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北朝鮮、新型ミサイル「火星12」型を発射――その正体と実力を読み解く

5/23(火) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は5月14日5時28分ごろ(日本時間)、同国の西部にある亀城(クソン)から、一発の弾道ミサイルを発射した。

 米軍や韓国軍、そして自衛隊は、このミサイルが約30分にわたって飛翔し、高度2000kmを超える高さにまで達したのち、発射地点から約800km離れた日本海の公海上に落下したと発表した。

 翌15日、北朝鮮は国営メディアを通じ、新型の中・長距離ミサイル「火星12」(ファソン12)型の発射試験に成功と発表。到達高度は2111.5km、飛距離は787kmに達し、この試験によって、新開発の誘導、制御システムやロケット・エンジンの性能や信頼性の実証に成功。また、弾頭部分の大気圏への再突入能力や、核弾頭の起爆システムも実証したとしている。

 この火星12は、4月15日に平壌で開催された軍事パレードで初めて存在が明らかになったもので、またおそらく今回が初めての発射でもあったと考えられる。この新型ミサイルの正体と実力、将来への発展の可能性について分析したい。

◆ムスダンとは異なる新型ミサイルか

「火星12」は一見すると、北朝鮮がこれまでなんども試射をおこなっている「ムスダン」とよく似ている。唯一、大きくはっきりと異なるのは、全長が伸びている点で、そのため、ムスダンの全長を伸ばして推進剤(燃料と酸化剤)の搭載量を増やし、射程を伸ばしたミサイルであると見る向きもある。

 ただ、そうすると辻褄が合わない点がある。ムスダンは、かつてソ連で開発された潜水艦発射型のミサイル「R-27」をもとに、全長を伸ばすなどして開発されたミサイルと考えられている。つまりR-27より重くなっており、一方でエンジンはそのままだと考えると、そもそもムスダンは、R-27由来のエンジンで打ち上げられる、ほぼ限界の重さになっている可能性がある。そこへさらに全長を伸ばして推進剤をたくさん積むとなれば、同じエンジンのままでは飛び上がることすら難しくなる。

 具体的に数字を出すと、まずR-27は、エンジンの推力は約26~30トンに対し、ミサイル全体の質量は14.2トンであり、つまり自重に対して約2倍の推力がある。ムスダンはR-27よりやや大きく、全体の質量は20トン近くになっていると考えられるが、もしエンジンの推力がそのままであっても、まだ打ち上がらない重さではない。しかし火星12ほどの大きさになると、その質量はおそらく20トンを超えているはずである。

 つまり火星12を飛ばすためには、R-27やムスダンのエンジンは使えず、かといって改良で推力を増すのにも限界がある。したがって、より推力の大きな、まったく異なるエンジンが必要になると考えられる。

 実際に、北朝鮮が公開した、火星12を後ろから撮影した(ぼかし入りの)写真を見ると、ムスダンとは異なるエンジンを積んでいることがわかる。

 ムスダンのエンジンは、メインとなる1基のロケット・エンジンを中心に、その外側に「ヴァーニア」と呼ばれる、姿勢や飛行方向を制御するための小さなエンジンが2基、装備されている。一方で火星12は、メインのエンジンが1基に、ヴァーニアは4基も装備している。ムスダンにあったような安定翼が、火星12ではなくなっているのは、数を増やしたことで、ヴァーニアのみで姿勢や飛行方向の制御ができるようになったためだろう。

◆今年3月に燃焼試験した新型エンジンを搭載か

 以前、本サイトでもお伝えしたように、北朝鮮は昨年4月と9月、そして今年3月と、それぞれ異なる新型ロケット・エンジンの燃焼試験を行っている。(参照:HBO『脅威増す北朝鮮のロケット技術――「新型ロケット・エンジン」の実力を読み解く』)

 この新型エンジンのうち、今年3月に試験されたものは、メインのエンジン1基にヴァーニアが4基であり、火星12が装備しているものと形が合致する。

 このエンジンは、その形状から、かつてソ連で開発された「RD-250」というエンジンをもとにしたものと考えられ、メイン・エンジン部分のみは昨年9月にも試験されている。その推力は40トン、ヴァーニアと合わせれば50トンほどと推測されるため、20トンを超えると考えられる火星12を飛ばすのには十分であろう。

 また、発射時の写真を見ると、メイン・エンジンやヴァーニア・エンジンが出す噴射ガスとは別に、形の異なるガスが、横にはみ出すようにして出ているのがわかる。

 R-27やムスダンが装備しているエンジンは、その仕組み上、エンジンからの噴射以外に排出するガスがないため、このようなガスが見えることはない(ヴァーニアを動かすためのガスは出るが、これほど量は多くない)。

 一方、昨年9月と今年3月に試験されたエンジンが採用している仕組みは、ムスダンのエンジンとは異なり、タンクからエンジンに推進剤を送り込むためのポンプを動かす際に使ったガスを外に排出することから、この写真のように、噴射ガス以外に別のガスが出ているように見える。

