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激化する「AIチップ開発競争」と、その先にあるニューラルネットワークの未来図

5/23(火) 12:30配信

WIRED.jp

ディープニューラルネットワークを効率よく動かすには、人工知能(AI)専用チップが欠かせない。さらに優れたAIを構築するために、チップメーカーやテックの巨人たちは「AIチップ」の開発にしのぎを削っている。

激化するAI人材争奪戦

かつてヤン・ルカンは、「ANNA」と呼ばれる人工知能(AI)チップを開発した。だが、彼の取り組みは早すぎた。なぜなら、いまから25年も前のことだったからだ。

ときは1992年。ルカンはニューヨーク市郊外にあるベル研究所の研究者だった。彼がほかの研究者と開発したこのAIチップは、大量のデータを分析して自らのタスクを学習するディープニューラルネットワークを動かすためにつくられたものだ。だが、ANNAが市販されることはなかった。当時のニューラルネットワークは、小切手や封筒に手書きされた文字や数字を認識するのは得意だったが、それ以外のタスクはうまくできなかったのだ。

それから長い時を経て、ニューラルネットワークはグーグルやフェイスブック、マイクロソフトといったインターネットの巨人たちに大きな変革をもたらしている。ルカンは現在、フェイスブックAI研究部門の責任者だ。彼らが研究しているニューラルネットワークは、撮影された顔や物を識別したり、ある言語を別の言語に翻訳したりするなど、実にさまざまな能力をもっている。

ANNAの登場から25年が経ったいま、「ANNAのようなチップが市場から大いに求められている」とルカンは言う。近い将来、このようなチップが数多く登場することになるだろうと。

「AIチップ」というブルーオーシャン

グーグルは最近、TPU(Tensor Processing Unit)と呼ばれるAIチップを自社で開発し、自らのオンライン帝国を支える各地の巨大データセンターに導入している[関連記事]。各センターでは、マシンに搭載された多数のTPUが、Androidスマートフォンのユーザーが話しかけたコマンドを認識したり、グーグルの検索エンジンで検索結果を選別したりするなど、さまざまなタスクに利用されている。だが、こうしたグーグルの取り組みは、これから訪れるはるかに大きな波の始まりにすぎない。

CNBCの2017年4月20日の記事によると、TPUの開発にかかわっていた複数の技術者が、「Groq」という謎のスタートアップで、同じようなチップの開発に取り組んでいるという。また、インテル、IBM、クアルコムといった名の知れたチップメーカーも、AIチップの開発へと舵を切っている。

グーグル、フェイスブック、マイクロソフトなどの企業は現在、ニューラルネットワークを標準的なコンピューターチップ、すなわちCPU上で動かしている。だが、CPUは汎用プロセッサーとして設計されているため、AI用としては極めて効率が悪い。AIシステムが必要とする大量の数学的計算を処理できるよう設計された専用チップを使えば、もっと速く、かつ少ない消費電力でニューラルネットワークを動かせるのだ。グーグルによれば、TPUチップの導入によって、さらに15カ所のデータセンターを開設できるほどのコストを節約できたという。

現在、グーグルやフェイスブックなどの企業は、スマートフォンや仮想現実(VR)ヘッドセットでニューラルネットワークを活用しようとしている。そのために彼らは、個人用デヴァイスで動かせるAIチップを必要としている。「いまよりはるかに高い効率をもたらす、専用度の高いチップを開発する余地は広く残されています」とルカンは言う。

つまり、AIチップの市場はかなり大きな規模になる可能性がある。だからこそ、多くの企業が次々とこの分野に参入しているのである。

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最終更新:5/23(火) 12:30
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