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トランプの不法移民対策「国境の壁」が無意味であることの最大の理由

5/28(日) 16:20配信

HARBOR BUSINESS Online

 不法移民排斥を主張するドナルド・トランプが大統領になってから、米国で不法移民の摘発そして本国への強制送還についての話題が注目を集めるようになっている。

 不法移民の40-45%は一時入国ビザで空港から入国し、その後ビザの有効期限が切れても米国に留まり不法移民になるというのが事実で、米国とメキシコの国境を越境して不法入国する者は少ないという。

 その僅かの越境者の密入国を阻止するために220億ドル(2兆4400億円)近くの資金を投じてまで両国間の3000㎞に壁を設けることに反対する米国民は多くいる。

◆無駄を指摘する記者を無視

 この無駄を最初に指摘して話題になったのは米国のスペイン語放送で常に最高の視聴率を維持しているマイアミを本社に置くUnivisionのニュース番組ディレクターでメキシコ移民のホルヘ・ラモスである。彼がトランプの大統領選挙戦中に当時のトランプ候補との記者会見での質問が思い出される。それは次のような質疑応答であった。

ラモス「一つだけですが、質問があります」「移民についての貴方のプランです」

トランプ「OK」「次の質問者は?」

ラモス「トランプさん、一つだけ質問なのです」

トランプ「誰も貴方に質問してくださいと言っていない」「お座りください」「お座りください」「お座りください」

ラモス「No、No、No」「私は一人の市民で、移民者です」

トランプ他の記者を指さして「どうぞ(ご質問ください)」

ラモス「私には質問する権利があります」

トランプ「いや、その権利はありません」「誰も貴方を指名していない」

 このようなやり取りが両者の間で交わされた後に、ラモスはトランプの指示でボディーガードに連れられて記者室から退席させられるのである。その時にラモスは「1100万人を強制送還することなどなど出来やしない」「1900マイル(3000㎞)の壁をあなたが建設することなど出来ない」と声高に言って退席したのであった。

 しかし、ラモスは他の記者たちの間でも、特にラテン系の記者の間では影響力を持つ人物であり、彼のニュース番組は高い視聴率を持っている。彼の存在はトランプも無視できないのである。そのため、ラモスは記者室に戻る事が許された。

 記者室にラモスが戻ると、両者は距離を置いて軽い挨拶を交わしたあと、ラモスは再び質問をトランプに向けて投げたのである。他の記者たちもラモスが質問できる時間を暗黙の中で与えたのであった。

ラモス「あなたの移民プランは意味のない公約でいっぱいです」「米国で生まれた移民の子供に市民権を拒否することなど出来ない」

トランプ「どうしてそれを言うのだ」

ラモス「見識ある法学者の中にはそのようなことはできないと言っている」

 彼の質問時間が長引くのを他の記者たちも了解しているようで、ラモスは質問を続けた。

ラモス「米国に在住許可を持たない人の40%は空港から入国するのであって、メキシコとの国境からではない」

トランプ「私はそうは思わない」

ラモス「2006年のPew Hispanic Centerの報告によると、在住許可のない人の45%は一時入国ビザで入国して、その有効期限が切れた後も在住を続けているということになっている」

 ラモスからレクチャーされたトランプはメキシコ移民を全面的に否定するのではないということを仄めかすかのようにラモスに「私の為にどれだけ多くのラテン人が働いているか知っているか?」と尋ね、そしてラモスからの回答を待つ前にトランプ自ら「数千人だ」「私を尊重してくれている」と自問自答したのであった。(参照:「La Nacion」、「Clarin」)

◆米国機関の調査もラモスの主張を裏付け

 ラモスの発言を証明するかのように、米国電子紙『El Diario NY』が5月22日付で、米国税関・国境取締局(CBP)が50ページに亘る報告書から<2015年10月から2016年9月までの統計で5040万人が空港又は港から入国し、その内の739478人が一時入国ビザの有効期限が切れた後も米国に残留したと発表した>ことを報じた。(参照:「El Diario」)

 この発表に、国家安全保障省(DHS)が説明を加えて、その残留者の中の<110679人はビザの有効期限が切れた後に米国を離れた>と同省は想定していることを明らかにした。そして、残り<628799人が結局不法移民として米国内に留まっている>としている。

 更に同紙は飛行機か船で米国にF、M、I、B1、B2といった一時入国ビザで入国して、その有効期限が切れた後も在住を続けているメキシコ人は300万人と少々いると指摘したのである。現在、米国にはPew Search Centerによるとメキシコの不法移民は<2014年統計で580万人>と推定されている。即ち、ホルへ・ラモスがトランプの前で指摘したように、不法移民のほぼ半数が空港か港から米国に入国しているということを実証しているのである。(参照:「Univision」)

◆無意味な「国境の壁」建設

 また『Televisa News』によると、現在存在している両国の間にある1000㎞の壁を越えて密入国した者は<2010年から2015年の間で僅かに9287人>だというのである。この実態を踏まえれば、壁を建設する意義があるのかを問うことになるのは当然の流れだ。

 それでも、敢えて壁を建設したいとするのはトランプ大統領が「政治シンボル」としてそれを歴史上の記念として残しておきたいのかもしれない。

 NATOの5月25日首脳会議でトランプ大統領がモンテネグロのマルコビッチ首相を片手で後へ払って自分を正面に移動させた行為は世界のリーダー国の大統領として恥ずかしい行動であるとして世界中から非難された。それを平気でできるトランプの知能は正に物事が識別できない子供のレベル。そうであるが故に、メキシコとの国境の壁の建設もそれが意味のないものであることなど理解不能なのであろう。彼の存在を示そうとする政治シンボルとしか思えない。それを容認すればその無駄使いのつけは米国市民が背負うことになる。

<文/白石和幸 photo by Gage Skidmore via flickr(CC BY-SA 2.0)>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

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最終更新:5/28(日) 16:20
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