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車いすラグビーの支援を通じて社員の目線「近くなった」

5/26(金) 7:47配信

NIKKEI STYLE

 2020年の東京パラリンピックに向けて、多くの企業が障害者スポーツの支援に名乗りを上げている。障害のある社員が実際に選手としてプレーしていることが、きっかけになるケースが多い。双方の目を併せ持つ彼らは、いわば橋渡し役だ。ウィルチェア(車いす)ラグビーのオフィシャルパートナー、三井不動産に勤務する元日本代表主将の福井正浩さん(52)に支援の意義について聞いた。(聞き手はオリパラ編集長 高橋圭介)
 ――まず福井さんと車いすラグビーの関わりについて教えてください。
 「22歳のとき交通事故で頸椎(けいつい)を損傷し、四肢に障害を負った。当初は陸上で1992年のバルセロナ・パラリンピック出場を目指したが果たせず、挫折感を抱いていたときに知ったのが車いすラグビーだ。ゼロからメンバーを集めて競技を開始。04年のアテネ・パラリンピックに日本として初めて出場した。07年からは関東を拠点とするチーム『アックス』で活動している」
 ――勤務先である三井不動産は16年4月、車いすラグビーの競技団体である日本ウィルチェアーラグビー連盟(埼玉県所沢市)のオフィシャルパートナーになりました。どんな経緯があったのですか。
 「15年4月に三井不動産が東京五輪・パラリンピックの(国内最高位である)ゴールドパートナーになった後、特定の競技についても支援を検討することになり、意見を求められた。車いすラグビーは12年のロンドン大会で4位、16年のリオデジャネイロ大会では銅メダルを獲得し、応援してくれる人の期待に応えられる力をつけてきている。リオ大会の前から個人的には『いずれは金メダル』と考えていたので、会社に『支援してほしい』という強い思いを伝えた。それがかなって、うれしいを通り越したような気持ちだ」
 「当時はオフィスビルの管理業務に携わっていたが、今年4月に自ら希望して広報部ブランド・マネジメントグループのオリンピック・パラリンピックチームに異動した。東京五輪・パラリンピックと車いすラグビーの強化支援が主な仕事だ」
 ――車いすラグビーを強化するうえで、企業の支援はどう役立ちますか。
 「やはり資金面のサポートが大きい。国から強化指定を受けていても、それだけでは足りない。代表チームの合宿といっても、かつては2カ月に1回程度、週末を含めて3~4日間できるかどうかだった。(支援を受けた結果)16年からは月に1回、1週間程度の合宿ができるようになった」
 ――選手の個人的な負担は大きいのですか。
 「競技で使用する車いすは自腹だが、1台百数十万円するうえ、試合で激しい当たりを繰り返すため2~3年で買い替えなければならない。しかも代表チームの合宿に参加するには、遠くは北海道や沖縄から飛行機で移動する必要がある」
 「僕がアテネ大会を目指していたときは、福島県楢葉町にあるサッカー施設『Jヴィレッジ』を合宿の練習に使っていた。遠くから来る選手の負担を軽くするため、できるだけ皆で車をライドシェア(相乗り)していた。羽田空港から福島まで乗せていったり、福島から選手の自宅がある新潟まで送っていったり。どうしても僕が金曜に仕事を休めない場合は、木曜の夜中に福島まで選手を送った後、東京に戻って金曜の昼に仕事し、土日の合宿に参加するということもあった」
 ――当時は会社もあまり応援してくれなかったんですね。
 「いやいや、なかったというと語弊がある(笑)。たとえばパラリンピックに出場するには2週間は休みをもらわなければならないが、快く送り出してくれた。ただ競技全体でみれば、自分たちの趣味の延長という感じで、世の中に伝わり切れていなかった」
 ――東京パラリンピックでメダルを取れば、どういう効果が期待できますか。
 「認知度が上がって、メディアなどに取り上げられるようになれば、ちょっと(試合を)見に行ってみようかなという人が出てくる」
 「日本の競技人口は100人くらいで、(競技団体のウィルチェアーラグビー連盟に加盟している)チームは11しかない。最も普及している米国では五十数チームあることを考えると、もう少しチームが増えてもいいかなと思う。観客も障害のある人が頑張っている姿をみて、何かを感じてもらえるのではないか」
 ――その「何か」とは、どんなことですか。たとえば三井不動産が車いすラグビーの支援を始めて、社内に変化はありましたか。
