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北海道唯一の国宝!中空土偶『茅空』が語りかけるもの

5/26(金) 19:10配信

サライ.jp

文・写真/鈴木拓也

現在、国宝に指定されている「土偶」は日本全国で5体しかない。そのうちの1体は、道南の漁業の町、南茅部町(現函館市)のとあるジャガイモ畑で発見された。地表から30cmほど下から出てきたその土偶は、6つに割れており、両腕は見当たらなかった。

専門家の手によって復元されたその土偶は、高さが約40cm、肩幅が約20cmあり、中身が空洞の“中空土偶”であった。中空土偶としては国内最大で、「その大きさや装飾の素晴らしさ、焼きの精度を上げるための両脚を繋ぐ管の工夫など、あらゆる面で多くの人が目を見張った」という。その考古学的・美的な価値から、1979年に重要文化財に指定され、「南茅部の中空土偶」から2文字を拝借して『茅空』(カックウ)の愛称が付けられた。

中空土偶『茅空』は、スミソニアン博物館や大英博物館など、世界の名だたる博物館で展示されて世界的な人気を集めた後、2007年に国宝に指定された。

そんな北海道初、かつ現時点で北海道唯一の国宝である『茅空』を、函館市縄文文化交流センターに訪ねた。

*  *  *

中空土偶『茅空』を常設展示している同センターは、南茅部一帯の縄文遺跡群を含め、函館市内の様々な遺物を1000点以上展示している一大博物館である。煮炊きに用いられた何十もの土器や、狩猟採集に使われた数々の道具が陳列されているほか、漆文化の発祥のひとつが日本である可能性を示唆する、約9千年前の漆糸製品(複製)も展示されている。

さらに同センターでは、ヒスイの装飾品やアスファルト塊(接着剤として活用されていた)など、北海道の外部との交易があったことを示す考古学的に重要な遺物や、亡くなった子供の足形を押し付けてできた「足形付土製品」のような、縄文人の死生観が垣間見える遺物も展示している。

中空土偶『茅空』は、足形付土版のガラスケースを通り過ぎた最後の展示室にあった。

筆者が間近で見た『茅空』は、がっしりとした肩を持つ逆三角形の体格から勇ましさを感じさせるものの、心持ち右上を向いた顔はひょうきんな印象で、親近感を与えた。およそ3500年前に生きた、集落の長の男性がモデルだろうか?

しかし現地取材に対応してくれた、同センター学芸員の平野千枝さんによると、意外にもこれは女性像あるいは性を超越した中性的な像なのだという。よく見ると、顔の下にはヒゲあるいは入れ墨とおぼしき文様がある一方、胸部は「玉抱き三叉文」による乳房表現がなされ、腹部中央に縦に走る線は、妊娠時にできる正中線に見えた。

誰が何のために作ったのか。今となっては何もわからないが、対面した『茅空』は国宝としての十分な風格と存在感を放ちながら、古代からの無言のメッセージを伝えようとしているかのようだった。

*  *  *

函館を含む道南・道央地方と東北3県(青森、秋田、岩手)は、屈指の縄文遺跡密集地帯で、「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」として世界遺産登録を目指して様々な取り組みを進めている。ご紹介した『茅空』をはじめ、貴重な縄文時代の遺物が展示されている同センターは、その礎石として、今後注目を集めることだろう。

函館市街から少々遠いところにあるが、時間をかけて行く価値はある。

【函館市縄文文化交流センター】
■住所/函館市臼尻町551-1
■電話/0138-25-2030
■開館時間/9:00~17:00(冬期は16:30閉館)
■休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜日)、最終金曜、年末年始
■交通/往路:函館駅前から函館バス「川汲経由鹿部行き」乗車、臼尻小学校前バス停下車、徒歩分(片道1250円)
■公式サイト:http://www.hjcc.jp/index.html

【参考資料】
『函館市縄文文化交流センター ガイドブック』
(函館市教育委員会監修、函館市埋蔵文化財事業団発行)

『土偶のリアル』
(譽田亜紀子著、武藤康弘監修、スソアキコ画、山川出版社)

文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。

最終更新:5/26(金) 19:10
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