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揺れるカンヌ映画祭 動画配信大手の作品巡り火花

5/24(水) 7:47配信

NIKKEI STYLE

 記念すべき70回目を迎えた今年のカンヌ国際映画祭は、開幕直前から大揺れに揺れた。動画配信大手ネットフリックスの出品作を巡る問題のためだ。17日の開会式に先立つ審査員9人の記者会見でも、いきなり火花が散った。
 「デジタルプラットフォームは言葉や映像を提供する新しい方法で、それ自体は人々を豊かにするものだ。しかしこれらの新しいプラットフォームは映画館という既存の形式に取って代わるべきではない。唯一の解決策は新しいプラットフォームが、既存のネットワークによってすでに採用され尊重されているルールを受け入れ、従うことだと思う」
 審査員長を務めるスペインのペドロ・アルモドバル監督は、ネットフリックス問題についての質問に対し、あらかじめ用意した英文の紙を読み上げながら、確固たる意思を表明した。さらに「個人的には」と断った上でこう続けた。
 「大きなスクリーンで見ることができない映画に、パルムドールのみならずあらゆる賞を与えるべきではないと考える。これは私が新しい技術や機会に対しオープンでなく祝福もしないという意味ではない。しかし生きている限り、私は闘うつもりだ。大きなスクリーンが観客を夢心地にさせる、その力のために」
 劇場公開を拒む動画配信業者の動きを強い調子で批判し、大画面を擁護するアルモドバルの言葉に、会場からは拍手がわき起こった。
 一方、審査員の一人である米国の俳優ウィル・スミスもこの問題について発言。「私の16歳、18歳、24歳の子供たちは週に2回は映画館にも行くし、ネットフリックスも見ている。我が家の中では、映画館で見る映画とネットフリックスで見る映画はほとんど重ならない。それらは2つの異なった娯楽の形式だ」と語った。
 コンペに選ばれたにもかかわらず、フランスでの劇場公開のメドがたっていないネットフリックス作品の問題が明らかになったのは開幕1週間前。カンヌ映画祭がプレスリリースを出した5月10日だ。同映画祭はネットフリックスが製作したノア・バームバック監督『マイヤーウィッツ家の物語』とポン・ジュノ監督『オクジャ』の2作品について「公式上映から除外するとの噂が広まっている」とした上で、これを否定。2作品を予定通りコンペで上映すると発表した。
 さらに映画祭はネットフリックスに対し、2作品をフランスの劇場で公開するように働きかけたが「受け入れられなかった」と説明。その「後悔」を踏まえ、来年からコンペ作品に新しい規則を設けることも宣言した。新しい規則はコンペへの出品を希望する映画は、フランスの映画館への配給を確約しなければならない、とするものだ。
 フランスではDVDやテレビ放送、配信などの映画の2次利用について、可能となる時期を法律で細かく定めている。加入契約者への動画配信サービスの場合は劇場公開から36カ月後でないと配信できない。ところがネットフリックスのビジネスモデルは新作をまず加入契約者だけに独占的に配信するというもの。興行界と協調的なアマゾンと違って、同社がこの原則を貫けばフランスでの劇場公開は難しい。来年以降はカンヌのコンペへの出品は事実上不可能となる。
 劇場公開の見通しが立っていない2作品が今年のコンペに選ばれたことに対しては、フランスの興行界からは強い批判が出ていた。これに対し、ネットフリックスのリード・ヘイスティングス最高経営責任者は10日、フェイスブックを通してこう批判した。「既存の体制が私たちを敵にまわして団結した。映画館チェーンがカンヌ映画祭のコンペへの参加を妨害しようとした、その驚くべき映画『オクジャ』をネットフリックスで6月28日に見よう」
 ネットフリックスやアマゾンなどの動画配信大手は近年、新作映画に積極的に出資している。バームバックやポンのような作家性の強い監督が彼らのおかげで野心作を撮れることは歓迎すべきことだ。世界的に沈滞気味のアート映画市場にとっては数少ない救世主とさえいえる。


 その一方で、今回の騒動は「映画とは何か」という根本的な問いを投げかけた。つい数年前まで続いたフィルムの時代であれば、その答えは簡単だった。原則として1秒24コマの映像が間欠的にプリントされた35ミリフィルム。そのモノとしての形が「映画」を規定してくれた。プリントは安価にできないが、それさえあれば世界中どの映画館でも上映は物理的に可能だった。

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最終更新:5/25(木) 7:47
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