 この点からも、火星12はムスダンとは異なるエンジンを積んでいる可能性が高いと考えられる。

◆ムスダンとの兼ね合いは? さまざまな疑問点

 もっとも、この説に欠点がないわけではない。

 前述の記事のように、この新型エンジンが試験されたのは昨年9月が初めてであり、ヴァーニアも装着した状態で試験されたのは今年3月が初めてである。そこからわずか2か月で、実機のミサイルに組み込み、そして実際に発射するだろうか、という点である。

 失敗すれば貴重なエンジンや設備を失う上に、国際社会から恥をかくことになるのにもかかわらず、十分に試験されていないミサイルの発射を強行するというのはやや考えにくい。これを説明するには、北朝鮮のミサイル開発の異常さを踏まえるとありえなくはない、と考えるか、あるいは公表していないだけで、もっと以前から燃焼試験がおこなわれていたといった可能性を考えるしかない。

 また、昨年4月に試験された、ムスダンのエンジンを2基束ねたようなエンジンの存在や、そのエンジンを使ったICBM級とされる「KN-08」や「KN-14」といったミサイルとの兼ね合いも疑問である。同時に並行して開発するのは、とくにリソースの少ない北朝鮮にとっては無駄が多く、本来ならどちらかひとつに注力するのが合理的である。

 もっとも、ムスダンはこれまでなんども発射試験が行われているものの失敗が続いており、なんらかの致命的な問題を抱えている可能性が高い。そのため、ムスダンの実用化を諦め、その代わりに異なる仕組みのエンジンをもち、性能も比較的近い火星12にシフトしようとしている可能性もあろう。

 ただ、ムスダンが開発されたのはまだここ最近のことであり、つい先日も発射試験がおこなわれたところから、いずれにしても並行して開発していた、あるいは今なおしていることは間違いない。

◆大陸間弾道ミサイルへの発展はあるか

 すでに各所で報じられているとおり、今回の火星12は、極端に高い角度(ロフテッド・トラジェクトリィ)で発射されたため、到達高度約2000km、飛距離約800kmという、ミサイルとしてはきわめて特殊な飛び方となった。もし通常の撃ち方で発射していれば、飛距離は4000から5000kmにも達すると推測されている。

 今回の飛ばし方からもう少し角度を寝かせれば、在日米軍基地を含む日本全域を狙うことができるが、すでに北朝鮮はノドンやその派生型などで日本を射程に収めており、わざわざ虎の子の火星12を使う理由はない。

 しがたって、素直に考えれば、火星12は主にグアムを狙ったミサイルであり、今回の発射は、その威力を見せつける意味合いがあったと思われる。

 しかし北朝鮮にとっては、米国と対峙できるだけの核戦力をもつこと、そしてもっていることを見せつけることが最大の目的であり、日本はもとより、グアムを射程に収めることは通過点に過ぎず、あくまで主眼は、米国の本土に核弾頭を撃ち込める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に置かれていることは間違いない。

 では火星12はICBMになるのかといえば、そのままでは難しいだろう。火星12は1段式のミサイルと考えられるが、その上に第2段、第3段を積めば、飛距離を伸ばすことはできる。しかし、その分搭載できる弾頭(ペイロード)の質量が減るため、核弾頭が積めなくなるか、あるいはさらなる小型化をしなければならない。

 可能性があるとすれば、エンジンの強化である。以前、『脅威増す北朝鮮のロケット技術――「新型ロケット・エンジン」の実力を読み解く』で触れたように、昨年9月と今年3月に試験され、そして火星12に装備されていた可能性のあるエンジンは、ソ連のRD-250というエンジンを”半分”にしたものと考えられる。したがって、もとのRD-250と同じ形に戻せば、推力は2倍の80トンにまで増える。これを第1段に使ったミサイルを開発すれば、第2段、第3段とあわせて、重い弾頭をより遠くへ飛ばすことが可能になる。

 つまり火星12は、性能上はグアムを狙うことができ、今回の発射もそれを見せつける意味があったものの、それと同時に、新型のエンジンや弾頭の再突入の試験機でもあり、ICBMの開発に向けた布石であるとも考えられなくはない。

 はたして北朝鮮は、そのような展開を考えているのだろうか。そもそもムスダンや、ムスダンをもとにしたICBMと考えられるKN-08や14、さらに固体推進剤を使った「北極星」ミサイルなど、他の弾道ミサイルとの開発や運用の兼ね合いがどうなっているのかなど、まだわからない点は多い。

 もちろん、その答えが北朝鮮自らの手によって明らかにされる前に、こうしたミサイル開発を含む、北朝鮮をとりまくさまざまな問題に、終止符が打たれることが望ましい。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info

【参考】

・North Korean Ballistic Missile Models | NTI(http://www.nti.org/analysis/articles/north-korean-ballistic-missile-models/#musudan)

・North Korea’s Latest Missile Test: Advancing towards an Intercontinental Ballistic Missile (ICBM) While Avoiding US Military Action | 38 North: Informed Analysis of North Korea(http://38north.org/2017/05/jschilling051417/)

・Hwasong-12 | Missile Threat(https://missilethreat.csis.org/missile/hwasong-12/)

・Missile Threat – CSIS Missile Defense Project(https://missilethreat.csis.org/missile/musudan/)

・R-27 / SS-N-6 SERB(http://www.globalsecurity.org/wmd/world/russia/r-27-specs.htm)

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