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ムーアに捧げる!世界中の男を魅了したスパイよ永遠に --- 尾藤 克之

5/26(金) 16:57配信

アゴラ

英国俳優のロジャー・ムーアが23日、がんのため89歳で亡くなった。スパイ映画「007」シリーズでジェームズ・ボンド役を演じて人気を集め、計7本に主演した。文字通り世界最高レベルのスパイだった。

■では、ジェームズ・ボンドとは何者なのか

フレミングの原作においても、ボンドの生年月日ははっきりしない。「カジノ・ロワイヤル」が発表されたのが1953年。ボンド就任時の年齢を40歳とすれば、現在は100歳を超える超高齢者ということになる。

100歳を超えても超人的な若さと格好良さで私たちを魅了するのがボンドなのかも知れないが、設定には少々無理があった。とはいえ、ボンドは映画の中でかなり無茶振りな設定が多いので年齢の話は野暮かも知れない。

スパイの主な任務は潜入捜査である。よって目立たないほうがスパイ向きとも言えるが、ボンドは背が高くハンサムだ。スーツの着こなしから見につけるアクセサリー、振る舞いもエレガントである。さらに、敵陣営に乗り込んだ際に、ご丁寧に自分の名前を名乗る。「The name is Bond. James Bond」。こんなスパイなど存在しない。

ボンドは、どんな難局に陥っても必ず切り抜けるタフさも持ち合わせている。仕事の仕上げには秘密兵器をつかい華麗なるアクションで敵をやっつける。ボンドの秀麗を帯びた瞳で見つめられると、敵の女スパイでさえイチコロになる。この一連の流れを演じ確立させたのが、ムーアではないかと思う。

ベスト・オブ・ボンドとして人気が高いのが初代のショーン・コネリーである。クールでスマート、フレミングの原作に近い。しかし、2代目のジョージ・レーゼンビーは1作のみで降板する。危ぶまれた007シリーズの危機を、ムーアは新たなボンド像を確立させることで脱する。コミカルな雰囲気を取り入れることで、フアン層を一気に拡大させた。

■ムーアは粋でコメディなボンドを演出する

フレミングの原作では、ボンドの服装は紺色のスーツに海島綿(シー・アイランド・コットン)のシャツが定番である。ネクタイは細身でシンプルなニットタイをあわせる。服装は原則的にスーツが基本だ(ムーアはセットアップも多い)。原作のイメージを損なわないように各シリーズのボンドが独自のエッセンスを加えている。

初代ボンドのコネリーはアントニー・シンクレアのスーツを着ていた。アントニー・シンクレアは、サビル・ロウ(Savile Row)通り隣接するコンジット通りに面している。テイストはコンジット・カットとも呼ばれている。パリやミラノなどのコンチネンタルと呼ばれる様式に近かった。

ムーアはダグラス・ヘイワードを着用した。なお全作品中、白のダブルスーツを着用したのはムーアしかいない。シャツはターンブル&アッサーを合わせる。しかし、ターンブル&アッサーのシャツは安いもので1枚3万円、高いものでは10万円以上だ。生地は硬くごわごわしており、袖が長いため日本人向きではなかった。

サヴィル・ロウ(Savile Row)は、ロンドン中心部のメイフェアにあるストリートのことを指す。オーダーメイドの一流ブランドが集中していることで有名で、日本では「背広」=(サヴィル・ロウ)という言葉の語源となったと言われている。

アゴラ新田氏の投稿、「ロジャー・ムーア死去。さよなら、私が愛した3代目007」(http://agora-web.jp/archives/2026213.html)のなかで、各作品の印象深いシーンを紹介しているが、私が印象に残っているのは女王陛下への忠誠のシーンである。敵につかまり尋問を受ける。「誰の仕業だ!」との質問にボンドは「ユニオンジャック(クイーン)」と答える。国家への忠誠心は相当なものだ。

次ぎのシーンは、ムーンレイカーの一部だが、ボートがホバークラフトになり地上を走り出すなんてそうそう考えつくものではない。しかも、ホバークラフトのデザインはユニオンジャックだ。私は、ムーアのこのような荒唐無稽なシーンが大好きだった。

“Moonraker (3/10) Movie CLIP - Gondola Chase (1979) HD(https://youtu.be/cUX2Mj4SN7o)”
(ホバークラフトのシーンは2分14秒過ぎ)

■ロジャー・ムーアに捧げるレクイエム

007が封切られるとボンドに憧れる中年男性が増殖する。ボンドになりきり妄想を企てるのだ。ボンドのような瞳にはなれないが、身に着けるものをボンドと同じものにすることで少しは近づけるかも知れない。

よし、ターンブル&アッサーのシャツに袖を通し、スーツはムーアと同じ、ダグラス・ヘイワードだ。腕時計はROLEXのサブマリーナ、一流ディナーに舌鼓をしカクテルはマティーニだ。どんなに飲んでも型をくずすことはない。まさに紳士的でクール。もしや、いまここに居るのはボンドではないのかと錯覚する。ところが、周囲の評価は手厳しい。

おかしい、こんなはずではなかった。しかし、ボンドのように背も高くないし(参考までにムーアの身長は185cm)、髪も少々薄くなりぽっこりお腹かも知れない。よく考えれば、ターンブル&アッサーのシャツなんて高くて着心地が悪いだけだ。アストンマーティンのDB5だって60年代のショボイ車じゃないか。

奥さんだって、ボンドガールみたいにグラマラスじゃないが、優しいし、「ジャガイモの煮っころがしなんて最高!」と思う紳士諸君も多いことだろう。まさに、ボンドの人生はお手本であり憧れだが、手に入るものではない。だから、私たちは自然体で生きるのがいい。

ロジャー・ムーアよ永遠に!
You will forever be my James Bond.

尾藤克之
コラムニスト

尾藤 克之

最終更新:5/26(金) 16:57
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