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人生はもともとグロテスクなもの。自分を汚いと思ってしまう人を肯定してあげる小説って優しいと思う。──「作家と90分」東山彰良(後篇)

5/28(日) 7:00配信

文春オンライン

英語の勉強のために原書で読んだエルモア・レナードが小説を書くきっかけに

――そもそも小説を書き始めたきっかけはエルモア・レナードですよね。映画『ゲット・ショーティ』や『ジャッキー・ブラウン』の原作者。大学卒業後一度就職したけれどやめて大学院に入り直し、論文を書きながら英語の勉強のために原書で読んだのがレナードだったという。

東山 1996年か97年くらいに、辞書を引き引き原書を読んだんです。まともに読んだ初めての小説だったんですよね。ちょうど博士論文を何度も却下されている時期で、2000年に台湾に帰った時に今も仲よくさせてもらっているミュージシャンの人たちと知り合ってスゲーなと思い、自分も何かやりたいなと思い始めて。

――それと、お子さんが生まれるタイミングだったんですよね、たしか。

東山  次男です。それで小説を書き始めたんですが、自分の持ち球としては映画とエルモア・レナードしかなかったので、囚人の脱走劇をレナードの発想で書いてみたんです。

 映画はもともと好きでした。タランティーノもレナードを好きで、売れた後にレナードに電話して「あなたの本を映画化するために生まれてきた」と言って『ジャッキー・ブラウン』を撮らせてもらったと聞いたことがあります。今思うと、『トレインスポッティング』のダニー・ボイルとアーヴィン・ウェルシュも好きでした。『トレスポ』観て感動して本を読んでまた感動して、ウェルシュの本を読めるだけ読んで。ニック・ホーンビィもそうでしたね。『アバウト・ア・ボーイ』や『ハイ・フィデリティ』とか。

――2002年に『逃亡作法 TURD ON THE RUN』(03年刊/のち宝島社文庫)で第1回『このミステリーがすごい!』大賞銀賞および読者賞を受賞します。これも映画の影響があったんですよね。

東山 そうです。『ウェドロック』という未来の刑務所の話で、囚人がランダムにペアになって首輪をつけられていてある程度離れたらどちらも頭が爆発するっていう。だからみんな疑心暗鬼になって逃亡できない。そこから、目が見えなくなる装置を考えついたんです。

――このミス出身ではありますが、ミステリー作家になろうという意識はなかったのですか。

東山 ないですね。自分はプロットを立ててミステリーを書くのは苦手だと思っているので。ミステリーで誰かをびっくりさせられるとは思っていないんですよね。それで今回の『僕ころ』も、誰が殺人鬼なのかという謎で途中までは引っ張れるかもしれないけれど、最後まで引っ張るのはきついなと思って。そんなに引っ張るほどのことかなと思ったんです。後半は少年がどうして殺人鬼になったのかを読ませるようにしました。

――初期の頃はクライムノベルのイメージがありましたが、青春小説の書き手というイメージもありますし、いろんなチャレンジをされてきたように思うんですよね。

東山 その時々の読書にすごく影響されるんですよね。たとえばウサギが主人公の話があるんですけれども、それはたぶん『ドン・キホーテ』を読んだ直後。あれって理性が自由を圧殺する物語だと思うんですけれど、あんなパロディを書きたくなったんですよね。探偵もので、フィリップ・マーロウみたいなものをウサギでやってもいけるんじゃないかと。

――それが『ジョニー・ザ・ラビット』(08年刊/のち双葉文庫)と『キッド・ザ・ラビット ナイト・オブ・ザ・ホッピング・デッド』(14年/のち双葉文庫)ですね。

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最終更新:5/28(日) 7:00
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