 「社員同士がより近くなってきた感じがする。互いにその人の身になれる、同じ目線でものをみられるというイメージだ。先日は都市開発の人が僕のところに来て、車いすに乗って日本橋を一緒に回ってほしいと頼んできた。そこで別の車いすに乗ってもらい、段差や勾配について話し合った」
 「実際に体験するのはとても大事なことだと思う。正直に言えば、僕も交通事故にあうまで、車いすの人のことはぜんぜん目に入らなかった。祖父が半身不随で車いすに乗ってはいたが。それが自分の身になって初めて段差や傾斜の大変さがわかった」
 ――三井不動産は街づくりを手がけていますが、日本にはまだバリアが残っていますか。
 「いや、すごく良くなってきていると思う。海外と比べても、ハードの面では追い付いてきている。逆にソフトというか、心のバリアフリーのようなものが東京五輪・パラリンピックを契機に醸成されればいいなと思う」
 ――そのために私たちは何をしたらよいのでしょうか。
 「僕は車いすに乗ってこうして動けるし、仕事もさせてもらっている。だから、できるだけ表に出て人の目に触れたり、スポーツをしたり、仕事でいろんな人と関係を持ったりしようとしている。そうすることで受け入れる側の意識も変わってくる。会社の同僚でも、段差に普通に気づいたり、近くにトイレはあるかなと普通に考えたりしてくれる」
 ――確かに相手のことをよく知らないと、声をかけることもためらわれますね。
 「一口に障害といってもひとくくりにはできなくて、なかには家族が外に連れて行くという人もいる。(そういう人を見かけたときに)第三者として『大変ね』と思うだけでなく、何か困っていることはあるはずだから、押しつけでない言い回しで、何ができて、何ができないかを聞いてあげるのが一番いいと思う」
 ――日本と海外を比べると、車いすの人との接し方に違いはありますか。
 「たとえば僕が電車に乗るとき、日本では事前に駅に連絡して指定された時間に行けば、駅員さんが(介助して)乗せてくれる。安全面ではパーフェクトだ。もっとも電車とホームの間が離れていない駅で、僕がぴょんと電車に飛び乗ろうとしたら、駅員さんから『駄目、駄目』と降ろされたこともある」
 「遠征などで海外に行くと、日本のような駅員さんはいない。それでも僕が電車に乗りたいということが周囲に伝わると、乗客が近くの箱から勝手にスロープを出してきて、ホームとの間に渡してくれる。海外では、健常者、障害者にかかわらず、自己責任の原則がある。日本では、問題を起こしたくないので、乗客は無理に関わろうとしないし、駅員さんも必要以上に丁寧にやる面がある。もう少し肩の力を抜いた感じになれば、触れ合う機会が増えるかなと思う」
 ――障害者スポーツ支援のため、三井不動産として今後どんな活動をしていきますか。
 「デベロッパーとして、健常者と障害者が触れあう場を提供する。昨年から『ららぽーと』のような商業施設で、パラリンピックの競技を体験できるイベントを開いている。今年7月には地元(東京都中央区)の小学校で車いすラグビーの体験会も開く。社内でも車いすラグビーを知ってもらうための活動をしていて、大きな試合があるときはバスツアーを企画し、社員に参加を呼びかけている」
 ――日本の社会のなかで、車いすラグビーをどんな存在にしていきたいですか。
 「すぐにメジャーになるのは難しいと思う。ただ障害のある人もない人も一緒にプレーできるようになるといい。ニュージーランドなどでは、すでにそうした大会が組まれている。車いすラグビーのルールでは障害の程度によってメンバーに点数をつけて、1チームの合計点数を一定以内に収めなければならない。正式な大会は1チームの点数が決まっているが、その基準を緩めればいろんな人が参加できるようになる」
福井正浩 1965年、東京都生まれ。91年三井不動産入社、ビルディング本部に配属。在職しながら2004年アテネ・パラリンピックにウィルチェア(車いす)ラグビーの日本代表主将として出場。17年4月から広報部オリンピック・パラリンピックチームで勤務。
 日経からのお知らせ 日本経済新聞社は6月1日、2020年東京五輪・パラリンピックを起点とした日本経済の飛躍を考える「第1回日経2020フォーラム」を日経ホール(東京・大手町)で開催します。大会を支える企業の役割についてパナソニックの長栄周作会長が講演するほか、三井不動産の小野沢康夫取締役専務執行役員らによるパネル討論も予定しています。フォーラムでの講演やパネル討論は日経が運営する映像コンテンツサイト「日経チャンネル」でライブ配信します。

最終更新:5/26(金) 7:47
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