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米国最高峰の弁護士が「交渉」をする上で大切にしていること

5/24(水) 9:10配信

ライフハッカー[日本版]

Inc.:ケネス・ファインバーグ氏は、米国史上で最も悲惨な事故やテロ、スキャンダルの犠牲者に解決をもたらすことに、プロフェッショナルとしてのキャリアを捧げてきました。今回はそんなファインバーグ氏がどのようなアプローチで交渉に挑んできたのかを紹介します。


交渉は、相手の立場に立つことから始まります。ファインバーグ氏は、交渉に入る前にできる最も重要なことは、交渉相手のことを可能な限り学び、彼らが本当に望んでいるものが何なのかを理解することだと話します。

相手はこの交渉から何を得ようとしているのか? 利害が対立する相手とどうやって折り合いをつけるか? 有能な交渉人はこう自問する。『私が彼の立場だったら、私からどんな言葉を聞きたいだろうか?』 自分の交渉スタイルや、譲れない取引条件は守りつつ、相手にとって魅力的な提案を出すように努める。


ファインバーグ氏は、とんでもなく困難な問題ばかりを扱ってきました。これまで何十年にもわたり、アメリカ同時多発テロ事件、バージニア工科大学銃乱射事件、メキシコ湾原油流出事故、サンディフック小学校銃乱射事件、ボストンマラソン爆弾テロ事件といった悲惨な事件の犠牲者に対する和解金の交渉を行い、解決に導いてきました。原告が数十万人に及ぶ事件においても、ファインバーグ氏は、最悪の悪夢を生きている人びとと共に歩もうとする、公正で信頼できる仲裁者として認められてきました。


争い事の細部にまで分け入って仕事をすることが重要だ、とファインバーグ氏は話します。

「あらゆる事実をおさえなければならない。相手より多くの知識を持っていなければならない。その交渉について知るべきことを全て理解しておかなければならない。それだけの力量と徹底性が求められる」ファインバーグ氏は、集めた情報を使って、当事者たちの頭の中に入り込みます。


ファインバーグ氏の交渉人としてのキャリアは、1984年に、ニューヨーク東地区の連邦裁判官、ジャック・B・ワインスタイン氏から、ベトナム戦争の帰還兵らがオレンジ剤(枯葉剤の1つ)の製造メーカーに対して起こした集団訴訟を仲裁する3人のチームのうちの1人に任命されたときから始まります。


帰還兵たちは、戦争中に枯葉剤にさらされたせいで、現在でも慢性疾患に苦しんでいるとして、枯葉剤の製造メーカーに対し損害賠償を求めました。一方、ダウ・ケミカル、モンサント、そのほか5つの枯葉剤メーカーは、何年もの間、枯葉剤は人体に害はないと主張し、自らの責任を否定する立場をとっていました。帰還兵たちは12億ドルの損害賠償を求めていました。枯葉剤メーカー7社は、ファインバーグ氏に、全体で2万5千ドルまでしか払う意志がないことを伝えていました。


ところが8週間後、メーカー7社は、帰還兵とその家族への補償を目的とした、1億8000万ドルの基金を設立します。


ファインバーグ氏はどうやって10億ドルのギャップを埋めたのでしょうか? 最も効果があったのは、和解に至らなかった場合、どのような展開が予想されるかを双方に提示することだった、とファインバーグ氏は話します。

この一件が裁判に持ち込まれれば、帰還兵たちは現実的に敗訴する可能性がありました。当時の科学では、枯葉剤と帰還兵を苦しめていた病気の間に、強い関連性を見つけられていなかったためです。一方、メーカー側には、国民から非難を浴びるだけでなく、帰還兵に同情的になった陪審員が、科学的証拠の欠如を無視した判決を出す可能性も決して低くはないことを伝えました。

「両者が何を求めているかは明らかだった」とファインバーグ氏。交渉するときにはいつも、「自主的かつ合意に基づく解決に導くように努力する。リスクを回避すべき理由を説明する。和解に至らなかった場合、つまり、サイコロを転がしたときに、どのような結果が起こり得るかを思い出してもらう」


その数年後の2001年、ファインバーグ氏は、米国司法長官ジョン・アシュクロフトから、アメリカ同時多発テロ事件の犠牲者補償基金として議会から割り当てられた納税者控除額71億ドルの管理責任者に指名されます。


ファインバーグ氏の役割は、それぞれの犠牲者の遺失生涯稼得賃金をもとに、犠牲者の家族が、どれくらいの補償金を受けとる権利を有するかを決定することでした。この決定を受け入れた人は、航空会社、空港の警備会社などに対して、この事件に関して過失を訴える権利を放棄する、とされました。議会はこのプログラムの期限を33カ月間と決定しました。


ファインバーグ氏は、「期限」が犠牲者の家族の97%が合意を受け入れるのに決定的な役割を果たしたと言います。双方の主張に食い違いがあり、すぐには合意に達するのが難しく見えるときは、まずは話し合いの期限を決めるように提案することができます。

「期限が決められていなければ、交渉はあてどなく迷走し続けることになる。期限があれば、例えば今から3週間後の午後4時にはこの交渉が終わっていることを当事者全員が理解していれば、そのことが合意に至る動機になる。交渉はたいてい、土壇場で決着するものだ」実際、同時多発テロ事件に関する和解交渉の3分の2は、期限まで6カ月を切ってから決着しています。


当事者が感情的になっているときに重要なもう1つのポイントは、どんな交渉でも重要なことだが、関係者1人ひとりの立ち位置を把握することだ、とファインバーグ氏は話します。同時多発テロ事件のケースでは、当初、多くの家族がこのプロセスに懐疑的だった一方で、一部の家族は和解金を受け入れることに積極的な態度を示していました。


相手方に、合意に賛成の人たちを見つけることができれば、ほかの人たちの態度を変えることができます。「グループを相手に交渉していて、そのうちの5人が和解に賛成で、残りの5人がそうではないとする」とファインバーグ氏。「あなたはちょうど中間地点にいる。和解をしたがっている5人を使って、解決を引き出すことを試みるべきだ」 たとえば、同時多発テロ事件で、犠牲者補償基金による補償金を早期に受け入れた人たちが、非常にありがたい存在であったことが、後々明らかになりました。


「そうした人たちが、和解に反対する人たちに対して『このプログラムはよいものだ。非常に寛大だ。秘密の協議事項もない。隠された特記事項もない。とてもオープンだ。とても公正明大なものだし、誰もが同意すべきものだ』と補償金を早期に受け入れた人たちが説得してくれた、とファインバーグ氏は説明しています。「そのことが、私のどんな言葉よりも、はるかに重要な役割を果たした」


ファインバーグ氏は、いかなる交渉においても、当事者たちと同じ部屋に居るべきだと考えています。「電話ではだめだ、顔と顔を合わせた交渉に代わるものはない」と彼は述べます。


なかなか決着のつかない紛争において、苦痛と不安に耐えながら厳しい交渉を乗り越えるのを助けた心構えが1つある、とファインバーグ氏は話します。「楽観的で、ポジティブでいることだ。この交渉を解決できない理由はない。私たちはみな道理をわきまえている。イエスに至る道を見つけよう」


Why the Best Negotiator in the Country Doesn't Do Anything Unless It's Face to Face|Inc.


Kevin J. Ryan(訳:伊藤貴之)

Photo by Shutterstock.

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