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北海道・未来へ続く鉄路

5/26(金) 15:30配信

旅行読売

ライフワークとして道北を撮り続ける写真家が北海道の鉄道への思いを語った。

 1985年、高2の夏。廃止を間近にひかえた北海道のローカル線をカメラに収めるため、北海道ワイド周遊券を片手に全道一周の旅に出た。
 当時の北海道には、今では信じられないほどの鉄路が存在し、数多くの市町村が鉄路で結ばれていた。国鉄がJRへと変わる分割民営化の前後、二十数路線もの道内赤字ローカル線が姿を消した。その距離は実に1300キロ。そこには、今であればリゾート列車が走るにふさわしい絶景を擁する鉄路も数多く存在した。
 道内の風光明媚な路線を乗り歩きながら迎えた14日目。今はなき国鉄羽幌(はぼろ)線の主要駅・羽幌15時7発の幌延(ほろのべ)行きに乗り、日本最北端の街・稚内をめざした。青く晴れ渡った空の下、日本海の彼方に姿を現した利尻富士は、次第に傾いてゆく太陽の光を浴びながらその色彩を変え、稚内の手前、抜海(ばっかい)―南稚内駅間の絶景ポイントでは紫色に染まり、10代の私の心に強烈な印象と感動を刻み込んだ。昭和の終わりから平成の初め、道北(北北海道)を走るほとんどの路線は廃止されてしまったが、利尻富士を筆頭に数多くの絶景スポットを有する風景や、現地の鉄道マン、駅前の喫茶店、宿を営む人たちに魅了され、私は今も道北を撮り続けている。
 分割民営化から30年、北海道の鉄道は年とともにその元気を失い、現在、北海道のほぼ右半分、JR北海道の営業路線の半数にあたる約1200キロの路線(宗谷、石北、釧網、根室本線など)が存亡の危機にさらされている。
 地方の急激な過疎化により利用者が減少し、日々赤字を膨らませている鉄路は、すでにその役割を終え廃止を待つだけなのだろうか。
 答えは“否”である。

道東や道北に鉄道は残るのか――

 この30年、日本社会は大きく様変わりし、鉄道の地域における役割も変わりつつある。最も分りやすい例はJR九州の成功であろう。実は大きな赤字を生み出しているJR九州の鉄道事業部だが、鉄道外の事業(駅ビル・不動産・外食・流通事業)で収益をあげ、分割民営化時に誰もが予想しなかった株式上場を昨年果たした。鉄道事業としては赤字だが、クルーズトレイン「ななつ星in九州」を筆頭に、数多くの地域性豊かなリゾート列車がローカル線とその沿線に光をもたらしている。
 先日、九州のリゾート列車を乗り歩いたが、どの列車も観光客でにぎわっていた。では、この個性的なリゾート列車は、どんな役割を果たしているのか。それは、都市に住む人々や海外からのインバウンド旅行者を、地域の物語や歴史とともに運ぶ先導者であり広告塔なのだ。リゾート列車によってもたらされた人々が、地域に新たな潤いをもたらす。
 それはおそらく鉄道ならではの役割なのであろう。文化を語り、文化を運ぶことに最も長けた交通機関が鉄道なのだ。国内外の新たな観光客を地域へと呼び込む可能性を鉄道は内包している。
 今後もし、道内の廃止候補路線の全てが消えることがあったなら、地域にとって最も打撃となるのは、“ジャパンレールパスのルートから外れる”ことにある。「ジャパンレールパス」は、簡単に言えばヨーロッパ「ユーレイルパス」の日本版だ。購入は外国人に限られるこのパス、21日間JR全線の特急・急行に乗り放題で5万9350円という夢のような日本周遊きっぷで、右肩上がりで利用者が増え続けている。北海道右半分1200キロの路線廃止は、その沿線地域市町村が世界とつながっている血管を自ら断ち切ることにつながる。本州以南には無い、大陸的なスケール感を有する北海道の鉄路のポテンシャルは、これからの時代にこそ花開くと言えるのではないか。
 遠くない未来、数多くの魅力的なリゾート列車が北海道内の鉄路を回遊し、“鉄道復権”のなされる日が来ることを心より願っている。

文・写真/工藤裕之(写真家)

くどう ひろゆき
1968年生まれ。道北を撮り続けている写真家。2011年、北海道廃止ローカル線写真集『追憶の鉄路』(北海道新聞社)を出版。稚内市歴史・まち研究会会員。日本写真家協会会員

※北海道ワイド周遊券……東京都区内発、往復の急行料金、道内の特急・急行20日間乗り放題で3万円弱(学割)という、今では考えられない格安きっぷだった。1998年廃止

最終更新:5/26(金) 15:30
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