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北朝鮮、新型弾道ミサイル「北極星2」型を実戦配備へ――日本への影響は?

5/26(金) 9:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は5月21日16時59分ごろ(日本時間)、同国の北倉(プクチャン)付近から、1発の弾道ミサイルを発射した。ミサイルは高度約560kmに達したのち、発射地点から約500km離れた、日本の排他的経済水域(EEZ)の外の日本海に落下した。

⇒【画像】北極星2型の発射の様子

 米軍や韓国軍などはその後、今回発射されたのは、今年2月にも発射された、新型の準中距離弾道ミサイル「北極星2」型(KN-15)であったとの分析結果を発表した。

 そして翌22日の朝、北朝鮮は国営メディアを通じて、これが北極星2型の発射試験であったと発表。この発射は実戦配備に向けた最終的な試験が目的であったとし、発射試験を視察、指揮したキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長は「百点満点だ」と述べ、北極星2型の量産開始と、部隊への実戦配備を承認した、と伝えている。

 もし北朝鮮が、これから北極星2型の量産と実戦配備を実際に進めることになれば、日本にとって大きな脅威となる。これまで日本を射程に収めていた「ノドン」などと比べ、より実戦向きのミサイルだからである。

◆より実戦向きのミサイル「北極星2」型

 北極星2型(米国はKN-15というコードネームで呼んでいる)は、今年2月12日に初めて発射が確認された、新型のミサイルである。北朝鮮は昨年8月、潜水艦から発射する形式のミサイル「北極星1」号(KN-11)の発射試験に成功しており、北極星2は、この北極星1を陸地から発射できるように転用したミサイルだと考えられている(『気付かれにくく、すぐ撃てる――北朝鮮の新型ミサイル「北極星2型」の脅威』参照)。

 北極星1型、2型の最大の特長は、推進剤(燃料と酸化剤)に固体推進剤を使っている点にある。ノドンやムスダンなど、他の弾道ミサイルが使っている液体の推進剤と比べ、固体推進剤は長期間の保存に向いており、あらかじめ何発も製造して、実戦に備えて保管しておくことができる。

 また、点火すればすぐに飛ばせるため、発射にかかる準備時間が短くできることから、動向を察知されにくく、さらに運用に必要な人員も少なくできるという利点もある。

 こうした理由から、固体推進剤は本質的にミサイルに適した特性をもっている。長年、液体推進剤を使ったミサイルの開発を続けてきた北朝鮮が、近年になって固体推進剤のミサイル開発にも注力し始めたのは、この大きな利点を買ってのことだろう。

 さらに北極星2型は、発射筒(キャニスター)から圧縮ガスで空気でっぽうのように打ち出され、空中でエンジンに点火して飛んでいく、「コールド・ローンチ」と呼ばれる発射方法を採用している。この方法は、敵からの探知を遅らせることができるという利点があり、米ロをはじめ、世界の大半の弾道ミサイルが採用しており、従来の北朝鮮が採用していた、地上でミサイルのエンジンに点火して飛んでいく方法より、より実戦に向いた方法でもある。

◆異例となる夕方の時間帯、湖の近くからの発射

 北朝鮮が北極星2型を発射したのは2回目だが、今回は1回目とは異なり、夕方の時間帯に発射された。

 これまで北朝鮮のミサイル発射、とくに弾道ミサイルの発射は、早朝におこなわれることが多かった。理由は不明だが、日本にとっては朝のニュースに、また米国にとっては夜のニュースの時間帯にあたるため、最も大きな影響が与えられるという理由や、朝日の角度によって写真が映えるというプロパガンダな理由まで、さまざまな推測がされている。

 今回、夕方に発射したのは、おそらく「(朝だけでなく)いつでも撃てる」ということをアピールしたかったからだろう。

 また、発射場所について米軍などは北倉付近としているが、ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮問題研究チームが運営しているWebサイト「38north」によると、北朝鮮が公開した映像などを分析したところ、正確な発射場所はYonphung湖と呼ばれる湖のほとりだったのではないかとしている。実際に映像を見ると、自然豊かな(ミサイルさえなければ)風光明媚な場所から発射されていることがわかる。

 北朝鮮は北極星2型のTEL(移動式の発射車輌)に、履帯式(キャタピタ式)の車輌を採用している。従来の北朝鮮のTELは装輪式(タイヤ式)で、ある程度整備された道路しか走ることができず、それゆえに発射可能な場所も限られていた。しかし装軌式であれば、道路として整備されていないところも走破できるため、これまで発射場所として想定されていなかったところからでも撃てることになる。

 北朝鮮としては、湖のほとりという、おおよそミサイルの発射場所としては向いていないところから実際に撃つことで、「どこからでも撃てる」能力を実証するとともに、映像を公開することで、それを国内外にアピールする狙いがあったものと考えられる。

