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ジャンルを超えた傑作! イタリア人から観た『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』の魅力

5/26(金) 10:00配信

リアルサウンド

 2016年のイタリア・アカデミー賞「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ」では、主演男優賞、主演女優賞、新人監督賞など、16部門にノミネートされ、7部門を受賞した映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』がとうとう日本の映画館に登場しました。

 些細な窃盗で生計を立てているエンツォは、ある日、追いかけられている警察から逃げるためテヴェレ川に飛び込み、ふとしたきっかけで超人的なパワーを手に入れます。最初は私利私欲のためにパワーを使っていたエンツォでしたが、日本のアニメ『鋼鉄ジーグ』の熱狂的なファンである女性アレッシアの面倒を見ることになり、彼女を守るために正義に目覚めるのです。

 あらすじだけを読むと、本作品はシンプルで型にはまったストーリーのように見えますが、イタリア初のスーパーヒーロー映画として脚光を浴びたうえに、イタリア人観客の中で非常に人気を博した映画です。そして2016年に日本で開催されたイタリア映画祭に上映された際に日本人観客の中でも注目を集めました。一体その人気の理由はどこにあるのでしょうか? また、イタリアの言葉と文化に詳しくない人はどこまでこの映画を楽しめるのでしょうか?

 というわけで、イタリア人の観点から『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』の魅力を掘り下げたいと思います。

■観光客が知らないローマ―トル・ベッラ・モナカ地区とは?

 ローマを訪れたことがある人なら、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』のオープニングで主人公エンツォが走っている道に見覚えがあるでしょう。おっしゃれな下町エリア、トラステヴェレから有名なサンタンジェロ城へ、まさにローマの観光スポットで物語が始まるのです。

 しかし、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』の舞台は、そのようなきれいな街ではなく、ローマ郊外トル・ベッラ・モナカ地区なのです。そのため、本作品で人物たちが話しているのは最初から最後までイタリア語共通語(そもそもイタリア語には標準語という概念があまり当てはまらないが)ではなく、ローマ方言です。しかも、ローマ中心の方言ではなく、郊外の独特な言葉が使われているため、イタリア人にとっても聞き取りにくい部分が少なくありません。

 では、なぜガブリエーレ・マイネッティ監督はそこまでトル・ベッラ・モナカ地区にこだわったのでしょうか? それは、主人公の設定と関係しています。トル・ベッラ・モナカ地区は、ローマの中で特に治安が悪いとされていますが、舞台をそこに設定することで、マイネッティ監督は今まで見たことのないヒーローを作り上げたのです。つまり、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』の世界では、人類を守るのは使命感が強い善良な人ではなく、窃盗で生計を立てているチンピラなのです。

■こんなスーパーヒーロー映画は今までなかった!(以降、ネタバレ要素を含みます)

 スーパーヒーロー映画では、ヒーローだけではなく、ヒロインと敵も欠かせません。『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』が傑作だといえるのは、まさにこの3人の人物、そしてその役を演じた女優・俳優たちのおかげなのではないかと思います。

 まずは主人公のエンツォ(クラウディオ・サンタマリア)。エンツォは子どものときからトル・ベッラ・モナカ地区に住んでおり、「俺には友達なんていない」という口癖からもわかるように、あまり“人間的”な人物ではありません。それゆえに、超人的なパワーを手に入れた彼がそのパワーを私利私欲のために使おうとして、自分も関わっていた麻薬事件で殺害されたセルジョの娘アレッシア(イレニア・パストレッリ)に対しても、同情を示しません。しかし、本作品のヒロインであるアレッシアこそが、エンツォの人生を変え、彼をスーパーヒーローにするのです。

 日本のアニメ『鋼鉄ジーグ』に熱中のアレッシアは、子どものとき受けた性暴力のため精神的な問題を抱えており、『鋼鉄ジーグ』を通じて世界を見ているように描かれています。そのため、彼女の目には超人的なパワーを持っているエンツォが、『鋼鉄ジーグ』の主人公・司馬宙のように映っており、彼が世界の平和を脅かしている邪魔大王国と戦う使命を持っていると考えるのです。

 ところが、エンツォは周りの人に対して無関心で、正義のために戦うなんてまっぴらです。というのは、少年時代の友達を麻薬事件などで失っていた彼は、心を閉ざし、人間関係を拒否しているからです。そのため、アレッシアのこともただの邪魔者だとしか思っておらず、彼女を援護寮らしき施設に連れて行きます。

 しかし、エンツォはそこから逃げたアレッシアと住み始めることになり、彼女と恋に落ち、彼女を守ることが彼の使命となっていきます。そして、彼女の希望に応え、人類を救うために超人パワーを使うことになるほど、映画を通じてエンツォの人物像が変わっていくのです。つまり、一切感情をもたない“非人間”から、お金や恋人などの私利私欲のために戦う超人、そして世界の平和のために全力を尽くすスーパーヒーローまで変身するのです。

 また、アレッシアの人物にも大きな変化が訪れます。性暴力のトラウマを抱いて男性との接触を怖がっていた彼女は、エンツォの過去を知り、彼の“本当の顔”を見ることで自分の恐怖を乗り越えるようになります。つまり、エンツォもアレッシアも過去の檻から逃げることで、本当のヒーローとヒロインになれるのです。トル・ベッラ・モナカ地区の汚い風景ではなく、ローマの象徴であるコロッセオからエンツォが街を見守るように描かれているラストシーンも、郊外における過去からの解放を意味しています。

 では、このようなヒーローは誰と戦わないといけないのでしょうか? エンツォの敵はジンガロ(ルカ・マリネッリ)と呼ばれている不気味な人物です。闇の組織のリーダーであるジンガロは、若い頃にイタリアの有名なテレビ番組に出演し、芸能人になる夢をまだ諦めておらず、そのためには手段は選びません。たとえ、注目を集めるために爆弾でたくさんの人を殺すことが必要だとしても。ジンガロは死にかけたところでエンツォと同じように超人パワーを手に入れますが、当然ながらジンガロはヒーローに勝てるはずがありません。というのは、エンツォと違ってジンガロは、自分の過去に閉じ込められたまま最後まで変化しない人物だからです。彼が歌う80年代のポップ音楽や服装もそれを語っていると思われます。

■“何も恐れずにいつまでも戦ってくれる”ヒーロー

 日本人観客の中でもすぐわかる人が少なくないと思いますが、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』のエンディングソングは、エンツォ役のクラウディオ・サンタマリアが歌う、アニメ『鋼鉄ジーグ』のエンディングのリメイクなのです。80年代に『鋼鉄ジーグ』を観ながら育ってきたイタリア人の中で、この歌を知らない人はいないと言っても過言ではないでしょう。それだけイタリア人にとって鋼鉄ジーグは、“何も恐れずにいつまでも戦ってくれる”ヒーローなのです。

 『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』は、『鋼鉄ジーグ』のファンはもちろん、そうでない人やもともとスーパーヒーロー映画をあまり観ない人にもぜひ映画館に足を運んでいただきたい作品です。“イタリア映画”や“スーパーヒーロー”というジャンルを超えた傑作が、あなたを待っています。

グアリーニ・ レティツィア

最終更新:5/26(金) 10:00
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