲食業界や建設業界を中心に、今はあちこちで「人手不足」になっていると言われる。それにしては、なかなか好景気を実感できない。大前研一氏が「失業率と景気の関係」を解説する。

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 日本のような成熟国では、失業率で景気は計れない。というより、景気を計る明確な指標はない。

 なぜなら、景気はみんなの「フィーリング(感覚)」や「サイコロジー(心理)」で決まるからだ。そして、このフィーリングやサイコロジーというのは、マスコミの“偏向報道”によって拡大・拡散される。

 たとえば、2008年12月31日から翌2009年1月5日まで東京の日比谷公園に開設された「年越し派遣村」のことを覚えている人も多いのではないか。失業者を支援するために、NPOや労働組合によって組織された団体が炊き出しや生活・職業相談、簡易宿泊所の設置などを行い、当時は連日、大々的に報じられた。しかし、それ以降「年越し派遣村」は一度も開設されていない。なぜなら、極めて少数の問題だからである。

 にもかかわらず、マスコミが大きく取り上げると、政府はそれに反応し、マイノリティ向けの政策を場当たり的に繰り出す。「貧困者対策」という政策が不要だとは言わないが、そこに税金を注ぎ込んで失業者を減らすことを「景気刺激策」だと考えるのは、大間違いだ。

 つまり、日本の景気がなかなか回復しないのは、フィーリングやサイコロジーの問題なのである。しかも、そもそも今の日本はモノが充足している。たとえば、家電製品や自動車などの耐久消費財は、それらを必要としているほぼすべての人が所有している。その耐久期間が6年とすると、買い替え需要が毎年6分の1ずつ出てくる計算になる。

 しかし、実際には家電商品も自動車もなかなか壊れないので、直ちに欲しいモノというのは意外と少ない。このため人々は少しでも「景気が悪いな」「今後は給料が下がるかもしれないな」と思ったら、財布や貯金に余裕があっても買い替えサイクルを7年、8年に延長する。その反対に「景気が良いな」「給料が上がりそうだな」と思ったら、買い替えサイクルを5年、4年に短縮する。

 つまり、個人消費を拡大して日本の景気を上向かせるためには、国民の不安を解消し、フィーリングやサイコロジーを「お金を使おう」という方向に動かすべきなのである。

 ただし「労働力人口」、すなわち現役で働いている人たちのフィーリングやサイコロジーを変えてみても、あまり効果はないだろう。現役世代は子育てや子供の教育にお金がかかるし、住宅ローンをはじめとする負債も抱えているからだ。

 一方、教育費や住宅ローンなどから解放された「非労働力人口」で失業率にカウントされない高齢者たちは、前述したように、この国の個人金融資産の大半を保有している。

 ということは、景気を良くするためには、失業者をこれ以上減らしたり、労働者の賃金を上げたりすることより、高齢者のフィーリングやサイコロジーを変えることのほうが重要な要素となる。

 ただし、高齢者は「貯蓄は美徳」という戦後日本の伝統的カルチャーが染み付いているし、将来に対して漠たる不安を感じているため、貯め込んだお金を使おうとしない。

 だから、彼らの「貯蓄は美徳」というカルチャーを「人生は楽しんでナンボ」へと本質的に変革するとともに、漠たる不安を解消する安心システムを作り、「元気なうちにお金を使って人生を楽しもう」という心理にして、今は“死に金”になっている日本の個人金融資産1700兆円がマーケットに出てくるように仕向けなければならない。

 拙著『低欲望社会』(小学館)で何度も指摘してきたように、それこそが政府が取り組むべき最優先課題であり、そこにターゲットを絞った政策を打つこと、すなわち「いざという時は国が面倒を見るから、安心して人生をエンジョイしてください!」という明確なメッセージを出すことが、真の景気刺激策になるのだ。

※SAPIO2017年6月号

最終更新:5/23(火) 7:02
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