◆宇宙から青く丸い地球を撮影した意図

 さらに今回北朝鮮は、北極星2型の発射から、機体の分離、そして弾頭分離までの一部始終を撮影した映像を、初めて公開した。

 この映像から、ミサイルが2段式だったことがはっきりした。今年2月の発射や、4月の軍事パレードの際にも、機体の形状や表面の凹凸などから2段式のミサイルではないかと指摘されていたが、それが裏づけられた。

 また、第2段から分離された弾頭部分にはカメラが搭載され、青く丸い地球の映像が撮影された。こうした映像は、ミサイルの開発や試験にとってはあまり重要ではないため、どちらかというと国内外にアピールするために撮影されたものだろう。

 それよりも重要なのは、宇宙空間から映像の送信が可能だということは、ミサイルの飛翔中から、加速度や温度といったデータが送られていたであろうということである。つまり北朝鮮はこれまでも、ただ当てずっぽうにミサイルを飛ばしていたのではなく、毎回きちんとデータを取って開発に活かしていたのだろう。また、それは北極星に限らず、ムスダンや先日の火星12といった、他のミサイルでも同様だと考えるべきである。

 さらにカメラの動きから、弾頭の姿勢制御がおこなわれていることがわかる。つまり大気圏の再突入に向けて、弾頭の姿勢を最適な状態に制御することが可能だということで、ミサイルだけでなく、弾頭の開発にも進展がみられる。

 もっとも、肝心の大気圏への再突入に成功し、なおかつ実戦で使える程度に実用化できているかどうかはわからない。ミサイルが海に着水することが確認されているということは、少なくとも燃え尽きてはいないということを意味するが、それだけでは弾頭として使い物になるかどうかはわからない。ミサイルや弾頭にデータの送信装置がついている以上、再突入後も信号を送信できるように造られてはいるだろうが、実際に送信でき、北朝鮮がデータを取得できているのかもわからない。

 仮に電波が出ているとすれば、日本海に展開している米国や日本の艦艇で捉えることができるため、軍や政府関係者は電波発信の有無、場合よってはそのデータも捉えているはずである。先日の「火星12」型の発射後、米国の高官などから「再突入に成功したとみられる」という見方が出てきたことが報じられているが、もしかすると再突入後の弾頭から出る信号を受信、あるいは分析した上での発言なのかもしれない。

◆脅威となる固体ミサイルの量産

 今回の試験発射の成功を受け、北朝鮮は北極星2型の量産と、部隊への実戦配備をおこなうとしている。試験の回数の少なさや、かの国の品質保証がどうなっているのかといった点から、私たちの基準でいう量産、実戦配備とは、やや意味合いが異なる可能性はあるが、それでも試験発射に成功している以上は、実際に飛来する危険を考えておくに越したことはない。

 北極星2型の最大射程は、準中距離弾道ミサイルに分類される1200~2000kmほどとされるると考えられており、これは北朝鮮から直接、日本全域を狙うことができる数字である。北朝鮮はこれまでも、ノドンやスカッドERなどで日本を射程に収めてはいたが、それがミサイルとしてより適した性能をもつ北極星2型によって代替されることになれば、その脅威は増す。

 もちろん、北極星2型の飛ぶ速度、高度は、米軍や自衛隊などが配備している弾道弾迎撃ミサイルで撃ち落とせる範囲内ではある。しかし、同時に複数発射されれば、その分撃ち漏らす危険は高まる。

 また、固体推進剤のミサイルの技術がさらに進歩すれば、より重い弾頭、あるいは複数の弾頭を積んで、より遠くの米国本土まで飛ばすことも可能になる。実際に北朝鮮は、今年4月の軍事パレードで、固体推進剤の大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられる大型ミサイルを披露している(『ハリボテか? それとも脅威か? 北朝鮮が披露した新型「大陸間弾道ミサイル」の正体』を参照)。

 これらのミサイルの開発が実際におこなわれているのか、どこまで進んでいるのかは不明だが、いずれにしても、北朝鮮の固体推進剤のミサイル開発と、弾頭の開発が大きく進展していることはたしかであり、日本にとっては今日、明日の、そして米国などにとっても近い将来の、大きな脅威になることは間違いない。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】

・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(第2報)(http://www.mod.go.jp/j/press/news/2017/05/21b.html)

・U.S. Pacific Command detects, tracks North Korean missile launch > United States Forces Korea > Press Releases(http://www.usfk.mil/Media/Press-Releases/Article/1188420/us-pacific-command-detects-tracks-north-korean-missile-launch/)

・Lake Yonphung: Launch Site for the Second Pukguksong-2 Missile Launch | 38 North: Informed Analysis of North Korea(http://38north.org/2017/05/pukguksong2_052317/)

・The Pukguksong-2 Approaches Initial Operational Capability | 38 North: Informed Analysis of North Korea(http://38north.org/2017/05/jschilling052417/)

・Pukkuksong-2 | Missile Threat(https://missilethreat.csis.org/missile/pukkuksong-2/)

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