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“優秀すぎる”日本の宅配便再配達。アメリカでは不在時の荷物は雑草で隠す

5/24(水) 16:20配信

HARBOR BUSINESS Online

 過去数回にわたって、日本の物流の現状について語ってきたが、今回は現在筆者が住んでいる米国ニューヨークの配達事情と比べながら、いかに日本の配達サービスの質が高いかを綴ってみたいと思う。

 今年に入ってからというもの、日本国内の運送業界が注目を集め続けている。その発端は、去年の暮に某大手運送企業の配達員が、荷物を地面に叩きつけたり蹴とばしたりしている動画が拡散したことにある。

 自分の所有物でもないものを叩きつけるというのは、運ぶことを生業としているプロとしての意識云々以前の問題で、あの後ろ姿は、荷物の受取人にだけでなく世間に対するある種の挑戦状だったともいえるだろう。たとえあの箱が空だったとしても、あの箱に「蹴とばし可」と書いてあったとしても、人として決して許される行為ではない。

 ただ、これを世間が一方的に「けしからん」と非難して終われるほど、彼ら運送業界が抱えている問題は浅くない。特に第一線で働く彼ら配達員は、ここ数年で大きな労働環境の変化に直面してきているのだ。

◆1日150個を届ける

 国土交通省が発表した「平成27年度の宅配便取扱実績」によると、同年の宅配便取扱個数は37億4493万個。

 そのうちトラック運送はその約98.9%にあたる37億447万個で、日本の経済はトラックによる物流が支えていると言って間違いないだろう。そんなトラックの配達員1人が担当する荷物の個数は、時期や時間帯にもよるが、多い時では1日で150個を超える。さらに日本には中元や歳暮など、他の国にはない「贈り物」に対する行事が多く、年の間に幾度となくピークがやってくるのだ。

 これだけでもトラックでの配達業務は激務であるといえるのだが、加えて現在の日本には、再配達や時間指定などのサービスが当然のように提供されている。時にそれらは、「無料配送」という文言のもとで行われるにもかかわらず、受取人からは数分遅れるだけで「何のための時間指定だ」というクレームが浴びせられるのである。

◆道交法改正で配達員への負担はさらに増加

 彼ら配達員の労働環境が大きく変わった要因の1つに、過去に行われた道路交通法の改正がある。

 2006年6月1日から駐車違反の取り締まり業務が民間に委託され、停車中の車内に人がいなければ、たとえ1分1秒の停車であっても駐車違反として扱うことができるようになった。これにより、彼らの負担は一気に増えたのだ。

 トラックを離れれば時間との勝負。重い荷物を持ち、雨風や寒暖に抗いながら走って向かった届け先が不在だった時の落胆は、想像に難くない。再配達を約束する不在通知をポストに残し、「緑色の制服姿」がいないことを願いながらトラックへと戻るのである。

 この「緑色の制服姿」の取締員は、違反の対象が配達業者であっても容赦はしない。

 そのため、配達員を2人体制にし、いつでもトラックを動かせるようにするなどして対策を取る宅配業者も中にはいるが、もちろん人件費は倍かかることになるため、「送料無料」が珍しくない昨今においては、コスト的になかなか厳しいものがある。こうして違反切符を切られる配達員が激増するも、交通違反をすると配達業務を禁じられたり、今後の昇進に影響したりするため、配達員の知人による身代わり出頭が横行する結果となるのだ。

 一方、ニューヨークの配達事情はというと、日本のそれとは比べ物にならないほどレベルが低い。世界の最先端と言われるこの街の配達レベルや姿勢は、日本の配達員の働きぶりを知る人間からすると、正直「配達屋さんごっこ」でしかない。

 筆者は最近まで、ニューヨークのクイーンズという人種の交錯する地区に住んでいた。

 そこは、高騰するマンハッタンの家賃から逃れた人が多く住むエリアで、マンハッタンにはほとんど存在しない2~3階建ての一軒家に、複数の家族が各階に分かれて暮らしているというスタイルが珍しくない。

 筆者も、3階建ての大きな一軒家の2階部分に住む、エクアドル人夫婦の家の一室をシェアさせてもらっていたが、上階には中国人家族、隣部屋にはメキシコ人男性、下階にはイギリス人やドイツ人が住んでおり、1つの玄関を計7世帯が使って生活していた。

 そんなにぎやかな家に住み始めてすぐ、日本にいる両親から「荷物を送った」と言う連絡が来た。そうなると数日の間、荷物の到着を待つ側は、その“追跡番号を追跡する”日が続く。というのもニューヨークでは、荷物の時間指定配達サービスがほぼ存在しないのだ。あるのは日にち指定のみで、何時頃来るかは全く見当もつかないのである。

 さらに、こういう一軒家にはベルが付いていないか、付いていても壊れていることが多く、1日中待っていても配達員が来たことに気付かないこともしばしば。

 となれば必然的に依頼せざるを得なくなるのが「再配達」なのだが、これまたこんなサービスはないに等しく、電話やインターネットで日にち指定しても、予定通り来てくれるのは一部の大手民間配達業者ぐらいで、特に日本の郵便局にあたる「USPS」においては、いくら再配達を依頼し当日すべての予定をキャンセルして1日中窓に張り付いていても、荷物はトラックにさえ載っていない。

◆日本があまりに優れているのか、アメリカが適当すぎるのか

 筆者の両親は、なぜかレトルトのご飯や炊飯器、切り餅など、炭水化物を娘に届ける情熱がハンパなく、送ってくる荷物は毎度10キロを軽く超える。

 再配達がなされない荷物を手に入れる手段は、3-4日以内に郵便局に自ら取りに行くしかなく、郵便局に赴けば同じ思いで来局した人たちの長蛇の列。待っている間、客同士で文句を聞き合いながら順番を待っては、重い炭水化物を自ら背負って家まで運ぶ。ゆえに、郵便局のドアの出口を出た時の気分は、まるで「自らが郵便局員」である。

 それだけではない。筆者が渡米当初、最も驚いたのは、国内郵便の場合である。受取人が不在だった場合、荷物はなんと、外に放置されてしまうのだ。

 中には、雨に濡れないようにするためか、はたまた盗られないようにするためなのか、花壇に生える雑草に隠したり、玄関マットで覆ったり、ドア上にあるサッシに器用に挟んだりしてくれる“心ある”配達員もいるが、日本ではそもそも配達荷物を地面に置くことすら失礼に当たる行為であるゆえ、自分の名前が書いてある荷物が“野宿”しているのを初めて見た時には一瞬、心の底からイラついた。

 だが、すぐに「そうか、郵便局まで取りに行かなくていいのか」と思ってしまっていることに、複雑な念を抱いたものである。

 日本にいると気付きにくいが、日本国内の配達サービスの高さは、世界最高水準である。同じ一軒家に住む彼らに、日本では配達の時間指定が2~3時間区切りで選択でき、再配達も無料でできると話すと、誰一人として信じてくれないほどだ。それがゆえ、ニューヨークに住んでいると、日本の配達技術を少しでもいいから見習ってほしいと思うのと同時に、日本の配達員の奮闘に心から感謝するのである。

 日本の再配達率は改善はされつつあるものの一説には20%にもなると言われており、5軒に1軒の計算だ。ニューヨークのように荷物を放置して帰るのは問題外だが、受取人として、時間指定した日時には家にいるようにし、その日に荷物が来ることを意識するだけでも配達員の負担は大きく減り、日本の物流ももう少し滑らかになるのではないだろうか。

〈文・橋本愛喜〉

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:5/24(水) 20:43
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