ここから本文です

素顔のホーク・ウォリアー=マイク――フミ斎藤のプロレス読本#010【Midnight Soul編5】

5/26(金) 9:00配信

週刊SPA!

 1992年

 バスの前方には大きなTVモニターとビデオ・デッキが設置されていて、タイガー服部が座っている最前列の席のすぐよこのサイドボードのなかには何百本というビデオが山積みになっていた。

 長時間の移動では、ビデオを観るか寝るかしか時間のつぶしようがない。

 「オレに選ばせてくれ」といってホーク・ウォリアーが立ち上がった。ホークは仕切り屋さんのようなところがある。

 「アクション、アクション。血と肉とカーチェイス!」映画好きのトニー・ホームが大声をあげた。

 缶ビールを片手にホークがゆっくりとバスの前方まで歩いてきて、運転席の後ろにある照明のスウィッチを全部オンにした。バスのなかが急に明るくなった。

 ビデオの山をひっくり返しながら服部とあれこれしゃべっているうちに、ホークがなんとなくこっちを向いた。

「フミ! フミ・サイトーじゃねえか。なんだ、さっきからいたのか? 全然、気がつかなかったぜ。ケンスキーがいるもんだとばかり思ってたぜ。それともなにかい、ずっと知らん顔でも決めこもおうとしてたってわけかい?」

 サイドボードのよこの冷蔵庫から缶ビールを急いで2本つかむと、ホークはこちらに向かって歩いてきて、あいさつ代わりのように軽く――レスラーが軽くやったつもりでもかなり痛い――ショルダーブロックのようにぶつかってきて、それからにっこり笑って冷えたビールの缶をぼくの腕に押しつけた。

 べつに何年ぶりかの再会というわけではないけれど、ふだん着のホークとこうしておしゃべりをするのは久しぶりだ。

 アリーナのバックステージで顔を合わせることもあることはあっても、顔にペインティングをほどこしているときのホークは身も心も戦士Warriorになっているときだ。

 わりとフツーに会話をしているようなところを目撃されてはいけない人たちに目撃されるたりするとやっぱりイメージダウンだろう。だから、ぼくも試合会場ではできるだけ接触しないようにしていた。

 ホークのほんとうの名前はマイク・ヘグストランド。ぼくが彼と初めて会ったのは1983年のことだ。

 ホークはまだキャリア2年のルーキーで、頭のまんなかをきれいに剃り上げた逆モヒカンのヘアスタイルと絵の具を顔じゅうに塗りたくったパンク系のメイクでロード・ウォリアーズという大型タッグチームに変身したばかりだった。

 アメリカの大学の学生だったぼくは、アルバイト特派員として日本のプロレス雑誌に記事(のようなもの)を送るためにカメラマンのまねごとをしていた。

 ロード・ウォリアーズは、人間ばなれした肉体と「シカゴのスラム街出身」「バーの用心棒をしていたところをスカウトされた」というまるでギャング映画の登場人物みたいな架空のプロフィルで売り出し中だった。

 パートナーのアニマルは頭のまんなかを剃り残したモヒカン刈りで、ホーク&アニマルで“路上の戦士The Road Warriors”だ。ふたりはあっというまに売れっ子になって、地元ミネアポリスだけでなくアメリカじゅうをツアーするようになった。

 アメリカでメジャーな活躍をしているスーパースターは、必ず日本――世界でいちばんファイトマネーの高い国――にもやって来る。チーム結成からわずか2年で、ロード・ウォリアーズも破格の待遇で全日本プロレスのリングに上がった。

「アニマルとは最近、しゃべった?」

「電話でちょっとだけ話した。あ、そういやぁジムでも何回か会ってるな」

 つい数カ月まえ、ホークとアニマルは9年間づつけてきたタッグチームを解散してしまった。なんだか、あまりにもあっけない感じだった。(つづく)

※文中敬称略

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

日刊SPA!

最終更新:5/26(金) 9:00
週刊SPA!

記事提供社からのご案内(外部サイト)

週刊SPA!

扶桑社

2017年8月15・22日合併号
08月08日発売

¥440

・[東京VS地方]貧困のリアル
・[情弱ビジネス]騙しの最新手口11連発
・[神戸5人殺傷事件]報道できない裏側
・猛暑の[悪臭スポット]を測定してみた